第3話 奴隷狩りの悲劇
エルナンデ族のキャンプは、星空に包まれた静寂の中、穏やかな夜の息吹を感じていた。
焚き火の炎がぱちぱちと音を立て、暖かな光が大地を照らす。
風が草を揺らし、遠くで小さな夜烏がないていた。
エミリアは父親のイーシャスの隣に座り、その一瞬一瞬を心に刻み込んでいた。
「エミリア、今日は特に星がきれいだね」と、イーシャスは微笑んで夜空を見上げた。
エミリアも父の視線を追い、満天の星々に目を奪われた。
無数の光が、まるで神々の輝きのように彼女を見守っているかのようだった。
「パパ、こんなに星がたくさんあるんだね。」
イーシャスは領きながら、静かに言った。
「お前が生まれた夜も、こんなふうに星が輝いていたんだよ。」
その言葉にエミリアの心は温かくなり、目が輝いた。
「パパ、私たちの部族はこれからもずっと一緒だよね?」
彼女の声には希望と確信が込められていた。
イーシャスは優しく領いた。
「もちろんだ、エミリア。私たちは家族であり、仲間だ。どんな困難があっても一緒に乗り越えていく。そう誓ったんだよ。」
その瞬間、遠くからかすかな音が聞こえてきた。
焚き火の静けさをかき消すような不穏な音だった。
イーシャスの表情が一瞬にして変わり、険しい顔つきで立ち上がった。
「何かがおかしい」
彼の声にキャンプ全体が緊張感に包まれた。
周囲を見渡すイーシャスの視線が鋭く光る。
まもなく、馬の蹄が地面を叩く音が徐々に大きく響いてきた。
それはまるで嵐の前触れのように、不安を煽る音だった。
「来たぞ!」誰かが叫び、瞬時にエルナンデ族は動き出した。
父親たちは武器を手に取り、母親たちは子供たちを守るために急いで周囲を固めた。
しかし、馬に乗った黒い影が砂煙を上げながら猛然と迫ってきた。
数えきれないほどの男たちが、弓矢や剣を振りかざしながら迫る姿に、エミリアは息を飲んだ。
「奴隷狩りだ!」悲鳴にも似た声が上がり、人々は一斉に逃げ出した。
エミリアは震える手でミアを強く握りしめ、父の叫び声に応えるように走り出した。「ミア! ついてきて!」子ども達を守るという一心で、彼女は全速カで駆けた。
しかし、逃げても逃げても、馬の蹄の音は止むことなく追いかけてきた。
すぐ背後で大地が揺れ、恐怖が胸を締め付ける。エミリアは涙を流しながら、ミアの手を引き続けたが、ふと前を見ると、数人の男たちが馬を止めて彼女たちの道を塞いでいた。
「行かせないぞ!」
エミリアは必死に抵抗しようとしたが、彼女の小さな体では大人の男たちの力に敵うはずもな かった。
彼女は地面に引き倒され、腕を掴まれて無理やり引きずられた。
その間、父のイーシャスは男たちに立ち向かっていた。弓矢を放ち、剣を振るいながら、懸命に戦った。
しかし、数の差は圧倒的だった。
彼の奮戦も虚しく、やがてその体は無数の剣に倒れ込んだ。
「エミリア。..逃げろ。生き延びるんだ。」
イーシャスの声が遠くから間こえた。
その声は静かな焚き火の夜に聞いた父の優しい言葉とは異なり、今や血に染まった絶望の叫びだった。
エミリアは声にならない叫びを上げながら、父の姿が地面に倒れるのを目撃した。
彼女の心は引き裂かれ、痛みに満ちたが、もはやどうすることもできなかった。
山賊たちは彼女を見つけ、乱暴に鉄の手枷を嵌め、強引に馬に乗せて引きすり出した。
その無力さに、エミリアはただ泣き叫ぶことしかできなかった。
エミリアとミアは冷たい鉄の檻に閉じ込められた。
鉄の格子が彼女たちを無慈悲に囲み、星空も彼女たちに希望を与えることはなかった。
父の姿も、母の微笑みも、温かな家族の思い出も、 今はすべてが遠い過去のもののように感じられた。
二人は檻の中でお互いを強く抱きしめ、涙を流し続けた。
この檻の外に、自由と希望があるのかさえもわからなかった。
彼女たちがこれからどうなるのか、どんな運命が待ち受けているのか、それは誰にも知る由もなかった。
ただ一つ確かなことは、彼女たちの世界は今、絶望と喪失の中で閉ざされていたということだ。
そして、エミリアの心の中で、父の最期の言葉がこだまのように繰り返された。
「生き延びるんだ…」