短編 クルスカート(魚の皮と葉っぱの素揚げ)
セレスティアの漁港で獲れる魚の皮と葉っぱを揚げる保存食がある。
「クルスカート」は、セレスティアの方言で「揚げる」という意味の「クルス」と、魚の皮を表す「スカート」を組み合わせた名前である。
この保存食は、魚の皮と香り豊かな葉っぱをパリッと揚げることで、風味豊かでカリカリとした食感を楽しむことができる一品で軽い食事としても、長期間保存が可能な非常食としても重宝される保存食として親しまれている。
セレスティアの漁港での滞在中、エミリアは現地の人々との交流を楽しみながら、伝統的な保存食作りを学ぶことに興味を持っていた。
ある日の午後、港の市場で手に入れた新鮮な魚の皮と香り高い葉っぱを手に、彼女は漁村の小さな調理場で保存食「クルスカート」を作り始めた。
エミリアは村の女性たちと並んで、魚の皮を丁寧に下処理し、葉っぱを一緒に油で揚げていく。
揚げたてのクルスカートはパリパリとした食感で、香ばしい香りが立ち上る。
村の子供たちがその匂いに引き寄せられ、エミリアの周りに集まってきた。
彼女は微笑みながら、できたてのクルスカートを子供たちに少しずつ分け与え、楽しそうに味見をしていた。
その時、カレンが調理場に現れた。
彼女の表情は険しい。
「エミリア様、何をしているのですか?」カレンは厳しい声で問い詰めた。
エミリアは顔を上げて微笑んだ。
「見て、カレン。クルスカートよ。村の人たちに教えてもらったの。とてもおいしいわ!」
カレンはため息をつきながら、エミリアに歩み寄る。
「エミリア様、我々は使節団としての任務を遂行中なのです。あなたはこのような些細なことに気を取られている場合ではありません。帝国や連邦との交渉に向けての準備を進めなければなりません。」
「でも、こうして現地の人々との交流を深めることも大切でしょ?」
エミリアは少し反論するような口調で言った。「彼らの文化を理解することで、私たちも新しい視点を得られるかもしれない。」
「それは理解していますが、私たちには限られた時間とリソースしかないのです。エミリア様がもっと効率的に動いてくださらないと、計画が滞ってしまいます。」
カレンの声には焦りがにじんでいた。
エミリアは少し考え込みながら、クルスカートを口に運んだ。
「うん、おいしいわ。カレンもどう?」
カレンはため息をつきつつも、エミリアの差し出したクルスカートを一口食べた。
予想以上に美味しかったのか、一瞬目を見開いたが、すぐに表情を戻した。
「…確かにおいしいですが、任務の重要性を忘れないでください。今夜までに次の目的地への計画を立てる必要があります。」
エミリアは頷き、笑顔を浮かべた。
「わかったわ、カレン。ちゃんと準備するから、少しだけ私にもこの楽しみを味わわせてね。」
その後、エミリアはカレンに手伝わせながら、保存食作りを終えて、真面目な顔で次の任務の準備に取り掛かった。
村人たちと一緒に過ごした時間は短かったが、彼女の心には新たな理解と想いが刻まれていた。
カレンもその姿を見て、少しだけ微笑みを浮かべた。




