表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世主物語  作者: アルドア
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/85

第21話 ヴェルデミナ自治領


ヴェルデミナ自治領はアルディア大陸の北西部に位置し、険しい山々と深い森林に囲まれた静かな地域であった。


かつてこの地にはエルナンデ族という古い部族が住んでいた。

彼らは自然と共生しながら生活し、独自の文化と伝統を持っていた。

エルナンデ族は古くからの森の守り人として知られ、土地の精霊や自然を敬い、森の恵みを得るために絶えず儀式を行っていた。


彼らの生活は慎ましくとも豊かであり、外界との接触も少なかったため、長い間その平和が保たれていた。


しかし、その平和は突然に終わりを迎えた。


大国が拡張政策を強める中で、ヴェルデミナ自治領の戦略的重要性に目をつけ、エルナンデ族の土地を奪おうとしたのだ。


侵略は迅速かつ無慈悲に行われ、エルナンデ族は圧倒的な軍事力の前に抵抗する術を持たなかった。


村は炎に包まれ、彼らの神聖な森は踏みにじられ、多くの者が殺された。


族長を務めるエミリアの父親は侵略者によって虐殺され、わずかな生き残りも捕らえられて奴隷として売られる運命にあった。


その混乱の中、幼いエミリアもまた、その運命に巻き込まれた。


彼女の父は村の戦士の一人でもあり、最後の瞬間まで家族と村を守ろうとしたが、彼もまた命を落とすこととなった。


エミリアは何とか隠れていたものの、やがて侵略者たちに見つかり、彼女もまた捕らえられてしまう。


まだ幼かった彼女には、状況を理解することもできず、ただ恐怖と混乱の中で引き裂かれるようにして連れ去られた。


連れて行かれた先は荒涼とした奴隷市場だった。


エミリアはここで他の捕虜たちと一緒に拘束され、彼女たちを買おうとする商人や貴族たちに値踏みされる日々が続いた。


かつて自然と共に自由に過ごしていた彼女にとって、この環境はまさに地獄そのものであった。無力感と絶望が襲いかかり、彼女の心は深い傷を負っていく。



しかし、絶望の中にもわずかな希望の光は残っていた。

奴隷としての厳しい生活の中で、彼女は少しずつ他の捕虜たちとの絆を深めていった。


彼らもまた家族を失い、故郷を奪われた人々であり、互いに励まし合いながら生き延びようとした。

エミリアはその絆に支えられ、自分の中に芽生えた怒りと悲しみを力に変える決意を固めていった。


ある夜、彼女たちは突然、訪れた機会に逃亡を企てる。

エミリアは神威に目覚め、監禁部屋の壁に

大きな穴を開けてしまう。

他の捕虜たちと見張りの目を盗んで柵を乗り越え、闇の中へと走り出した。


山々と森が彼女たちを迎え入れるかのように静かに佇んでいた。


必死に逃げ続ける彼女たちの背後には、追っ手の怒声が響いていたが、一人一人小さな命が失われていく。


エミリアはなんとかして庇ったが、すでに腕の中で絶命していた。


捕まえようとした瞬間、崖から落ちて川へ流された。

そうして森の中へとある老人が彼女を助けた。




ヴェルデミナ自治領は、エルナンデ族の悲劇の地としての影を落とし続けるが、その地で育まれた彼女の決意と行動が、新たな未来を切り拓く原動力となるのだった。


エミリアはかつての故郷の悲しみを胸に秘めながら、己の運命を切り開くために、さらなる冒険へと歩みを進めていく。



エミリアは、ヴェルデミナ自治領での過去の苦い経験を胸に秘めつつ、この地を再び訪れる決意を固めていた。


彼女が捕らえられ、奴隷として連れ去られたあの忌まわしい日から、エミリアはずっと、エルナンデ族の悲劇の背後にある真実を知りたかった。


なぜ彼らの土地が侵略されたのか、そして誰がその陰謀を仕組んだのか――その答えを求めるための旅だった。



彼女はヴェルデミナの近隣で暮らす人々から話を聞き、この地域で一年に一度「族長会議」が開かれることを知った。


この会議には、アルディア大陸全土から集まる複数の部族の代表たちが一堂に会し、互いの問題や課題を話し合う重要な場であるらしかった。

かつてこの地に住んでいたエルナンデ族もまた、こうした会議に参加していたと伝えられている。


「族長会議で、エルナンデ族の滅亡に関わる何かを知っている人がいるかもしれない……」とエミリアは考えた。


もしかすると、その場には当時の侵略を目撃した者や、真実を隠し持っている者がいるかもしれない。


彼女の決意は揺るぎないものとなり、会議の開催地であるヴェルデミナ自治領の中心部へ向かう。



エミリアたちは会議の開催される村へと向かった。

会議の期間中、村は普段とは異なる喧騒に包まれ、多くの人々が行き交っていた。


部族間の交易品や特産物が並ぶ露店、各部族の伝統的な服装を身にまとった人々、そしてその中心には議事堂があり、族長たちが集う場が設けられていた。


エミリアは、カレンに事前に紹介された商人や部族の代表者たちに挨拶を交わしつつ、自分の目的を慎重に伝えた。


彼女はエルナンデ族の者として、彼らの悲劇の真実を知りたいという意志を隠さず語った。


幾人かは彼女の熱意に心を動かされ、過去に何があったのか、彼女の父親がどのようにして戦ったのかについての断片的な情報を提供してくれた。



そんな中、一人の高齢の族長がエミリアの話を聞きつけて近づいてきた。


彼はエルナンデ族の滅亡について、当時現場にいた者から聞いた話を知っているという。


その族長の名はセオフィラスで、彼は過去にエルナンデ族と親交のあった別の部族の代表者だった。


「君の話を聞いて、かつての友を思い出したよ」とセオフィラスは穏やかな声で語り始めた。

「エルナンデ族が滅びたあの日、私たちの部族も近くにいた。彼らが狙われた理由には、ただの土地の価値以上の何かがある。それが何であるかを知るためには、侵略者の中に潜んでいた真の黒幕を探る必要がある」


セオフィラスの言葉に、エミリアは希望の光を見た。

彼は会議終了後にさらに詳しく話すことを約束し、何人かの他の族長たちを紹介してくれるとも言った。


情報収集を進める中で、エミリアはついにエルナンデ族の滅亡の真相に近づいていった。


その過程で明らかになったのは、アイオニス共和国が掲げていた植民地政策だった。


アイオニス共和国は、かつてヴェルデミナ自治領を含む広範囲の土地を支配下に置くため、武力による侵略と占領を行っていた。


そして、その過程で多くの部族の土地が奪われ、そこに住む人々は奴隷として連れ去られていたという事実が浮かび上がった。


さらに、エミリアは他の部族からの証言を通じて、ある痛ましい事実にも直面することになった。


エルナンデ族の情報をアイオニス共和国に売り渡し、侵略を手引きしたのは、彼女たちと同じ境遇にあった他の部族だったのだ。


彼らもまた、大国の圧力に屈し、自らの家族や同胞を守るために、苦渋の選択を迫られていたという。



エミリアはこの真実を聞いたとき、胸が締め付けられるような痛みを感じた。


自分の家族や部族を裏切る行為が、どれほど辛いものであったかを想像するのは難しいことではなかった。


しかし、それでも他の部族の選択を非難することはできなかった。


彼らもまた、エルナンデ族と同じく、大国の前で弱い存在であり、どうしようもない状況に追い込まれていたのだ。


「大きな国の前で、彼らは家族を守るために選択したんだ…」エミリアはそう自分に言い聞かせることで、心の中で彼らを理解しようと努めた。



真実を受け入れた後、エミリアはかつて父が殺され、自分が捕まった村へと向かった。

そこは今や廃墟となり、誰も住む者のない荒れ果てた場所となっていた。

エルナンデ族の面影は、風に舞う枯れ葉と崩れた家々の残骸だけだった。


彼女は静かに村の中心に立ち、かつて自分が過ごした日々と父の顔を思い出した。


苦い思い出が胸にこみ上げてくるが、それでもエミリアは強い決意を持って前に進むことを選んだ。


「お父さん、私はまだ旅を続けます…私たちの失われたものを取り戻すために」

彼女はそう言って、手に持った小さな花束を廃墟の村の中心に置いた。


花は風に揺れながら、静かにその場に立ち続けた。



エミリアは、重い足取りで廃墟の村を後にした。

しかし、その瞳には新たな希望の光が宿っていた。彼女は、自分自身の過去を乗り越えるために、新たな目的地へと向かって歩き出したのだった。


そうして使節団は廃村から移動しようとする時


彼女はかつてのエルナンデ族の友人、セオフィラスに出会う。

セオフィラスはかつてエルナンデ族と近しい関係にあったが、今ではすっかり老いている。


彼の姿は、まるで何かに苦しんでいるように見えた。彼はエミリアを見つけると、彼女の前に膝をつき、深い懺悔の言葉を口にし始めた。


「エミリア…お主がこうして生きてここにいるとは思わなんだ。族長会議では人目があったから言えなかった。

だが、今だからこそ言わねばならぬことがある」


エミリアはセオフィラスの言葉に戸惑いを覚えた。


かつての父の友人であった彼が、なぜ今になって彼女に懺悔しようとしているのか。


セオフィラスは苦しそうな表情で、重々しく言葉を続けた。


「エルナンデ族が滅んだあの日…実は、ワシが奴らを売ったのだ。

アイオニス共和国に、我が友の居場所を教え、彼らを手引きしたのは、ワシだ」


その言葉を聞いた瞬間、エミリアの心は凍りついた。

彼女が信頼していたはずの友が、自分の部族を裏切り、滅亡へと導いたのだという。


怒りと悲しみが交錯し、エミリアの目には涙が溢れた。



「なぜ、そんなことを…」エミリアは震える声で問いかけた。セオフィラスは頭を垂れ、声を震わせながら答えた。


「家族を守るためじゃった…アイオニスが我が部族をも脅かし、奴隷にすると脅してきたのだ。ワシはその脅しに屈し、友を売るという愚行に走ってしまった…」


彼の言葉は痛々しいほどに真実で、後悔の念が深く刻まれていた。

エミリアは目を閉じ、深呼吸をして怒りを抑えようとした。セオフィラスは続けた。


「ワシの命で償いがつくのなら、この命を捧げようと思っている。どうか許してくれ、エミリア。この罪深い老人を赦すか、裁くか、お主の手に委ねる」


エミリアの決断


エミリアは長い沈黙の後、目を開き、セオフィラスを見つめた。

彼女の目には涙が浮かんでいたが、その瞳には深い思慮と決意が宿っていた。


「セオフィラス…あなたの告白は重い。私たちが失ったものは、あまりにも大きい。あなたの行動が私たちを滅ぼした。でも、今さらあなたを責めたところで、失った命や時間は戻らない」


エミリアは一歩前に進み、セオフィラスの肩に手を置いた。


「私の父も、私も、そしてエルナンデ族の皆も、あなたを恨んでいるかもしれない。でも、同時に理解もしている。大国の前では、誰もが無力だった。あなたの家族を守るための選択を、私も否定はできない」


セオフィラスは涙を流しながらエミリアの言葉を聞いていた。彼の目には、深い感謝の色が浮かんでいた。


「ありがとう、エミリア…それでも、ワシはこの罪を一生背負っていく」



エミリアは頷き、セオフィラスに向かって微笑んだ。

「それでいい。あなたがこの罪を背負い続けるなら、私は前を向いて進み続ける。私たちが失ったものを取り戻すために」


セオフィラスはその言葉を聞いて深く息を吐き、少しだけ肩の荷が下りたように見えた。


エミリアは彼を見つめながら、新たな旅立ちへの決意を固めた。


「さあ、私は行くよ。あなたも、自分の道を見つけて進んでほしい」


こうして、エミリアとセオフィラスはそれぞれの道を再び歩み始めるのだった。


エルナンデ族の悲劇は過去に変わることはないが、それでも未来に向けて進む力はまだ彼らの中に残っている。




エミリアとセオフィラスの重い懺悔と和解のやり取りを見届けた後、エリシアとカレンは少し離れた場所でその様子を見守っていた。


互いに視線を交わし、それぞれの胸に去来する思いを語り始めた。


エリシアの感想


エリシアは冷静な表情でしばらく考え込んだ後、少し深い溜息をついた。


「何というか…人間の弱さって、こういう時に最も顕著に現れるのね。セオフィラスもまた、大国の圧力に屈しただけの一人。それは理解できるけれど、結局は他者を犠牲にしてしまう。それでも彼はその行為を後悔し、罪を背負ってきた」


彼女はエミリアの背中を見つめながら続けた。

「でもエミリアは、その重い現実を受け入れて、赦すという選択をした。彼女の強さと優しさには本当に感服するわ。私なら、そう簡単には赦せないかもしれない」


エリシアは淡々と語っていたが、どこか感情のないような言いぶりであった。


カレンの感想


一方、カレンはその場で立ち尽くし、エミリアとセオフィラスのやり取りに深く感銘を受けている様子だった。



「エミリア様は…本当に強い子だわ。あの場面で怒りや憎しみに囚われるのではなく、理解しようとする姿勢を持つなんて。彼女がセレスティアの希望である理由がわかる気がする」


カレンはさらに言葉を続けた。

「私たちが今いるこの世界は、いろんな理由で不幸や悲劇が起こる場所。それでも、その中で人を赦し、和解の道を選ぶことができるのは、本当に素晴らしいことだと思う。

私はもっと、自分の信じる正義だけでなく、他者の痛みや苦しみを理解できるようにならなければならない」


彼女の言葉はどこか優しさと覚悟に満ちており、エリシアもとりあえず頷いた。




セオフィラスとのやり取りを終えた後、エミリアはその場を離れ、心の中に重い思いを抱えていた。


エルナンデ族の過去の苦難、そして自分自身が奴隷として捕らえられたこと。


すべてが複雑に絡み合い、彼女の心を締め付けていた。


そんな彼女の肩に、そっと手を置いたのはエリシアだった。


彼女は優しく微笑みながら、エミリアを見つめる。


「エミリアちゃん、もう辛い思いはしなくていいのよ。あなたは十分に頑張った。あなたがこの地で見つけた真実や、過去に向き合ったこと、それだけでもすごいことよ。」


エミリアは少し驚いたようにエリシアを見上げた。エリシアの声は、どこか温かく、安心感を与えるものだった。


「エリシア…」


エリシアは続けて言った。

「一区切りはついたんじゃないかしら?それに、私たちにはまだやるべきことがあるわ。次の国へと向かうべきよ。あなたが求める未来のために、もっと前に進まなくちゃ。」


エミリアはその言葉に一瞬ためらったが、エリシアの言葉には力強さと確信があった。


それは彼女にとって、暗いトンネルの中に差し込む一筋の光のようだった。


「そうね…たしかに、私はここで得られるものを得た。過去を知ることも大切だけど、未来を見据えることも大事だものね。」


エリシアは笑顔で頷いた。

「その通りよ。私たちが目指すべきは、あなたがこれから作り出す世界。そしてそのために、次の旅へと向かいましょう。」


エミリアは深く息をついて、エリシアに感謝の笑みを返した。

「ありがとう、エリシア。次の国に向けて進もう。きっと、新しい道が待っているはずだから。」


こうしてエミリアは過去の傷を背負いながらも、新たな目標に向かって一歩を踏み出す決意を固めた。使節団の一行は次の国へと向かい、さらなる冒険と発見の旅を続けるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ