第20話 ライオハルト連邦王国
セレスティア共和国を出発したエミリア率いる使節団一行は、アルディア大陸の中央部に位置する最も大きな国、【ライオハルト連邦王国】を目指した。
広大な平野と豊かな自然に囲まれたこの国は、
複数の君主と各都市国家の代表が集まる
【最高議会】によって統治されている。
各国の評議会で選ばれた代表たちが集い、国家の重要な決定を下す議会政治の中心である。
使節団の目的は、ライオハルト連邦王国の中でも重要な商業都市の一つに住む、商会ギルドの会長との会談だ。
彼は最高議会の一員でもあり、王国内で影響力を持つ商人の一人だ。
エミリアたちは事前にアポイントメントを取り、商業都市への訪問準備を進めていた。
商業都市「アストレール」
エミリアたちが目指す都市は、「アストレール」と呼ばれるライオハルト連邦王国の中でも特に商業が盛んな都市である。
広大な市場と多くの商人たちが集うこの都市は、交易と経済の中心地として栄えている。
大通りには商店が並び、様々な商品や品物が行き交い、賑やかな雰囲気が漂っている。
アストレールの街並みは、美しい石畳の通りや豪華な商館、歴史的な建物が立ち並び、訪れる者たちを魅了してやまない。
使節団の一行は、セレスティアからアストレールまでの道中を慎重に進む。
ライオハルト連邦王国に近づくにつれ、緑豊かな丘陵地帯と広がる農地が目に入り、穏やかな風景が広がる。
連邦王国の治安は比較的良好だが、辺境の村々には独自の文化や風習が残っており、エミリアたちは注意深く周囲を観察しながら旅を続ける。
いくつかの宿場町を経て、数日後、ついにアストレールの門前に到着する。
壮大な城壁が都市を取り囲み、門の両側にはライオハルトの紋章が刻まれている。
門番に使節団の訪問目的を告げると、すぐに通行を許され、市内に入ることができた。
途中、路地の裏の方で子供達がボロボロの状態で、バケツの中のゴミを漁っているのが見えた。
目的地につくと、エミリアたちはギルドホールへ向かった。
そこには商会ギルドの会長、ベルンハルト・フィッツロイが待っていた。
彼は豊かな白髪と立派な髭をたくわえた中年の男性で、鋭い目つきと落ち着いた物腰でエミリアたちを出迎えた。
会長はエミリアの一行に席を促し、連邦王国とセレスティア共和国の関係について話し合う準備を整える。
ベルンハルトは商業と政治の両面で多くの経験を持つ人物であり、ライオハルト連邦王国における商業活動の拡大を目指す一方で、各都市国家間の調和と協力を促進する役割を果たしている。
彼はまず、エミリアたちの訪問の目的について尋ね、双方にとって有益な協力関係を築く方法を探るため、具体的な意見交換に入る。
エミリアたち使節団は、セレスティア共和国との交易や技術交流、文化的な協力について提案し、ベルンハルトもまた連邦王国内での商業の発展と安定を望んでいることを伝える。
彼の話からは、ライオハルト連邦王国がいかに多様な勢力をまとめ上げているか、そしてそれが商業活動の基盤となっているかが伺える。
使節団とベルンハルトの会談は、両国にとって新たな道を開くための重要な一歩となる。
エミリアは、この機会を通じて思っていた疑問を投げかける。
旅路の途中、エミリアたちはアストレールの裏路地で何人かのストリートチルドレンと出会った。
薄汚れた服をまとい、やせ細った体つきの彼ら彼女たちは、無邪気な笑顔を浮かべてはいるものの、その目には疲れと飢えが見て取れる。
通行人を物乞いで追いかけたり、小さな盗みを働いたりして、何とか一日を生き延びるための手段を模索している様子だった。
エミリアはこの光景に心を痛め、「なぜこのような子供たちがいるのか?」と、ギルドの会長ベルンハルトに問いかけた。
ベルンハルト・フィッツロイはその問いに少し表情を曇らせ、やや重い口調で話し始めた。
「街や都市が発展するということは、人が集まるということです。
アストレールのような商業都市では、商売で儲けようとする者や、建物を建てるための仕事を求めて、各地方から多くの人々が集まってきます。
彼らは新たな生活を求めてやって来るのですが、うまくいくとは限りません。」
エミリアはじっと彼の話を聞きながら、街の活気の裏側に隠された現実を感じ取っていた。
「商売で失敗した者、建設計画が中止になり仕事を失った者…彼らの中には、生活の基盤を失ってしまう者もいます。
家族を養えなくなり、やむを得ず子供を置いて故郷に帰る者もいれば、逆に子供を労働力として使い、自分は働かずに暮らす者もいます。
そういった結果が、こうしたストリートチルドレンを生む原因となっているのです。」
ベルンハルトの声には、責任を感じているような色が含まれていた。
彼は商人として、この街の成長を推進してきた一方で、その成長が招いた陰の部分を直視している。
「私たちも手をこまねいているわけではありません。
いくつかの施設で子供たちを引き取ったり、職業訓練を行ったりもしていますが、それでも限界がある。
都市部では、同じような状況が少なからず存在します。」
エミリアはベルンハルトの話を聞きながら、都市の繁栄と犠牲の関係を考えさせられた。
彼女の心には、どうすれば彼らを救えるのかという問いが浮かび上がった。
彼女は、これからの旅の中でこの問題についてさらに深く考える必要があると感じた。
エミリアは、使節団の一行として、彼らストリートチルドレンに対して何ができるのかを考え始めた。
彼女は次の目的地である東部へと向かう前に、商業都市の影で苦しむ者たちのために何か行動を起こすべきかもしれないと考えた。
そして、それは彼女自身の理想の国づくりへの一歩となるかもしれない。
エミリアはベルンハルトから聞いた話を心に留め、宿に戻った。
彼女はどうにかしてこの問題を解決する糸口を見つけたいと考え、カレンやエリシアに相談することを決めた。
宿の一室で、カレンとエリシアが待っていた。
エミリアは彼女たちの前に座り、ストリートチルドレンの現状と、それに至る社会背景についてベルンハルトから聞いた話を伝えた。
「街の繁栄と引き換えに、家も仕事もなく、犯罪まがいのことをして生活している子供たちが増えている。彼らを助けるためには、何か根本的な解決策が必要だと思うの。どうすればいいか、あなたたちの意見を聞かせてほしいの」
カレンの意見
カレンは腕を組み、少し考え込んだ後、厳しい口調で話し始めた。
「確かに、こういう問題はどの都市にも存在する。でも、解決するのは簡単じゃないわ。
都市が発展すればするほど、格差や貧困が生まれるのは避けられないの。
それに、子供たちを支援する施設があっても、すべての子供を救えるわけじゃない」
彼女は冷静に続けた。
「もっと多くの支援が必要だし、長期的な計画がなければ意味がないわ。
だけど、私たち使節団にはそこまでの力も時間もない。今は慎重に行動するべきじゃないかしら?」
エリシアの意見
エリシアは、いつも通りの穏やかな笑みを浮かべながら話を聞いていたが、エミリアの訴えには少し感慨深げな表情を見せた。
「エミリア、あなたの優しさは素晴らしいわ。でも、根本的な解決策は簡単には見つからない。今は一度、どんなに小さなことでも良いから、目の前の問題に取り組むべきだと思う。例えば、私たちが今出会った子供たちに対して、少しでも彼らが自立できるような支援をすることができれば、それだけでも価値があるわ」
エリシアは柔らかな声で続けた。
「都市全体の問題を解決するには、まず私たちができる範囲で動いてみることが大切。
ひとつずつ、小さな希望を与えることから始めてみてはどうかしら?」
エミリアはカレンとエリシアの意見を聞きながら、深くうなずいた。
彼女の心には、急いで結果を求めるのではなく、少しずつでも状況を改善するための行動を取ることの大切さが浮かび上がった。
「ありがとう、カレン、エリシア。まずは私たちができることから始めてみるわ。
もしかしたら、商会やギルドと協力して、子供たちのための簡単な仕事や学びの場を提供する方法を考えられるかもしれない。
それに、各都市で他にも同じ問題があるなら、対策を共有することもできるかも」
エミリアは決意を新たにし、使節団の次の行動を計画し始めた。
彼女の心には、どんなに困難な道でも、希望を持って進むことの重要性があった。
使節団一行は、引き続き東部への旅を続けながら、貧困や格差の問題を解決するための糸口を探ることを決めた。
数日後、エミリアはストリートチルドレンたちの間を歩き回り、一人ひとりに話しかけては、「何か私にできることはない?」と問いかけた。
彼女は綺麗な身なりをしていたため、子供たちは皆、どこかのお嬢様の気まぐれだろうと冷ややかな目で見ていた。
エミリアは前日に市内の支援施設や炊き出しの団体を訪れて、彼らが子供たちに提供できる食料や支援の場所について聞いていた。
しかし、その情報を子供たちに教えようとすると、多くの子供たちが首を横に振り、拒否した。
「そんなところに行く気はない。自分のことは自分で何とかする」と、1人の少年がつっけんどんに言った。
少年の目には警戒とプライドが混じり合った光が宿っている。
エミリアはその態度を見て、少しだけ考え込んだ。そして、優しいけれど決して譲らない表情で言った。
「でも、あなたたちのやり方は正しいとは言えないわ。誰かに迷惑をかけたり、危険なことをして生活するのは、長続きしない」
少年は険しい顔を崩さず、
「何がわかるんだ、よそ者が」と吐き捨てるように言った。
だが、エミリアはその言葉を聞き流し、少年の腕を掴んで言い放った。
「いいえ、私はわかってるわ。だからこそ、少しでも安全な場所に連れて行きたいの。
いかないと言うのなら…無理やりでも連れていく!」
少年が抵抗しようとするが、エミリアの握力は思った以上に強かった。
彼女は一切の容赦をせず、少年を連れて行こうとした。他の子供たちは驚いて見守るしかなかった。
「放せよ!俺は行きたくないって言ってるだろ!」少年は怒りに震えながら抵抗したが、エミリアの手は離れなかった。
「私だって好きでこうしているわけじゃない。でも、今はあなたたちを助けることが必要だと思っているの」
とエミリアは毅然とした声で返す。彼女の目には揺るぎない決意が宿っていた。
しばらくして、エミリアは少年を連れて支援施設の前に到着した。
他の子供たちは彼女の強引さに戸惑いながらも、その場を離れずに見守っている。
エミリアは施設のスタッフに挨拶をし、「この子に少し手を貸してあげてください」と頼んだ。
少年はまだ抵抗の意思を見せていたが、エミリアの強い意志を前にして、しばらくして観念したように肩を落とした。
「…わかったよ。でも、信じられないからな」と、少年はつぶやいた。
エミリアは微笑んで、
「信じるかどうかはあなた次第よ。でも、少しでも良い方向に向かうなら、それでいいの」と答えた。
この日を境に、エミリアは少しずつ子供たちの信頼を得るために努力を続けることを決意した。
彼女の行動が子供たちの未来を変えるかどうかはまだ分からないが、一歩を踏み出すことの重要性を感じていた。そして、エミリアの強引な行動が、やがて子供たちの心を動かす小さなきっかけになるのかもしれない。
エミリアはストリートチルドレンたちを支援施設に連れて行っただけでなく、積極的に彼らの生活を改善するための行動を始めた。
施設で、彼女は自分の得意とする保存食作りを教え、子供たちと一緒に時間を過ごしながら、料理や遊びを通じて彼らとの信頼関係を深めていった。
エミリアは簡単に手に入る材料を使った肉や魚の保存食の作り方を教えた。
こうした知識は、施設の食料庫が豊富でないときにも役に立つものであり、子供たちは新しい技術を学ぶことで少しずつ希望を持つようになった。
さらに、エミリアはベルンハルトに頼んで、地元の支援物資提供者のリストを作成してもらった。
そのリストを手に、彼女は子供たちと一緒に市内を巡り、商人や市民から物資を集めた。
彼女の誠実な姿勢と真摯な取り組みに心を動かされ、物資を提供する人々も少なくなかった。
そして、集まった物資で大規模な炊き出しを行い、子供たちと共に食卓を囲んだ。
彼らは初めて、温かい食事を皆で共有し、笑顔が広がった。
一方、エリシアは別のアプローチを取っていた。市場や街角で、人々から「働かない者たち」の噂を集め、その背景を探った。
多くの者が仕事を失う理由には、上司との不和や、仕事に対する適性の問題、あるいは単純にやる気を失ってしまったなど様々な事情があった。
エリシアは「夢現交錯」の能力を駆使し、彼らに現実と夢の境界を曖昧にさせることで、再び働く意欲を生じさせた。
彼らの心の中にあるネガティブな思いを「夢」だと思い込ませ、問題が解決されたように感じさせたのだ。
これにより、多くの人々が新しい気持ちで再び仕事に取り組むようになった。
カレンは使節団の代表として、ライオハルト連邦王国の最高議会に出席した。
会議の場で、彼女は孤児たちの支援の拡充を強く訴えた。
既存の制度の不足を指摘し、より具体的な政策変更と支援の拡充を求めた。
連邦側はもちろん、見返りとしてセレスティア共和国からの何かしらの支援を要求した。
これに対して、カレンは冷静かつ的確な交渉を展開し、双方が納得できる形での合意に至った。
彼女の交渉力により、孤児支援は大幅に強化されることとなり、エミリアたちの活動の後押しにもなった。
エミリア、エリシア、カレンのそれぞれのアプローチが功を奏し、ストリートチルドレンや働く意欲を失った人々に新たな希望が芽生え始めた。
エミリアの優しさと行動力、エリシアの独創的な神威の使い方、そしてカレンの冷静な交渉術が、ライオハルト連邦王国の人々の心に少しずつ変化をもたらしていった。
そして、使節団は新たな一歩を踏み出し、次の目的地へと進む準備を始めるのだった。
未来への道筋はまだ不確かだが、それぞれの行動が小さな光となって、少しずつ大きな変革への希望となっていた。




