第13話 天帝の会合
ミネアと謁見の間にて
その場所はまるで神話の世界から切り取られたような美しさを持っていた。
天井を見上げれば、細やかな彫刻が施された柱が高くそびえ、光を受けて煌めく水晶の天井が視界に広がる。
幾重にも重なる装飾がひとつの芸術作品を成しており、その荘厳さに足を踏み入れた者は思わず息を飲むだろう。
謁見の間に差し込む光は、まるでこの場所が天上の領域であるかのように錯覚させる。
エミリアはこの場所について、いくつかの話を聞いていた。
薄いベールの向こう側に、この国の元始天帝であるミネアが座しているという。
ベール越しに見えるのは、ただぼんやりとした人影にすぎないが、それがかえって彼女の神秘性を高めていた。
ミネアは王族の王位継承の立会や王の任命を取り仕切る神聖な存在である。
エミリアは、この瞬間がどれほど重要なものであるかを改めて実感した。
「よくぞ参られてた。余はそなたが来るのを待ち望んだぞ」
威厳に満ちた声が静寂を破り、謁見の間全体に響き渡った。
ミネアの声は、ただの言葉とは思えないほど重みがあり、空気が一瞬で引き締まったように感じられた。
目の前のベールの向こうにいる彼女が、どれほど偉大な存在であるかを再認識させられる。
「表をあげよ」
その言葉に促され、エミリアは恐る恐る顔を上げた。
目の前には薄いベールがあるが、その向こうにいるミネアの存在感は圧倒的だった。
エミリアの心臓は早鐘のように鳴っていたが、彼女はなんとか声を振り絞るようにして答えた。
「ミネア様にお会いできる日が来るとは、夢にも思いませんでした。様々な苦難を乗り越えて参りましたが、こうしてお目にかかることができ、誠に光栄でございます」
エミリアの声は震えていたが、そこには真摯な感謝と敬意が込められていた。
ミネアはしばらく黙ってエミリアの言葉を聞いていたが、その姿勢にはどこか優しさと慈愛が感じられた。
儀式的な言葉が交わされ、周囲に漂っていた緊張感が少しずつ和らいでいく。
その後、儀式が終わると、エミリアは少しほっとした。
だが、これからが本番である。
カレンから聞いた話では、この後、選りすぐりの者たちによる晩餐会が開かれるという。
そしてその場では、今後の国の行方について、そして天帝ミネアについての教えを賜ることができるらしい。
「アリーシャよ、入ってくると良い」
ミネアの声が再び響く。
エミリアは一瞬、誰がが呼ばれたのかと錯覚したが、すぐに次の者の名前だと理解した。
彼女は静かに一歩退き、その場を去る準備をしながら、これから何が待ち受けているのか期待と不安で胸がいっぱいになった。
壮麗な謁見の間に流れる時間は、どこかゆったりと、それでいて重みを持っている。
そうしてアリーシャが堂々と謁見の間に入ってくる。
このこともカレンから聞いていた。
アリーシャの統治する大陸の混沌についてだ。
アリーシャが統治する大陸は、混沌の中にあった。
無数の国々が争い、覇権を目指していた。
いかにミネアが不可侵の契りを結んでいたとしても、各国は様々な手段を講じて今回の会合を実現させたのだった。
アリーシャの大陸は、特に統治が困難な地域が多かった。
北部では貴重な資源が豊富に取れるが、寒冷な気候のため農産物が育ちにくく、港が凍結しやすい。
その結果、飢饉が頻繁に発生していた。南部は比較的温暖で作物も育ちやすいが、資源が乏しいため経済が貧しくなる。
さらに、大陸の中心には一つの強大な帝国が存在しており、高い関税を課していた。
このため、物流が滞り、各地の経済活動が制約される状況が続いていた。
アリーシャの統治下での混乱は、こうした地域的な問題に起因していた。
彼女の自由奔放な性格は、この複雑な状況をさらに悪化させているように見えた。
ミネアはこの混乱を解消するために、厳格な指導と支援が必要であることを痛感していた。
-謁見の間にて-
ミネアはエリシアに対して、厳しい説教を行った。
「アリーシャ、あなたの大陸は混乱の中にある。天帝としての責任をもっと自覚しなさい。あなたが導かなければ、この大陸の人々は苦しみ続けることになるのだ」
ミネアの厳しい説教に対して、アリーシャは微笑みを浮かべながら、不可侵の契りについて取り上げた。
「あら、天帝同士の統治のやり方に不干渉ではなかったのでしょうか?」
その言葉に周囲の空気が一気に緊張した。
アリーシャは続けた。
「確かに、様々な労を消費してわたくしとの会談を設けたかもしれませんが、戦争も悪くはないものですよ」
彼女の表情には底知れぬ狂気に近い感情が浮かんでいた。
「戦争のおかげで貴重な鉱物が有用に活用されています。鉄などは武器に消費されやすく、また硝石を用いた爆薬で鉱山開発は進んでおり、奴隷の運用も盛んでありますよ。
特に農楽園では必要不可欠です。
民衆も望んで採択された結果ですので、
天帝が出しゃばるのもどうかと思われますわ」
ミネアの眉がわずかに動いた。彼女は冷静な声で答えた。
「アリーシャ、戦争がもたらす苦しみを軽視してはなりません。天帝としての責務を果たすことこそが、我々の使命です。」
アリーシャは肩をすくめながらも、微笑みを絶やさなかった。
「そうかもしれませんが、民衆の意志を無視することもまた問題ではありませんか?と聞いてるだけですよ。
私は彼らの声を聞いているだけです。」
激しい議論の中によくわからないまま
この謁見の場に連れて来られたエミリアは狼狽えるだけだった。
しかし、エミリアはこのやり取りを見守りながら、複雑な思いを抱えた。
彼女自身も奴隷の身分を過ごしていた為、そこだけは心情的には反対だ。
彼女はアリーシャの自由奔放な性格とミネアの厳格さの間で、何が正しいのかを見極める必要があると感じた。
アリーシャの言葉に一理あると感じる部分もあったが、戦争がもたらす悲劇を見過ごすことはできない。
ミネアはアリーシャの言葉を深く考えた。
確かに、ここで天帝としての介入は民衆の意思を無視する結果になるかもしれない。
それを無視して天帝の権限で停戦に結びつけたとしても、再燃する火種は残るだろう。
さらに、外的圧力をかけるための世界統一機関の敷設には、他の天帝達に疑問を抱かせて難航になっている。
民衆の意思決定による世界統一機関があれば、停戦合意への道筋はより明確になるのだが…。
ふと、ミネアの目はエミリアに向けられた。
天帝候補検索隊でようやく見つけられ、
まだ神威も安定してないと報告もある。
アリーシャを呼んで詰問しても、彼女の自由主義いや奔放主義が強すぎて話にならないとわかっていた。
しかし、エミリアはまだ子供だ。
それならば、アリーシャにエミリアを預け、勉強目的で各国を旅をさせるのはどうだろうか。
エリシアには責任感を持たせ、エミリアには現実を知ってもらう。
「アリーシャ、エミリアを連れて各国を旅してもらうことに決めた」とミネアは告げた。
「あなたの統治の下でエミリアに現実を見せ、また他の天帝達の下に赴き、学ばせるのです。」
アリーシャは少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに微笑んで答えた。
「それは面白そうですね。エミリアを連れて行くことで、私も新たな発見があるかもしれません」
エミリアはミネアの言葉を聞いて緊張したが、同時に新たな決意が湧き上がってきた。彼女はこの機会を通じて、アリーシャの大陸の現実を学び、自分自身の理想と向き合うことになる。
ミネアは心の中で頷いた。これで、アリーシャに責任感を持たせ、エミリアに現実を教えることができるはずだ。
どちらにとっても、この旅は大きな試練となるだろう。
しかし、それこそが彼女たちが成長するために必要なことだ。
「行きなさい、アリーシャ。そしてエミリア、あなたも自分の目で世界を見て、学びなさい」とミネアは厳しい声で言った。
内心、面倒事が一気に片付き安堵した。
アリーシャとエミリアはそれぞれの思いを胸に、新たな旅立ちへと準備を始めた。




