第10話 旅立つの日に
アウルはかつてアイオニヘカタロス大王
として知られ、9つの国を征服した伝説の大王だった。
彼は偉大な軍事的才能と卓越した戦略で広大なアイオニス王国を築き上げた。
しかし、栄光の日々は長く続かず、内部の反乱により彼の家族は処刑され、
アイオニヘカタロス自身も他国へ亡命することとなった。
亡命先では、その優れた軍事能力が認められ、アウル将軍として迎え入れられた。
彼は新しい国の軍隊を整備し、教育を施し、部下たちの育成に尽力した。
アウルの指導の下、多くの優れた将兵が育ち、その国の防衛力と軍事力は飛躍的に向上した。
しかし、ある日、アイオニス共和国の樹立の知らせが届いた。
祖国が新しい形で再生したことを知り、アウルは自らの役割を終えたと感じた。
彼は天帝ミネアに将軍職の辞退を申し出て、静かな森の中で隠居生活を始めることにした。
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アウルは死期を悟り、森の中でひっそりと暮らしていた。
彼の体は老いて弱り、立ち上がるのもやっとの状態だった。
ある日、長く続いた雨が止み、ふと調子が良くなったアウルは、川の様子を見に行くことにした。
そこで、彼は傷だらけで倒れている少女、エミリアを見つける。
彼女の背中には剣の振り下ろされた跡があり、守るようにして倒れていた少年はすでに息絶えていた。
しかし、エミリアはかすかに光を放ち、不思議な力で命を繋いでいた。
アウルはエミリアを助け、少年を庭の奥に埋葬した。
数日後、エミリアは意識を取り戻し、自らの過去を話し始めた。
彼女は大切な人を失い、逃げる途中で倒れていたのだ。
アウルもまた、自身の過去を語り、互いの傷を少しずつ癒していった。
エミリアは強くあろうとするが、アウルの優しさに触れ、泣き崩れることもあった。
それでも彼女の瞳には確かな決意の光が宿っていた。
エミリアには不思議な癒しの力があり、それはアウルの衰えた体を一時的にでも元気づけることができた。
しかし、やがてその力も効き目を失い始め、アウルはエミリアに伝えた。
「エミリア、私の命はもう長くない。君の力を伸ばすためには、もっと広い世界で学ぶべきだ。天帝ミネア様の国へ行き、そこで多くのことを学んでほしい」
しかし、エミリアは頑なに首を横に振り、涙ながらにアウルにしがみついた。
「一人にしないで…」と泣きじゃくる彼女を前に、アウルは静かに語り続けた。
「エミリア、私はもう充分に生きた。
君には君の道がある。
そして、その道を歩むには君の力が必要だ。
私がここで終わりを迎えることは、君が前に進むための一歩に過ぎないんだよ」
エミリアはアウルの言葉に心を揺さぶられた。
彼の言葉は優しくも厳しく、そして何よりも愛情に満ちていた。
エミリアはついにアウルの願いを受け入れ、彼の最期を見届けることを約束した。
彼女はアウルの側に寄り添い、彼の教えを一つでも多く学ぼうとした。
そして、アウルの最期の時、彼は静かに息を引き取った。
彼の表情は安らかで、エミリアに託した思いがしっかりと伝わったかのようだった。
翌日、エミリアは森の中に建てられた三つの墓を訪れた。
それはミア、アル、そしてアウルの墓だった。エミリアは一つ一つの墓に花を捧げ、静かに決意を表明した。
「ミア、アル、先生。私はこれから新しい旅に出ます。皆が教えてくれたことを胸に刻み、強く生きていきます」
彼女は最後にアウルの墓の前で立ち止まり、深く頭を下げた。
「先生、ありがとう。あなたの教えを忘れません。必ず立派に成長してみせます」
エミリアは涙を拭き、新たな決意を胸に旅立った。
彼女の背中には少しの荷物と、多くの思い出が詰まっていた。
森の道を歩きながら、エミリアは新たな冒険と学びに思いを馳せた。
彼女は一人ではなく、ミアやアル、そしてアウルの思いを胸に抱きながら、天帝ミネアの国へと向かった。




