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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ポテ ポテ と天井からねばり気のあるしずくが糸をひいて垂れる

血だ――

その血を床に置いたプラスチックの洗面器が受けている

おれは舌打ちして天井を睨んだ

ポリ袋の口の縛りがあまかったようだ

最後まで世話を焼かせやがる

そこへ横たわっているはずの妻へ悪態をついた

ズズッ ズズッと重たいものを引きずる音がする

そのたびに血の垂れてくる場所が少しずつ変わる

おれは苛立ちながら洗面器の位置をズラす

あの女はどうして動けるんだ

イライラはつのる

生きているはずはなかった

首をしめて殺したあと五体をバラバラに切断したのだ

それなのに

ズズッ また妻が体を引きずる

おれは黙々と洗面器を移動させる

一刻も早くこの場を去りたかった

だがそれはできない

預金通帳と印鑑がどうしても見つからないのだ

一文無しで逃げても行くあてなどない

心当たりはすべて探し尽くした

家のなかはまるで空き巣にでも入られたような有様だ

ふたたび天井を睨みつける

あのバカ女は おれが数十年必死で働いて貯めた金をいったいどこへ隠しやがったんだ

マイホームが欲しいというから それこそ爪に火をともすようなつもりで貯めた金だぞ

天井がきしみズルズルと重たいものを引きずる振動が伝わってくる

相変わらず妻はなめくじの速さで移動していた

おれはくたびれ果て冷蔵庫から缶ビールを取り出した

プルトップを引く

本当はもっと強い酒が飲みたかったが万が一寝てしまっては大変なことになる

ズズッと妻が動く

おれは無言で洗面器の位置をズラす

そもそもこの女はどこへ向かっている

見たところキッチンへ近づいているようだが

あっ――

天啓のようにひらめくものがあった

そういえば冷蔵庫の扉をあけたとき何か見たような気がする

転がるように冷蔵庫へ駆け寄り 取手を引いた

ブウーンとコンプレッサーの回る音がして冷気が顔を撫でる

乳製品や加工肉が詰め込んである奥に丸められた新聞紙の束を見つけた

これだ

引っ張り出して中を調べた

あった あったぞ

ハハハッ とうとう見つけてやった ざまあみやがれ

だから女は浅はかだというのだ

おれは印鑑をポケットへねじ込み通帳にキスをした

預金高は五千万円以上あるはずだった

あるよな

なぜだか不安になる

急いで通帳の中身を確認した

一瞬で血の気が引いた

おれの口座にはもうほとんど金が残されていなかったのだ

どういうことだ

突然天井からケタケタという勝ち誇ったような笑い声が降ってきた

おれは両手であたまを掻きむしった

あの性悪女めっ

ケタケタケタ

うるさい黙れっ ちくしょう ちくしょう――

どれくらいそうしていたのか 厚く引かれたカーテンの向こうではしだいに空が白み始めていた

おれは胎児のように丸くなってシクシク泣いていた

天井裏の妻はもう動きを止めたようだ

カーテンのすき間から差し込む明かりが洗面器のなかの血を照らしていた

溜まった血はどす黒く凝固してまるで生レバーのようだった

おれは静かに立ち上がり ゆっくりキッチンへと向かった


レバニラ炒めを作るために(うそ

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