港町にある道具屋
エンスタシナ王国からブリーズの街に転移してきた賢者達はリーフハーバーに向かう馬車に乗っていた。
「アルス、よくあのカードのこと覚えてたね。流石私の弟...」
「白さんにはもう弟がいるって話じゃないですか。僕まで勝手に弟にしないでくださいよ。それに大事そうなカードでしたので、覚えてるのは当然ですよ。」
白はアルスの横でいつも通り弟のように接していると、アルスは困ったような表情で返答した。するともう一人、アルスの横に座っていたエリスがさらにアルスに近づいた。
「アルスえら~い」
「エリス、皆が見てる所で頭をなでるのはやめてください。恥ずかしいですよ。」
「わぁぁぁこれはこれであり...グフッ……。」
エリスが手を伸ばしてアルスの頭をなでると、アルスは顔を赤くして頭を守るように手で防いだ。白は2人の尊い様子を見て昇天していたが、誰も気にしていなかった。
「エリス、誰も見てない所ならもっとやってもいいってことらしいわ。」
「ヘスティアさん!?なんでそういうこと言うんですか。」
白たちの対面の端に座っていたヘスティアがアルスをいじると、エリスは目をキラキラさせながらもなでようとすることを辞め、落ち着いて座りなおした。アルスはヘスティアが味方にならずいじる側に回ったことに対して驚いていたが、エリスも白も落ち着いたため、ほっと一息を付いた。
「あの、お二人さん?俺、身動きが取れないんですけど...。」
落ち着いた方の対面では、ソイルの左腕にシエル、右腕にはゼータが抱き着いており、ソイルは本を読むことが出来ず、何とか退いてもらおうと話しかけていた。
「いいじゃん、馬車にいる時くらいこうしてても。どうせ読書くらいしかしないんだし。」
「ゼータも同意する。ソイル、そんなこと言いながらも喜んでる。」
「なんもやることない時なら別にいいけど、レイネールから持ってきた本を読みたいから話してくんね?」
「「やだ。」」
その後ソイルは馬車に乗っている間、本を読むことは叶わなかった。そして3日近く移動してリーフハーバーにたどり着いた。リーフハーバーはブリーズの街と同じくらいの規模ではあったが、海からくる潮風の匂いや海産物の香りが港町であることを示していた。
「ん~やっと着いた~!アルスもエリスも大丈夫?疲れてない?」
「馬車に乗ってただけ何で大丈夫ですよ。」
「私はほとんど寝てたし、大丈夫!アルス、膝枕ありがとう。」
「...どういたしまして。」
白は馬車から降りると伸びをし、次いで降りてきたアルスとエリスを気遣って声をかけた。アルスもエリスも疲れていなさそうであった。エリスは馬車の中でアルスに膝枕をお願いして寝ていたのでそのお礼を言うと、アルスは照れを隠しながら答えた。
「長かったわね。」
「そうだな。でもここからハウ王国、んでそこからストルム王国までも同じくらいの距離があるがな。」
「はぁ、分かってても退屈しそうね。」
「どうせなら手合わせしとくか?詳しいことは白たちに任せておけばいいだろ。」
「私はそれでもいいのだけれど、あの二人の目が怖いわね。」
白たちの後にヘスティアとソイルが降り、少し話をした。その後ろではシエルとゼータが何やらこそこそと話していた。やがて話が終わると、2人で白の方に近づいた。
「私達ならちょっとやることがあるから別行動したいんだけど、いいかな?」
「道具屋に大人数で言っても迷惑かもしれないし、私とアルスとエリスの3人で向かうことにするよ。」
「んじゃ俺らは街の外に行くか。」
「分かったわ。」
「私とゼータは向こうの方に行くよ。何かあったら連絡してね~。」
そういってソイルとヘスティアの2人、シエルとゼータの2人はそれぞれの生きたいところへと向かっていった。残された白たちはとりあえず道具屋へと向かった。
「失礼しま~す。」
「いらっしゃい!君たちだね、イリス姉さんから聞いてるよ。ちょっと待っててね。」
白が扉を開けて入ると、金髪碧眼で青年の姿をした店主がカウンターの向こうから返事をした。店の中には客はおらず、何かを済ませた青年は一度店のドアを開け、立札を裏返した。
「ちょうどお客さんが居なくてよかったよ。あまり聞かれたくない話をしようと思ってね。僕はアルコ・シルフィード。エンスタシナ王国を収めてるイリス・シルフィードの弟です。」
「えっ!?イリスの弟なんですか!!!あ、すみません。えっと、私は白って言います。それでこちらが...」
「ア、アルス・レーヴです。本日はイトク村で預かったカードをお渡しに参りました。」
「エリス・スピネルです。よろしくです!」
「うん、よろしくね。それじゃあ裏に来てくれるかな。」
それぞれが驚きながらも自己紹介をした後、アルコはカウンターの裏にある扉の先へと案内した。白たちは部屋に入ると、促されるがまま席に着いた。アルコは何やら壁に手をかざすと、突如魔法陣が現れ、その中から箱を一つ取り出した。
「今の魔法..物質収納ですか?」
「お、良く気付いたね。これはこの壁紙に施された収納魔法なんだ。僕も妖精族だからね。ここで店を開く際に便利だと思って国にいる時に錬金したんだ。まぁ収納量は少なめなんだけどね。」
アルスが魔法に興味を示すと、アルコは"さすが"といった表情で机の上に箱を持って来ながら魔法について解説し、席に着いた。するとアルコは箱に掛かってる魔法を解き、中に入っていた小瓶を机の上に出した。
「これはですね、僕がエンスタシナ王国で暮らしてた時、今から...18年くらい前かな。世界樹が突如光って、一輪の花を咲かせたんだ。」
アルコが小瓶の中身について説明しようとした時、アルスの魔導書からレータが飛び出てきた。
「待って!もしかしてアイリスと会ったの?」
「君は...もしかして精霊!?」
「レータ!急にどうしたの?」
レータはアルコに詰め寄るようにして聞くと、まだ話してもないその名とレータが精霊であることにアルコは驚いていた。
「あ、ごめん。もしかしたらアイリスに会えるかもって思って。レータの友達だからつい...」
「なるほど、そういうことでしたか。では紹介しますね。アイリス、来ていいよ。」
そう言われると宙に魔法陣が浮かび、明るい緑色のショートヘアにピンク色の瞳の少女が現れた。その少女は白たちに一礼し、あいさつした。
「初めまして、私はアイリスと呼ばれている自然の精霊です。白さんたちのことは前々からお聞きしたことがありました。もちろんレータが一緒にいることも。」
「レータとは違って僕らと変わらないくらいの大きさなんですね。それに自然の精霊とは...失礼は承知ですが、何なのでしょうか。」
アイリスが自己紹介をすると、アルスは再会を喜んでいるレータとアイリスに近づこうとしている白を押さえながら、疑問に思ってることを尋ねた。
「私たち精霊とはそもそも姿が見えないのですが、源素を利用してこのような見える姿に変えられるのです。その方がアルコが分かりやすいですし。一応レータも同じ様な姿になれるのですが...」
「あー、レータはまだ力を回復させてないっていうか、取り戻せてないからこれ以上大きくなれないんだよ。」
「まだ天界にはいってないんだね。じゃあそれでも仕方ないか。あと、自然の精霊についてですよね。私は風や水を操ることが得意な精霊で、あの世界樹にしばらく留まっていたのです。」
アイリスは途中レータと話しながらも、アルスの問いに答えた。アイリスとレータの話がひと段落着くと、アルコが本題に入った。
「精霊が他にもいたことは聞いていましたが、まさか賢者様が連れていたとは、驚きました。それはそうと、この小瓶の中には世界樹に咲いた聖花から採った蜜が入っております。アイリスに許可を頂いて採集したものでして、噂では死者すら生き返らせると言われているそうです。これをカードのお返しにあなた方に差し上げます。」
「本当にいいんですか?」
「私からもお願いします。レータが信用している方であればお任せできます。」
「じゃあありがたく貰っとこっか。」
小瓶の中身の説明をすると、アイリスも白たちに聖花の蜜を持って行ってもらうようにお願いをした。白はその小瓶を貰い、そのまましばらく道具屋で話していた。
他の賢者たちと別れたソイルとヘスティアはリーフハーバーから少し離れた所で話し合っていた。
「魔法を使うと俺が有利だし、その辺どうする?」
「確かのソイルが有利になるけど、それ以前にこの辺りが無事じゃ済まないでしょうね。」
「んじゃ単純な物理戦闘で、あとこれを使ってくれ。」
ソイルはそういうと剣と短剣を出した。ヘスティアはそれを持つと、不思議そうにしながらソイルに尋ねた。
「これは、木製...よね?。でも硬さは鉄の短剣と同じような感じ...不思議ね。」
「そ、木製の短剣に耐性強化を掛けてある。いろんな属性や衝撃に対しての耐性が上がる魔法で、威力に関しては変わらないよ。」
「ソイルもアルス並みに魔法が使えるんじゃないのかしら。」
「魔法だけでみたらあいつには劣ってるよ。使い方を知ってるってだけだ。さて、んじゃやりますか。この石が落ちたらスタートな。それと…魔法は非戦闘系だけの使用でな。」
「分かったわ、お手柔らかにね。」
「そりゃこっちのセリフだ。」
二人はある程度離れると、それぞれ剣と短剣を構えた。そしてソイルが上に投げた石が落ちるのと同時にヘスティアがまずソイルに距離を詰めた。ヘスティアは前から首を狙って短剣を振ると、ソイルに防がれた。それを読んでいたかのように短剣を振りぬき、さらに追撃を重ねていった。
「(やっぱ速さでは適わないな。そのせいで攻撃の威力も高いし。)」
「(流石に防がれるわね。行動を先読みされてるのかしら。だったら...)」
ヘスティアは短剣をソイルの腹に突き刺すようにすると、ソイルは横に避けヘスティアに向けて剣を振り下ろした。
「物理防御」
ヘスティアは物理防御の魔法で左腕に壁を作り振り下ろされた剣を防ぐと、短剣を振り上げて攻撃した。ソイルは後ろに引き距離をとったが、前肩辺りに薄い切り傷が出来た。
「物理防御を発動してくるとは思わなかったよ。ヘスティアに魔法が得意なイメージが無かったしな。」
「中級魔法くらいなら私でも使えるわ。でも攻撃は避けられてしまったけど。」
「避けきれなかったけどな...じゃ、こっちも行かせてもらうか。」
そういうとソイルは剣をしまい、その場でしゃがみむと近くにあった小石や砂利を握った。そしてヘスティアの近くに至るまでに握っているものに魔法を付与した。
「物理与害上昇、加速」
「物理能力上昇、炎属性付与」
ヘスティアは近づこうとするソイルから一定の距離を保ちつつソイルに向けて炎を付与した短剣で炎を纏った斬撃を繰り出し攻撃した。
「(っ...当たらない。それに何か仕掛けようとしてるし距離を詰められる訳にはいかない。でも、このままだと私が先に疲弊して距離を詰められてしまう...)」
そう考えると、ヘスティアはあえてソイルに距離を詰め、炎を纏った短剣を思い切り振った。それに気づいたソイルは咄嗟に防御魔法を発動した。
「魔法防御」
しかし上級の魔法防御の壁ですらその攻撃を完全には防ぎきれず、ソイルは左腕に切り傷を負った。しかしヘスティアに近づくことが出来たソイルは右手で握っていた小石や砂利をヘスティアに向けて投げつけ、さらに別の魔法を発動させた。
「反射球」
ヘスティアの周りに魔力の壁が球状に展開され、ソイルが投げた小石や砂利はその空間の中で何度も反射し、ヘスティアを襲った。