表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

バックラッシュ

「〈クラスター〉を身体に〈埋め込まれた〉者は、たとえ自覚できる記憶がなくても〈クラスター〉としての行動が可能である──そういうことですよね」

「うむ」

じつのところ、夕凪大尉はそのことをようやく認めざるをえなかった。

いままで半信半疑──というより九割方は疑の方だったのだが、この現状を見てしまえば、疑いつづけるというのが難しかった。

「わかってくれたかね、夕凪大尉」

「……はい」

司令長官の副官とはいえ、彼の私的集団──〈M(メイン)S(スタート)P(プロジェクト)〉に加わったのは、ついこの最近のことだ。

じつのところ、〈クラスター〉についても、この謎の空中戦艦についても、はてはいま対手している謎の存在についても、よくわかってはいない。

ただ、軍に所属していたころに一般の士官が知りえた情報程度の知見しかない。

「正直なところ、とても困惑しています」

それは素直な告白だった。

「無理もない、夕凪大尉。

軍ですら、このようなものは一握りの者──〈解決者たち(リゾルバーズ)〉しか知らされていないことだからね。

それがまずかったのかもしれん……」

解決者たち(リゾルバーズ)

かつて夕凪や時雨、海風らが軍人として奉公していた帝国の運命を一変させてしまった、いまの世界の支配者。

そのトップこそが──

「神聖皇帝……いえ、〈ヴィラン(やつ)〉は最初からそのように……」

「当初はその名の通り『神聖な目的』のはずだったろうな。

だが目的というのはえてして手段に堕落するものだ。

いまはもう、あの〈害虫(ヴァーミン)〉を世界にばらまくだけの環境破壊者でしかない。

いや環境どころか、人類種すら破壊し、〈ヴィラン(やつ)〉が選んだ生物だけを存続させる……。

いわば、〈アーク(ノアの方舟)〉の船長きどりというわけだ」

「〈アーク(ノアの方舟)〉……」

その特別な単語は、士官時代にもなんどか聞いたことがある。

解決者たち(リゾルバーズ)アーク(最終目標)

アルファベットでたった3文字のその単語を興奮ぎみに話す者もいた。

昔はただの世迷い言かなにかとして聞き流していたが。

「私の理解の枠をはるかに超えています」

これもまた、素直な告白。

「それでいい。それで仕方ないんだ。

これは人間が、その人智を超えて、まるで神になったかのように賢しげにふるまった結果だ。

我らがそれを〈バックラッシュ(逆張り)〉しなければ生き残れない。

そのために私が活動しているのだ」

海風中将──若干19歳にしてその階級に昇り、〈タスク・フォース〉と呼ばれる皇帝直属の特殊部隊を率いた者は、その主君である皇帝、それが治める帝国を裏切り、私兵集団〈MSP〉を結成してこうして〈バックラッシュ(逆張り)〉にはげんでいる。

「いままでは帝国によって壊滅寸前まで追い詰められていたが、ここからが本当の〈バックラッシュ(逆張り)〉のはじまりだ。

朝霧リスマ──〈クラスターミュート〉、これこそわれらの希望、そして人類種存続の最後の道──」

何度目かわからない艦の震動。

だが、それもようやく終わるだろう。

害虫(ヴァーミン)、墜落します!」

オペレーターの声をきくまもなく、艦橋の大画面に映るその巨大な厄災の塊は、まるで芋虫を集めて固められた塊が爆発して粉々になるように、虫酸のはしる音をたてて島に、そして海へと落下していった。

「〈ヴィラン(やつ)〉に電信してやれ。『つぎはお前だ』とな」

夕凪が横目で見たその海風の笑顔は、復讐のためなら善悪の区別を捨てる者の表情としか思えなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ