経験則
「やはり私の言ったとおりだったろう! なあ夕凪大尉!」
「はぁ……」
海風の副官は、あいかわずのそっけない色である。
とはいえ、もとよりこの大尉はそのような性格で、いつもよりはいくぶんか困惑しているようすでもある。
「しかし、このたびの目標は、少々ブが悪いのでは……」
そう発言するのは、幕僚の時雨中佐。
明晰な頭脳と戦略眼で海風らの集団のインテリジェンスの源泉となっている。
「大事なのは勢い、勢いだよ時雨中佐!」
なにしろ、とうの司令長官──といっても、海風らの集団はたかだか30名程度の小隊規模にすぎない──の本性がこのような直観ばかりに頼る指導者である。
もし時雨がいなければ、この集団はたちまち崩壊していただろう。
「勢いと申されましても──」
司令長官の独特な言語を分析、解釈、翻訳するのはいつも時雨の役である。
だが、今回ばかりは。
「司令、さすがにそのようなあいまいな言葉遣いでは集団全体の士気にかかわります。どうか丁重な御説明を」
夕凪の、鋭く険しい指摘に、海風は少しうなって。
「私の経験則をあの子に適用して信じた──ではだめか?」
「司令の経験則はわれら凡俗には理解しかねます」
「そ、そこまで言わなくても……」
「夕凪くん、おそらくこう言いたいのだと思う」
割って入ったのは、時雨。