イザナミ
リスマがふたたび空を見ると、そこにはあのまがまがしいものは消えうせて、ただただ紫の煙と、その煙ののれんをくぐるように出てくる、黒鉄の物体。
「空中戦艦……!?」
昔のことはなにひとつ覚えていないのに、なぜかその物体の種類と名前は知っていた。
「イザナミ……!」
「そうだ。リスマくん、キミのフネだ。ワケあって今は代理が操縦しているが……。
もういちど言おう。私といっしょに地獄巡りをしよう。
いいね?」
リスマは、何も考えられなかった。
なにがなんだかわからなかった。
しかし、身体はなぜか、その脳とは裏腹で。
頭を縦に振って
「アクセプト」
「いい返事だ。やはり変わってないな。記憶がなくても──」
二人の前に、一台の内火艇。
降りてきたのは、一人の士官だった。
「中将、遅くなりまして申し訳ありません。そちらが……」
「最後の希望ってやつだ、夕凪大尉」
「はい……それにしてもなぜこんなところで……」
「とにかくはやく戻ろう」
朝霧にわりあてられたのは、イザナミ艦内のとある個室だった。
3畳ほどのまるで独房のような部屋だったが、最低限の寝具と机と収納棚はそろっている。
「諸事情で人間の棲む空間は広くとれないんだ。我慢してくれ」
そういって、その個室の隣の司令長官室に戻っていった。
「うーん……」