地獄巡り
「ピンチというのはチャンスだ。ここから新しい物語が始まる」
その言葉に、朝霧は困惑した。
「いや、あんたのいるところは──」
爆発の閃光と爆風が朝霧を襲う。
「なるほど、やはりそうか」
海風はうなずいていた。
右頬にひとすじの赤い線、そこからは赤い液が垂れる。
「死ぬよ! そこに立っていたら……」
朝霧はありったけの声量で叫ぶ。
だが、海風はただニヤリと笑う。
「死ぬならまたそれも面白い。死んだならそれまでのこと。だが、死なないなら……ますます面白いじゃないか、なあリスマくん」
「何言ってんだあんた! はやく……」
さらに爆発、そして爆風。
「やっぱり私の目はくるっていなかった。リスマくん、私といっしょに地獄巡りをしよう」
なんという狂気の目だ。
もはや警告の言葉も失った。
こちらを攻撃してくるあの謎の存在……まるでカブトムシが空中戦艦のサイズに膨れあがったような、巨大で、しかもまがまがしい色のなみうつ皮……。
「思えば長かった。世界が焦土になっていくのをただ見ているしかなかったときの心の痛みはいまでも忘れない。
だが、それも今日で終わる。
そして今日から始まるのだ」
その謎のまがまがしい存在が、どこからか射たれた光の帯に飲み込まれ、大爆発、四散する。
「少し遅かったんじゃないか?」