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第98話 初めての

「――ント~、お~いケ~ン~ト~朝ですよ~。起きないね、ケント……くふっ」


「アンラか、なにつついてんだよ」


 誰か呼んでるし、鼻の先やくちびる、そしてほっぺたをつんつんつつかれて目が覚めた。


 つついていた手を掴み。目を開けると、幌の天井じゃなくて目の前にアンラの顔があった。


「起きたね~、もうすぐ朝なんだけど、ちょ~っと魔物が近くまで来てるのよ、数は少なそうだけど」


「なに? 少ないのは助かるな、戦える奴が少ねえからよっと」


 俺の腹の上に乗って、覗き込んでいたアンラごと腹に力を入れて起き上がった。


「きゃ」


 起き上がった拍子にアンラが後ろに倒れ込みそうだったから背中に手を回し、引き寄せ支えてやったんだが、鼻と鼻がくにゅとくっつき、ふにゅと口と口がくっついちまった。


(あっ、うそ…………私……ケントとちゅーしちゃってる……)


 アンラは転げないように俺の首に手を絡ませたんだが、ちゅーしたまま見開いている潤みだした赤い目を閉じ、くっついた口を押し潰すように首に回した手に力を入れてくる。


 なんでか分からないが、ドキドキと早鐘を打つ胸に戸惑いながら俺も、アンラを倒さないように背中へ伸ばした手に力を込め、ぎゅっと抱き締めてしまった。


(凄い……こんなの初めて……体の奥から暖かいのが溢れてくる……私……ケントのこと――)


『ケント様にアンラ……魔物は良いのか?』


『ダーインスレイブ、二人の邪魔をしては行けません、他の冒険者達に任せておける程度の魔物ですし、もう少し時間があります』


「「っ!(っ!)」」


 同時に体を離したと思う。

 クロセルとダーインスレイブの言葉が耳に入り我に返ったんだと思うが、こんな気持ち初めてだ。


 離れてしまった体とくちびるが、大切なものが体から抜け落ちたような気持ちにさせた。


「ア、アンラ、ま、魔物だったな、やっつけに行こうぜ」


「そ、そうね、魔物よ、もう少し離れてるけどさ、私が気付いたから起こしに来たんだから、は、早く行きましょう」


 目が離せなくて、そのまま赤く染まったアンラをずっとこのまま見ていたいのを振り切ることができない。


 だが魔物は近付いてきているはずだ、今はそっちを先に済ませないといけねえな。


 未練を断ち切るように、俺に乗るアンラが腰を上げ、俺も横においてあったクロセルを掴み、連れ立って荷台から御者台に出た。


「ふう、まだ完全には明けてないのか、クロセル、覚醒だ、俺も気配を探るからよ」


『はい。覚醒が必要ない程度の数しかいない魔物ですが、気配を探る感覚を養っておけば、覚醒前でも探れるようになるはずです』


「おう、今でもちっとは感じられるんだがよ、遠い場所や正確な数を知るには心許ねえしなっと、ほらアンラ」


 御者台から飛び降り、振り向いてアンラに向かって手を伸ばす。


「う、うん、いくね」


 とんっと御者台から身を投げ出して俺の胸に飛び込んできたアンラを抱き止め、そっと地面に足を下ろしてやった。


 また、ほんの少しぎゅっと抱きしめてしまったが、ゆっくりと体を離して覚醒しておく。


 銀髪で長髪になった俺の髪が風になびき、アンラの顔を撫でた。


「よ、よし、さっさとやっちまおうぜ。気配は――いた、五匹の……弱そうだからゴブリンってところだな」


 気配のした方を見定め、馬達に水をやった小川の向こうから気配がしてくるのが分かった。


「思ったより近付いてきてるな。もう森から出てきそうだぞ」


「うん、こっちが風上だから匂いでよってきたのかもね。どうするの? 出て来て小川にくるまで待つ?」


「そうだな倒した後、血の匂いが残っちまうと次からこの夜営地を使うのが面倒になるからな、小川に入ったところでやるか、後でソラーレに頼むか……一応あっちの兄ちゃん達にも知らせておくか」


 小川の向こうから目を離し、食事の準備を始めていた護衛達を見て、知らせておいた方が良いと思い、足早に向かうことにした。


 焚き火で大きな鍋に水を沸かし、干し肉のスープを作っていた護衛の兄ちゃん達に話しかける。


「おはようさん、たぶんゴブリンだと思うが五匹ほど、あっちの小川を越えた森から近付いてきてっからよ、気を付けてくれ」


 近くに来た俺達に気付きこちらを向いて挨拶を返しながらも、野菜と干し肉を細かく手で千切りながら、ボコボコと沸いてる鍋に放り込んでいる顔は、笑顔から真剣な冒険者の顔に変わる。


「五匹か、問題ない数だが知らせてくれてありがとう。明ける前の気がゆるんでいたところだから助かった……ってか少年はそんな髪の毛長かったか?」


「リーダー、毛は縛っていたんだろ? それよりこれ片付けて準備しよう」


 二人の兄ちゃんは手に持っていた物を、少し乱雑に千切り終わって鍋に入れた後、横に置いてあった剣に手を伸ばし、立ち上がる。


「おう、ちと早いがそろそろ朝だもんな、気もゆるんじまうさ。まあ、数も少ないからよ、仲間を起こすほどのことでもないか」


「いや、万全にしておいて損はない、依頼主は起こさないが仲間だけは起こしておくよ」


 自分達が守る馬車の下で、ローブをかぶり体を丸め寝ている仲間に視線を送り、動き出す。


「分かった、まあ出番はないと思うけどな、兄ちゃん達は依頼主を守ってくれてれば良いぞ、俺達は先に小川で迎撃してくるよ」


「頼んだ、俺達もすぐに合流する」


 俺とアンラは小川に向かい、どんどん近付く気配を感じながら馬用の水桶がある場所で待機することに。


 水桶で申し訳程度身を隠し、行きをひそめたところで、ガサガサと川向こうの森からゴブリンが出てくるのが見えた。

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