閑話~残されし者達②
日本の絹峰村にて。
アルビノの少女は楽しそうに笑っている。集合意識へ繋がれた僕達を見て、まるで大人達と遊んでいる少女のように清らかな笑顔をこちらに向けている。
────彼女にとって、これは遊戯だとでも言うのか……!?
「クソッ! 糸を切るぞ!!!」
蓮華が右手を振り上げた。鬼の分解能力を駆使して全員に繋がった縁の糸を分解するつもりなのだろう。しかし、彼が右手を振り下ろしても何も起こらない。ただ、目の前の少女が笑みを零すばかりである。
「なッ!? えっ……!?」
蓮華の異能────酒吞童子の力が不発に終わる。彼は何度も試す。それでも現状は変わらない。シヅキが空間移動を試みるも、それも発動しない。
集合意識によって異能が希釈されたためか、この場にいる全員の異能が消えた。
さらに僕達に繋がる糸が天に向かって伸びたかと思うと、あらゆる方向へ拡散していく。これは縁の糸……繋がった人間の縁を利用して村以外に集合意識への接続を広げているのだと直ぐに理解した。
「六次の隔たり……スモール・ワールド現象か……」
アメリアの口から洩れた言葉に、僕と蓮華は顔を合わせた。
六次の隔たりとは、知り合いが六人いれば全世界の人間と間接的に知り合いになれるという説だ。この村を訪れているのは、八人。条件は既に満たしている。
「みんなで一つになりましょ? 元は一つの意識だったのだから」
「なにふざけたこと言ってんだ……」
蓮華は少女に一歩近づいた。その瞬間、蓮華は前のめりに倒れる。その現象は少し遅れて全員に訪れた。意識を無理やりかき回されるような感覚に、三半規管が狂わされ立っていられない。
────か、身体に力が入らない……
薄れる意識に反比例するように脳内に映像が流れはじめる。夕焼けに包まれた見知らぬ土地で、閻魔薙が戦っている。和睦を構え、幾度となく大鎌を弾いている。これは、誰の記憶なんだ?
「な、薙……君……」
燐瞳も同じ映像を見ているようだった。地面に四つん這いになったまま、這ってでも少女の元へ向かっていく。
────妹が頑張っているのに……僕が諦めるわけには……いかないッ!
ポケットから御札を一枚取り出す。これは僕達の異能でも何でもない。これなら集合意識の影響を受けないはずだ。
右手の小指に巻き付いた糸に目掛けて御札を押し付けようとしたその時、燐瞳は予想だにしていない発言をした。
「お願い……薙君を……助けて……お願い」
燐瞳の手が少女の足を掴んだ。彼女は燐瞳を不思議そうに見ている。燐瞳の言葉の意味を理解していない様子だった。
燐瞳が足を掴んだ瞬間、彼女の意識が色濃く周囲に伝わった。かつて燐瞳が抱いていた弓栄春人への執着は完全に薄れ、代わりに閻魔薙やアメリアという友人達との友情が強固に形成されていた。彼女は立ち直り、完全に前を向いたのである。
入口に触れた者の意識が強く集合意識に作用する。
「私達の意識を……薙君に届けて……」
……御札を持つ手が止まった。
────そんな事が可能なのか?
「……可能だ、春人」
僕の思考が集合意識経由で蓮華に伝わったのか、彼は必死に顔をこちらに向けた。
「閻魔薙が、やっていた……アイツは、神の意識に集合意識経由で干渉していた……だからアイツは今も集合意識に接続されたままのはずだ」
「でも、僕達に出来ることなんて……あるのか?」
吐き気に耐えながら返事をすると、今度はアメリアが反応を示す。
「お前……閻魔薙に魂の一部を渡した……だろ!?」
────僕の魂の一部を金剛鈴として閻魔薙が持っている。だからこそ暦は僕から完全に力を奪えなかった。
そして、閻魔薙が和睦を扱えているのは、僕の魂の一部を持っているからだ。僕の権能を利用して彼は和睦を使用しているだけ。未だ和睦の持ち主は僕のまま。
「────和睦の継承権かッ!?」
蓮華が苦しそうに頷いた。
「燐瞳……彼女を逆に利用して……閻魔薙に伝えようッ!!! 僕の────言霊を継承させるんだッ!!!」
「うん……」
燐瞳の手に力が入る。友を救うために、現世に残されし者達が最後の役割を果たす。




