閑話~影の住人達⑨
「閻魔王!? なぜここに!?」
虚無の暗闇の中で見つけた希望────かつての上司、閻魔王は閻魔聖を見るや否や乾いた笑みをこぼす。
「────誰かに会うのは……いつぶりだろうか」
閻魔王は虚無に到達した経緯を聖へと話し始めた。自身の後継者からの裏切りによって何も存在しない空間へ転移させられ、気が遠くなるほどの長時間、虚無を漂っていたと。
「お主も……暦にやられたのか?」
「レキ? いいえ、俺……いや、私は閻魔薙の全能術に飲み込まれました」
閻魔薙の名を聞いた閻魔王は目の色を変えた。
「閻魔薙は、マガツヒノカミに消されたはず……一体何があった? 話してみよ?」
聖は現世で自身が経験した全てを閻魔王に吐き出した。影の住人に雇われ、災厄の神の復活に手を貸し、同じく現世へ座礁した閻魔薙達と熾烈な争いを繰り広げた事実を包み隠さず話した。
それだけ聖も閻魔王との再会に安堵していた。
「ふーむ、コヨミにカレンか……暦め、薙と共に現世へ渡ったのか。そして神が盗んだ和睦もそこに……」
考えに耽る閻魔王に聖は脱出方法について質問した。しかし閻魔王は唸るばかりである。そもそも虚無からの脱出方法があるならば、閻魔王はとうの昔に脱出しているだろうと自問自答し聖は肩を落とした。
「────世界記憶の改訂は、まだ遂行されていないのだな?」
「えっ!? あ、はい! 私が確認した限り、神は地上に復活したばかりです」
「復活……そうか、空間の神によって封じられておったからか」
閻魔王の脳裏に暦の言葉が蘇る。
────時間稼ぎに空間の神を派遣した、と。
「いくら次期閻魔王といえど、彼女を動かせるとは思えぬ……しかし、暦も他の閻魔と同じく誕生しワシが登録した────まさか!!!」
閻魔王が突然大声を上げたため聖はビクッと身を震わせた。
「ど、どうされたのですか……閻魔王?」
「沈まぬ太陽の遣いかッ!?」
聞きなれない単語に聖は怪訝な顔をする。
「ワシらを見定める存在……そうでなければ神が動く道理がない」
沈まぬ太陽の遣い────又の名を和睦の使者
世界の均衡と規範を保つ者をそう呼んだ。天帝はこの存在を秘匿しており、知る者は各国の代表くらいである。
「暦は世界記憶から派遣された存在なのだッ! 輪廻転生の機構が世界記憶に何か不都合を生じさせておるのだッ! そうでなければ破壊するなど言いだす訳がないッ!」
閻魔王は聖の肩を掴んで大きく揺らした。
その時、虚無のはるか彼方からこちらに急速で近づく存在に二人は気が付いた。漆黒の闇が広がる空間を見渡すが何も映らない。ただ、二人の金剛鈴が強力な生命力の接近を知らせ続けている。
急な突風に聖は体勢を崩した。彼の腕を閻魔王が掴み、吹き飛ばされないよう近くに引き寄せた所で、生命力の正体が目の前に飛来した。
「────俺にも詳しく聞かせてもらおうか?」
赤黒い液体だったそれは、グネグネと形を変え、壮年の男へと姿を変えた。ボサボサの髪と髭を携えた茶色の作務衣姿の男の赤い瞳が二人を捉えた。
「マガツヒノカミッ!!?」
「神!? どうして虚無に!?」
ここで、閻魔王と災厄の神の再会が果たされた。




