閑話~残されし者達
日本の某所、絹峰村と呼ばれた廃村に数人の人影が見えた。村の入口にはキャンピングカーが停車しており、運転手の風切宍道は煙草をふかしながら人影を眺めている。彼らは軍手を使って崩れた瓦礫を撤去する素振りを見せていた。
その中の一人が額の汗を拭いながら隣の人物に話しかける。
「────春人、本当にここに何かあるのか? 俺は何も感じないが……」
「桜の霊視によれば、まだこの村に集合意識の入口────おしらさまが放置されている。もう、残っている閻魔薙の手がかりは、それしかない」
弓栄春人は、源蓮華の質問に淡々と答えた。そして、離れた場所で作業をする森之宮燐瞳とアメリア・シルフィウムに視線を移す。彼女達も瓦礫に足を取られながら周辺を散策していた。
「それにしてもお前、大丈夫なのか? お前の霊媒体質じゃあ、この村は危険だろ?」
「大丈夫だ、今の僕は……いや、僕の魂は今までと別物……心の隙間が無いから僕が襲われる心配もない」
春人は自身の胸をさすった。蓮華はその様子を見て、「そうか、良かったな」と肩を叩いた。割と強かったのか、春人はバランスを崩して必死に倒れないよう身体を動かした。
「────代わりにもう霊感すら消えてるけどね……最も、それはアメリアも一緒だ」
春人は何とか体勢を立て直すと、必死に瓦礫を動かすアメリアを見た。アメリアは、天使の寵愛を全て失った。だから燭台を展開することも、その目で生命力を見ることも出来ない。春人とアメリアの二人は、もう霊能者ではないのだ。
〈春人、桜から情報更新があった。このポイントを探してみてくれ!〉
耳に装着したイヤホンから森之宮周芳の声がした。キャンピングカー内で待機する彼から全員のスマートフォンに廃村の地図が送信された。地図には赤い丸が記載されている。
☆☆☆
「────ここは、神が居た場所だ」
到着するなり蓮華が崩れた宿舎の前に立つ。
「間違いない、俺はこの場所で神の一撃を防いだ」
神が暴れた影響で既に景色は変わってしまっている。
「桜ちゃんの言うことも本当みたいだよ、蓮華君」
燐瞳が取り出したお札を地面に落とした。地に着いたお札は赤黒く変色し朽ち始めていた。霊障の余波だろうとその場の全員が納得する。
「これだけ残っているのに、霊が一人たりとも見えないのが不気味だぜ」
役に立たない悔しさからか、アメリアが修道服の裾を両手で握りながら言った。燐瞳はアメリアの背中をさすりながら、崩れた宿舎奥の霊障が最も強いと全員に伝える。
「瓦礫をどかすから離れてろ」
蓮華が上着を春人に投げ渡すと、右腕にガントレットを出現させる。
「蓮華!? ここで鬼になるつもりか!?」
「これだけ入口から離れていれば、昼間でも平気だろ」
ガントレットから紫電が放たれると、轟音と共に宿舎の瓦礫が吹き飛んだ。その音に、イヤホンの奥から待機組の怒声が聞こえてくる。現場にいた春人とアメリアも燐瞳に覆い被さる形で身体を固くした。
「よしっ!」
「よしっ! じゃないわよ!?」
瞬間移動してきたシヅキが蓮華の頭を引っぱたいた。「やるならミュートにしなさいよッ!?」と怒り狂った様子だ。
「ちょ、ちょっと……アレ!!!」
燐瞳が一点を指差した。その場の全員が指差す宿舎奥へ視線を向けると、白い着物を纏ったアルビノの少女が両手から糸を伸ばして立っていた。
先ほどまでそこには誰もいなかった。彼女の出現は、全員を緊張状態にする。彼女の赤い瞳が光って見えた。
「────しまったぁあああああああ!!!!!」
春人が絶叫を上げた。理由は単純だった。彼の目には、空中を漂うかつての村民達が映っていた。しかし今の春人に霊感は存在しない。それにも関わらず霊達が見えるという事は……
全員が自らの手に視線を移すと、右手、左手のどちらかに糸が巻付いていた。イヤホン奥からも、突然出現した霊達に驚く声が響いていた。
「────ようこそ、集合意識へ」
今、この瞬間、この村を訪れた全員が集合意識へと接続されたのである。




