ステータス7:活動
俺と郎樹の芝居がかったやり取りの後、梢子先輩はホワイトボードの前に立ってスクールアノマリーについて説明を始めた。
「活動内容に入る前に、まずはアノマリーとは何かから説明しよう。アノマリーというのは、端的に言えばその生物が通常持っていない能力を持った個体を指している。こう言うと魔法のようなものを想像してしまうかもしれないが、ほとんどの能力は些細なもので本人すら自覚していない場合も多い」
「生物ってことは、人間以外のアノマリーもいるんですか?」
「そうだね。過去には日曜日に必ず黄身が2つの卵を産む鶏や、おしっこが常に二股になる犬なんかがいたよ」
確かにそれは普通の鶏や犬とは違うけど……。
「えっと、言われなきゃ気づかないようなレベルの能力……とも言えないような些細な違いですね。むしろ良く気付いたというか……」
「気付けたのは私達がアノマリーに対して常にアンテナを張っているからさ。そして、これは活動内容の1つでもある。それじゃあ次は活動内容の説明だ」
そう言うと梢子先輩はホワイトボードに書かれた内容を棒で指しながら説明を始めた。
「スクールアノマリーの活動内容は主に4つ。アノマリーの発見、監視、解析、処理だ。『発見』はアノマリーである可能性がある生物を見つけて報告、メンバー間で共有すること。イデアが昨日、君に対してしたことだね」
「なるほど、屋上でのやり取りで明梨は俺がアノマリーだと気付いて、先輩達に報告しに行った、と」
「その通り。次に『監視』。これはさっき少し話したけど、もうちょっと詳しく説明しよう。『発見』の段階では可能性があるというだけで、まだ対象がアノマリーだと決まったわけじゃない。その対象に対してアノマリーかどうか判断するための情報を集めたり、アノマリーの能力が周囲に悪い影響を及ぼしていないか見張るのが『監視』だ」
ホワイトボードに書かれた内容を追いつつ、それを補足するように説明をつけ足していく梢子先輩。その手慣れた様子は、この説明を何度も繰り返してきたような熟練ぶりを感じさせた。
「次の『解析』は『監視』で得た情報を分析して、対象が本当にアノマリーかどうか判定する行為のこと。君はステータスオープンができない、という異質さを持っているけど、仮にこれだけならアノマリーだとは断定できなかった。なぜなら、突発性ステータスオープン障害で一時的に出せなくなっているだけの可能性もあったからね」
突発性ステータスオープン障害って……まあ言葉の響きからどういうものかは想像できるから、ここはあえて突っ込まないでおこう。
「私達が君をアノマリーだと断定したのは、君がステータスそのものを知らなかったから。記憶の欠如はないことじゃないけど、突発性ステータスオープン障害と重なるようにステータスに関する記憶だけがなくなるなんて、そんなことはあり得ない」
ステータスオープンが常識だという前提であれば、梢子先輩の話は筋が通っているように思えた。
「こうして私達は君をアノマリーだと断定したわけだけど、これで『解析』が終わったわけじゃない。『解析』の完了は対象がアノマリーでないと判定された時か、アノマリーの能力を把握して、その危険度レベルの判定まで済んだ時。危険度レベルは活動内容と直接関係ないから詳細は省かせてもらうけど、ざっくり地震の震度みたいなものだと思っておけば問題ない」
「なるほど。俺の危険度レベルはまだ分かってないから、引き続き『監視』して情報を集める必要がある、と。でも、なんでスクールアノマリーに入れば『監視』は必要なくなるんですか?」
「正確には『監視』が必要なくなるわけじゃない。スクールアノマリーのメンバーになれば、自分で自分を『監視』することになるのさ。そして、自らの能力について情報を集めて、分かったことを報告する。それを基に危険度レベルの判定をして、晴れて『監視』の対象から外れる、というわけ」
まあアノマリーだと自覚さえしていれば、そりゃ他人よりも自分の方が正確に自分のことは分かるわな。つまりスクールアノマリーに入るってことは、それをやるって約束することなわけだ。それで、最後は『処理』か。何となく想像は付くけど一体どこまでやるんだ? まさか殺したりはしないよな……。
「最後の『処理』って言うのは、他の3つに比べて随分物騒な響きですね」
俺のこの言葉を受けて、梢子先輩は少し悲し気な表情を見せた。
先輩のこの表情、過去に何かあったんだろうか。だとすると、もし入部するとしたら自分もその何かをやることになるかもしれないんだ。これまでの内容では入部した方が自分にとってメリットがあると感じてたけど、この『処理』の内容次第ではそれも覆るかもしれない。入部するかどうかを判断するためには、この『処理』について詳しく聞く必要がありそうだ。