ステータス40:排除
梢子先輩はいつになく神妙な面持ちで自分の能力について語りだした。
「私の能力は他のアノマリーの能力による敵対的な影響を排除する能力だ。私自身がそういった能力の影響を受け付けないことに加えて、私が触れた対象が受けている能力の影響を排除することもできる」
郎樹の頬に触れたことで彼が受けていたパッチの影響がなくなって、それで記憶が戻ったってことか? でも、それなら最初のアップデートとかパッチの影響もなくなってるってことにならないか? そもそも梢子先輩は自分自身も能力の影響を受けないって言ってたけど、先輩はステータスオープンできてたし矛盾してるような……。
「……えっと、アノマリーの能力の影響がなくなったってことは郎樹はもうステータスオープンできなくなったってことですか?」
「いや、排除できるのはあくまで敵対的な影響だけだ。自分に対して向けられた、と言った方が分かりやすいかな。だからアップデートのように無意識に大勢の人を巻き込むような能力に対しては効果がないんだ」
「……! それって、つまりアノマリーが固有スキルに変わったのは今回のパッチの影響とは無関係ってこと……?」
「そういうことになるね。相変わらず飲み込みが早くて助かるよ。どこかのボンクラとは大違いだ」
そう言って梢子先輩は上部先生の方をジロリと見た。
「ボンクラは酷いな梢子ちゃん。確かに昨日、影響を排除してもらった時にいろいろ的外れなことを言ってしまったかもしれないけど、君や開谷君みたいにすぐに理解できる人間の方が稀だよ。それに僕はアップデートが起きてたこと自体を昨日初めて知ったんだ。君がアップデートのこと、開谷君のことを事前に話しておいてくれたら僕だってもっとスムーズに理解できたはずだよ」
「それはお前がほとんど部室に顔を見せないからだ。招集だっていつも無視しているだろう」
「僕もいろいろ忙しいからね。こう見えて社会人だし。でも、アップデートがあったことを知らせてくれてたらちゃんと行ったはずだよ。昨日、開谷君と柊木さんが立て続けにステータスオープンできないって言ってうちのクリニックに来なかったら、今でも異変に気付かないままだったかもしれないんだから」
柊木さんもあの後、クリニックに行ったのか。俺の行動が少しでも彼女の役に立ってるならいいんだけど。
「私はお前が気付かないままでも一向に構わなかったんだけどな。まあ、オーライのことはさておきタイタン、君が言うように固有スキルの件はパッチとは無関係と見て間違いない。今回の招集はステータスオープンに新しいパッチが当たった件とのことだったが、この固有スキルの件については別途議題に上げる必要がありそうだな。パッチの詳しい内容も気になるが、今説明してもらっても二度手間になってしまうし、それについての報告はイデアが来るのを待ってからにしよう」
そう言うと、梢子先輩は未だ落ち込んでいた郎樹の方に向き直って彼を慰めた。俺は明梨が来るまでの間、柊木さんのことについて上部先生に尋ねることにした。
「あの、上部先生ちょっといいですか?」
「なんだい?」
「柊木さんも昨日、クリニックに来たって言ってましたけど、彼女にも突発性ステータスオープン障害の診断証は発行してもらえたんでしょうか?」
「ああ、もちろんだよ。というか、もともとは彼女のために用意していたものだったからね。1年生の女子にステータスオープンできない子がいるって噂は僕も知ってたから、それで近々来るんじゃないかと思って準備していたんだ。そしたら女子じゃなくて男子がステータスオープンできないって言って来たもんだから驚いたよ。予備を用意しておいてよかった」
それであんなにスムーズに診断証をもらえたのか。柊木さんのこと助けたつもりだったけど、逆に助けられてたってことかな。
「それは良かったです。彼女、担任の先生に何か頼み事してたけど、ステータスを見せないと対応してもらえないらしくて困ってたみたいだったんで。学校関係での用事なら診断証があれば何とかなりますよね?」
「詳しくは分からないけど私立の学校でも公共施設ではあるし、普通は対応してないなんてことはないんじゃないかな? まあ仮に対応してなくても僕が力になるから安心していいよ」
と、ここで勢いよくドアが開いて明梨が中に入ってきた。
「みんな大変! オカルト研究会の表札がおかしくなってるの! スクールアノマリーとかいうわけ分からない言葉が書いてあって……って、あれ? みんなどうしたの?」
明梨には悪いが1人だけ事情を知らない彼女がピエロのように見えてしまったのは致し方ない事だっただろう。あまりの勢いある明梨の登場に、落ち込んでいた郎樹もそれを慰めていた梢子先輩も含めて部室にいたみんなは堪え切れずに笑ってしまったのだった。




