ステータス4:先輩
授業が終わり、約束の放課後がやってきた。日直だった俺が仕事を片付けて教室に戻ってくると、机の上に書き置きがあった。辛坊君からのようだ。
『開谷君へ。先に部室に行っているよ。部室の場所は旧校舎の2階、階段を上がってから左に曲がって2つ目の部屋。君が来るのを楽しみにしているよ」
旧校舎か。授業じゃ使わないし行ったことなかったな。小規模な部活とか研究会の活動場所として使われてる、って聞いたことがあったけど、オカルト研究会もその例に漏れずって感じか。
思えば中学の頃から明梨のことばっかりで、部活なんて考えてもいなかった。オカルトに興味なんてちっともないけど、活動内容次第で入部を検討してもいいかもしれない。歩きながらそうこう考えているうちに俺は旧校舎の2階に辿り着いた。確かオカルト研究会は左に曲がって2つ目の……って、なんじゃこりゃ?
『スクールアノマリー』
辛坊君の書き置きにあった部屋のドアの上には、そう書かれた札が付いていた。部屋を1つ間違えたかと思って両隣の部屋も確認してみたが、左隣の部屋には『情報処理部』、右隣の部屋には『将棋研究会』の札が付いていた。
ここがオカルト研究会の部室……なのか? スクールアノマリーって何だ? うーん……まあ入ってみれば分かることだし、そんなに考えても仕方ないか。
俺はコンコンッと軽くノックし、意を決してドアを開いた。
「失礼します」
「やあ、君が開谷君だね?」
ドアの向こうに待っていたのは黒髪ストレートの髪が美しい、目の覚めるような美人さんだった。小学生の頃の男勝りな面影を残しつつ、快活で朗らかで『可愛い』という言葉が似合う明梨とは正反対に、彼女は凛として清楚で『美しい』という言葉が相応しい容姿をしていた。
「あの……はい、開谷です。ここがオカルト研究会の部室で合ってますか?」
「合っているよ。表の札にも小さく書いてあったはずだが、少々目立たなかったかな?」
そう言われてドアを開けて外の札をよく確認してみると、確かに左上隅に小さく『オカルト研究会』と書かれていた。こんな詐欺広告みたいな小さい文字、気付く人いないでしょ。
「それで、え……えっと、辛坊君は?」
「彼には少し席を外してもらっている。私は3年の灘梢子。オカルト研究会、通称『スクールアノマリー』の会長だ」
「え……えっと、灘せんぱ―――」
「灘って呼ばれるのは好きじゃなくてね。私のことは梢子と呼んでくれ給え」
言いかけた俺の言葉を遮るように彼女はそう言った。俺は彼女に聞きたいことがあるのに、口がうまく動かなくなっていた。彼女の凛とした風貌と尊大な口調から醸し出される空気に、完全に呑まれてしまっていたのだ。
「緊張しているね。いいんだ、最初は皆そうだから。何人、いや何十人も見てきた。だから人払いをさせてもらったんだ。ちょっと失礼するよ」
そう言うと彼女は俺の方へと歩み寄り、そして頬にキスをした……キス……え?
「ちょっ……いきなり何するんですか、梢子先輩!」
「緊張が解ける呪いさ。ほら、もう怖くないだろう?」
「そりゃ突然こんなことされたら、それどころじゃなくなりますよ」
「どっちでもいいさ。ところで、君は私に何か聞きたいことがあるんじゃないかな?」
「……そうでした。まずは、その『スクールアノマリー』って何ですか?」
梢子先輩はいわゆる中二病患者がよくやるような、悩まし気に片目を隠すポーズを取って語り始めた。
「スクールアノマリー、それはこの須帝高校のアノマリーであり、アノマリーを見つけて監視し、必要とあれば解析、処理する組織。オカルト研究会は仮の名前であり隠れ蓑。これが須帝高校スクールアノマリーだ!」
あ、この人ヤバい人だ。俺の直感がそう告げていた。