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ステータス36:泥塗

「あの……開谷君、大丈夫?」


 転がりながら痛みに耐えていた俺に声を掛けてきたのは白居さんだった。どうやら柊木さんが立ち去った後に角から出てきたらしい。俺は彼女が近付いて来ていたことにも気付かず転がり回っていたようだ。


「……白居……さん?」

「先生か誰か、人呼んでこようか?」

「いや、大丈夫。痛みもだいぶ収まってきたから」


 そう言いながら俺はなんとか半身を起こした。服に付いた草を払っていると、白居さんは俺の手の届かない背中の方を払うのを手伝ってくれた。


「ありがとう、白居さん」

「えと……どういたしまして。でも、泥汚れは取れないから寮に帰って着替えた方がいいかも」

「ハハッ、そうするよ」

「うん。それとこれ」


 白居さんは落ちていた突発性ステータスオープン障害の診断証を拾って手渡してくれた。


「ぶつかった時に落としてたのか。ありがとう」

「その突発性ステータスオープン障害って何?」

「俺も詳しくは知らないけど、ステータスオープンできない症状の人をそう言うんだって。それで、この診断証があれば公共施設とかではなんとかなるってクリニックの先生が」

「そんなのがあるんだ……やっぱり私じゃ分からないことばっかりだね」


 悲し気な表情を見せる白居さん。


「そんな気落ちすることないと思うよ。俺だったらそうやって気遣って分かろうとしてくれてる人がいるってだけでもうれしいもん」

「ありがとう。やっぱり開谷君、そんなに悪い人には思えないけどな。さっきのアレはちょっと……その……アレだったけど」


 アレ……? あ、さっきの押し倒してからのアレか。


「いや、ただの事故だから。正座させられて脚が痺れてて、ね?」


 俺が少し手を動かしてジェスチャーしただけで白居さんは露骨に自分の胸を庇っていた。


「わ……分かってるよ」


 いや、分かってないでしょ。まあ弁明するだけ無駄か。はたから見たら、女子を押し倒して胸触って股間蹴られた男子だもんな。


 俺は手を後ろで組んで、何もしないアピールをして話を再開させた。


「えっと、その診断証のことは柊木さんにも話したから、さっき先生と揉めてた件はそれで解決すると思うよ」

「そっか、それを星来ちゃんに伝えるために急に出て行ったんだね。それで、星来ちゃんどこ行ったか分かる?」

「うーん……急いでるみたいだったし、診断証を貰いに行ったんなら上部クリニックに行ったのかも?」

「上部クリニック?」

「俺が診断証をもらった学校の裏手にあるクリニック。上部先生って言う、うちの高校のスクールカウンセラーの人がやってるんだ」

「へー、知らなかった。じゃあ私も行ってみる。色々ありがとね、開谷君」

「うん、じゃあまた。えっと、柊木さんにも……その……よろしくね」

「……うん」


 彼女が去ったのを見届けた後、俺は立ち上がってズボンに付いていた残りの草を払った。


 うわ……白居さんも言ってたけど、泥汚れがけっこうひどいな。寮に帰って着替えて……はぁ……まだ起きてから大して時間経ってないけど、なんか今日は疲れたし、もう出歩くのはよそう。


 そう考えた俺は寮へ戻り、病院に行ったことを母に電話で報告してから、洗濯やら掃除やらの家事をして夜までの時間を過ごしだ。そして、家事仕事等のやるべきことが一段落した俺はマーマンさんとオールデストサークルの続きを少しだけプレイすることにした。


 やることはやったし、明日の準備もしっかりやった。昨日、中途半端なところで終わっちゃってたのが気になってたから、今日はそこだけでも終わらせたいな。


「マーマンさん、二日連続ですみません」

「いいのいいのー。今日は朝から敵対プレイばっかりしてたから、フレンドと協力プレイして浄化されたいと思ってたとこだったんだよー」

「アッハッハ、それは病みそうですね。じゃあ今日は昨日の続きで『三毛猫の肉球、マレーニャ』戦、お願いできますか?」

「マレーニャかー。あいつは……うーん、控えめに言って出るゲーム間違えてるよねー」


 その後、俺とマーマンさんはその出るゲームを間違えてると称されたボスをヒイヒイ言いながらなんとか倒したのだった。


「あ、もうこんな時間か。切りもいいんで今日はここら辺で終わりにさせてください。それにしても第2形態の『モフモフの化身、マレーニャ』は本当にヤバかったですね」

「だねー。僕も初見ソロでやった時は今日の比じゃないくらい苦戦したよー。それはそうと、ソロもいいけどやっぱりマルチは楽しいねー。またいつでも誘ってよー」

「部活入ったんで前ほど一緒にはできないかもですけど、時間が合う時はまたよろしくお願いします」

「部活かー、青春だねー。何の部活ー?」

「スクールアノマリーっていうんですけど」

「スクール……?」


 あ、いつの間にか普通になってたけど、スクールアノマリーなんて言って通じるわけないか。


「えっと……まあ平たく言えばオカルト研究会みたいなものです」

「オカルト研究会かー。実は僕も高校時代はオカルト研究会だったんだよー」

「へー、マーマンさんはゲーム一筋だと思ってました」

「って言っても1年も在籍してないけどねー。3年の頃に変な1年生の女子に絡まれてねー。可愛かったからホイホイついていったら入ることになってたんだー」

「それは災難でしたね」

「まあ、アレはアレで楽しかったしいい思い出だよー。それじゃ、そろそろ終わろうかー」

「はい、今日も手伝ってもらってありがとうございました。それじゃあまた」

「はーい、まったねー」


 寝る準備をしっかりしていた俺は、この日はゲームを終了してすぐにベッドに横になった。


 ツナナさんもギーラも今日もずっとオフラインのままだったな。まあ、日曜の遅い時間だったってのもあるかもだけど。しかし、マーマンさんはいつでもいるよな。これはこれで逆に心配だな。まあ、今は人の心配をしてる場合じゃないか。スクールアノマリーの活動、自分の能力とアノマリーになった原因、柊木さんとの仲、課題は山積みだ。明日からまた頑張ろう。


 こうして俺はステータスオープンを知ってから2度目の週末を終えたのだった。


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