ステータス35:陳謝
長谷川先生が去った後、俺は正座をさせられて柊木さんから説教を受けていた。
「―――だいたいあんた、もうルール忘れたの? 話していいのは私から声掛けた時だけって言ったでしょうが!」
「はい、すみません」
「それにあの白々しい演技は何? あんなので騙せるとでも思ってたわけ?」
「はい、すみません」
柊木さんのお説教は続く。俺は壊れたラジオのように謝罪を繰り返した。
「どうせまたこそこそ隠れて盗み聞きでもしてたんでしょう?」
「はい、すみません」
「……ねえ、謝ってればいいとでも思ってるわけ?」
「はい、すみませ……あっ……」
「『あっ』じゃないわよ!」
「はい、すみません!」
「……」
「……」
お説教が止んでしばらくして、恐る恐る顔を上げると、柊木さんは腕組みをしてジッと俺のことを睨んでいた。俺は慌てて再び顔を下げた。
「はぁ……もういいから。出てきたからには何かあるんでしょう?」
「はい、すみません」
「……本気で怒らせたいわけ?」
「はい……あ、ちが……あの……は……話しても?」
「話しなさい」
「……ふぅ……」
どうやら嵐は去ったようだ、と思ったとたん安堵の息が漏れる。ともかくこれで話を聞いてもらえる状況にはできた。俺にしては上出来だ。
「あのですね、実はわたくし、さきほど心療内科のクリニックに行って、こういうものを手に入れたのです」
俺はポケットから診断証を取り出して柊木さんに見せた。
「それは何?」
「これは突発性ステータスオープン障害という症状の診断証です」
「突発性ステータスオープン障害って何? ふざけてるの?」
「そうおっしゃられるのも無理はありません。わたくしも最初聞いた時は何かの冗談かと思った次第でして。しかし、これは現実に存在するステータスオープンできない人を総合的に指す言葉のようなのです」
「ふーん。それで、それがあると何がうれしいの?」
「わたくしが行った上部クリニックの先生がおっしゃられるには、これがあればステータスオープンできなくても公共施設などでは対応してもらえる、とのことでした」
柊木さんは俺から診断証を取ってマジマジとそれを見ていた。
「……そのクリニック、どこにあるの?」
「この高校の裏手、敷地内にございます。先生はこの学校のスクールカウンセラーも務めているとのことでした」
「わかったわ。これを伝えたかったのね? 今回の件は許してあげるから、そのふざけたしゃべり方、そろそろ止めてくれるかしら?」
「あ……なんかごめん」
妙な威圧感で女王様でも相手にしてるような感じになっちゃってたな。実際にそんな身分の人にあったことはないけども。
「えっと、何で揉めてたのか知らないけど、ステータスオープンできないのが原因なら、これがあれば解決できるかもしれない。だから柊木さんも上部クリニックに行ってみたら?」
「そうね……でも、気に食わないわ」
「え、ごめん」
「あんたがじゃないわよ。気に食わないのはまるで病気みたいに扱われること、よ。どう考えたってステータスオープンなんてできる方がおかしいじゃない? それがなんで私やあんたみたいに、それができない方がおかしいみたいな扱いを受けてるの? ほんっとうに意味わかんない!」
それは正にその通りだな。スクールアノマリーとか色々でてきていつの間にか順応してたけど、最初は俺もそういう感じだったし。俺はステータスオープンがアノマリーの能力によるものだって言われて納得したんだっけ? でも、よくよく考えたらアノマリーだっておかしな話だよな。まるでステータスオープンっていう目の前に出てきた異物を無理やり納得させるために用意されたかのような……。
黙って考えている俺に、珍しく少し不安げな表情で柊木さんは尋ねてきた。
「……ねえ、あんたもステータスなんてなかった時のこと、覚えてるんならそう思うでしょ?」
「えっと……まあそれはそうだけど、とにかく今はそういう世の中になっちゃってるわけだから……」
「なんでそうやって受け入れられるの? 私はもう何が何だか分かんないよ……」
柊木さんの手、震えてる。やっぱり不安だったんだ。気持ちを分かってあげられる、とまではいかなくても、同じ状況にある人間として少しでも支えになってあげなきゃ……。
「大丈夫、大丈夫だよ。俺が力になってあげるから……」
そう言って俺は立ち上がり、彼女の手を取ろうとした。しかし、正座で痺れていた脚が言うことを聞かずに彼女をそのまま押し倒してしまったのだった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
「イテテテテッ……ん?」
彼女の手を取ろうと差し出した自分の手を確認すると、まるでどこぞのラノベ主人公のように俺の手は彼女の胸部をぴったりと捉えていた。
こういうことって本当にあるんだなー。ラッキースケベって言うんだっけー? ラノベ主人公特有のスキルかと思ってたー。もしかして、俺のアノマリーの能力の1つだったりしてー。
そんな現実逃避をしながらもしっかりと感触だけは確かめてしまうのは男の性だろう。表面は服のごわごわした感じが伝わってくるだけだったが、その奥にしっかりと熱を帯びた柔らかい感触があったのを俺の手はしっかりと感じ取っていた。
「……で、何の力になってくれるのかしら?」
「あ……これはちがくてですね……その……脚が痺れて……」
「言い訳はいいから、さっさとどきなさい!」
股間に強烈な膝蹴りを入れられて俺は悶絶しながら彼女の上から転がり落ちた。
「二度と顔見せるな!」
彼女の去り際の台詞に何かを返す余裕もなく、脚の痺れと股間の痛みに転がりながら俺はただ耐えていたのだった。




