ステータス34:邪魔
上部クリニックからの帰り道、女子生徒が校舎の角に隠れてこそこそと何かを覗いているところに俺は遭遇した。
何してるんだろう? というかこのおさげの髪、どこかで見たような……? たしか昨日の体験入部で柊木さんと一緒にいた……。
「白居さん?」
「……? ……開谷君?」
なんか勢いで声掛けちゃったけど、昨日たまたま一緒に体験入部しただけでろくに話してもなかったんだっけ?
「突然声掛けちゃってごめん。昨日、体験入部で一緒だったからつい。なんか邪魔しちゃったみたいだし、それじゃ」
白居さんは立ち去ろうとする俺の腕を掴んで引き止めた。
「待って、開谷君。あの……開谷君もステータスオープンできないって本当?」
「え……ああ、うん」
「あのね、昨日あの後、そのことで星来ちゃんとちょっと喧嘩になっちゃって……」
「そうだったんだ。なんかごめん」
「ううん、開谷君のせいじゃないの。星来ちゃんから開谷君のこと聞いて『同じ症状の人がいたんだったらもっと仲良くした方がいい』って言ったんだけど、それが気に障っちゃったみたいで……」
ああ、なんか目に浮かぶな。知り合いくらいにはなれたと思うけど、仲良くって感じでもなかったもんな。
「俺も仲良くはしたいけど、色々あって今は柊木さんの方がその気になってくれるのを待つことにしてるんだ」
「あの……ごめん、星来ちゃんから……その……開谷君のことは少し聞いてる」
この反応……ストーキングしてたとか、あることないこと言われてそうだな……。
「ご……誤解だからね! ストーカーとかそういうのじゃないから!」
「わかってる。けど、星来ちゃんはただでさえステータスオープンのことで神経質になってたところに知らない男子に付きまとわれたわけだから、その……そういう風に見えちゃったって言うのも分かってあげて欲しいの」
……言われてみればその通りだ。スクールアノマリーの初仕事だって浮足立って、梢子先輩の期待に応えたくて、早く一人前だって認められたくて……そんなことばかり考えていた。少しでも彼女の側に立って考えていれば分かったことだったのに。
「……ありがとう、白居さん。言われてようやく気付いたよ。俺が最初にステータスオープンのことを知った時と同じように、柊木さんも不安を感じてたんだ」
「うん。きっと星来ちゃんも本当は同じ不安を抱える開谷君と話がしたいと思ってると思う。それに私じゃステータスオープンできないなんて想像もつかないし、星来ちゃんの気持ちを分かってあげられないの。だから、開谷君には星来ちゃんの力になってあげて欲しいんだ」
「俺にできることなら何でも協力するよ」
「ありがとう。それで早速相談なんだけど、あれ……」
そう言って校舎の角を覗き込み、その先の何かを指さす白居さん。指さされた方を見てみると、柊木さんが誰かと揉めているようだった。少し距離はあったが、聞き耳を立てれば何とか内容を聞きとることはできた。
「―――だーかーらー、ステータスオープンはできないって言ってるじゃないですか? ほら、ステータスオープン!」
「柊木、それはもう分かったから。何度やって見せてもらってもダメなものはダメなんだ」
話している相手はどうやら体育の長谷川先生のようだ。たしかC組の担任だったっけ?
「それじゃなんですか? ステータスオープンできない人には人権がないんですか?」
「そんなことは言ってない。ただ、規則でステータスを確認することになってるから。それを先生の一存で変えるわけにはいかないんだよ」
「じゃあ、どうしたら対応してもらえるんですか?」
「先生もステータスオープンできないなんて生徒は初めてだから、どうしたらいいか分からないんだ」
話の流れからして何か先生に頼みごとがあって、それにはステータスを見せる必要があるって感じか。ステータスを見せる必要があることなら、突発性ステータスオープン障害の診断証があれば大丈夫かも? 柊木さんも上部クリニックで診てもらって診断証をもらえれば解決するんじゃないか?
「なんとかできるかもしれない。俺に任せて」
「え……ちょっ……開谷君?」
俺はたまたま偶然その場に居合わせたように、何食わぬ顔で校舎の角から歩いてその場に出て行った。
「ふんふーん……ん? あ……あっれー? 柊木さーん。こんなところで、偶然だねー」
「……開谷崇行」
なぜフルネーム? なんか嫌な予感がするけど、ここで怯んじゃダメだ。
「ど……どうかしたのー?」
「どうもしないから、あっち行って! ……あ、先生!」
俺の登場に柊木さんが気を取られたのを好機とばかりに、長谷川先生は柊木さんの元から走り去っていった。
「先生部活見なきゃいけないから、また明日なー!」
「先生、待って!」
先生があんな風に逃げるなんて、柊木さんどれだけ粘ってたんだ? しかし、これはマズいな……先生が居れば俺が入っても話はできると踏んでたけど、1対1だと聞く耳持ってくれないかも。
「ハハ……ハッ……なんか邪魔しちゃったみたいだねー」
「みたいじゃなくて完全に邪魔よ!」
助け舟を期待して白居さんの方をチラリと見てみてが、目が合った瞬間に首を振ってヒョイと隠れてしまった。
自分から首を突っ込んだとはいえ、これはまた面倒なことになりそうだ。




