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ステータス31:最適

 剣道部への体験入部で郎樹が仕掛けた計略によって、自分の特異な能力を自覚した獅堂先輩は明らかに戸惑っている様子だった。しかし、その後は特に何をすることもなく郎樹は道場を後にしてしまった。これだけで処理は完了なのだろうか? 郎樹は先輩が能力を使ってまで強くなりたいと思わなくする、って言ってたけど、その目標は本当に達せられたのだろうか?


 寮への帰り道、俺は郎樹にこの疑問について尋ねた。


「なあ、本当にこれで獅堂先輩の件は終わりなのか?」

「急にどうしたんだい? 異能力バトルみたいな展開でも期待していたのかい?」

「いや、違うよ。そういう期待が全くなかったかって言われたらそうでもないけど、もしそうなら俺にできることなんて何もないし。そうじゃなくて、これで先輩のアノマリーの能力は収まるのかって話」

「やることはやったよ。経過観察はするけど、これ以上なにかをするは必要はないさ。先輩は自分の能力の異質さに気付いていなかった。それを自覚さえすれば、先輩の性格ならそれを使うことを躊躇するはずだからね。後は能力が自然に弱まっていくのを待つだけさ」

「そういうもんなのか?」

「まあアノマリーのタイプにもよるよ。自分の能力を自覚した時、能力に酔って暴走する人もよれば、不安になったり、恐怖したりする人もいる。必ずしも能力を自覚させることが正解ってわけじゃない。先輩の場合だとズルしているような感覚になって『こんな能力を使ってまで勝ちたくない』と思うようになる。そうするとアノマリーになった原因である『剣道が強くなりたい』という想いと能力が乖離して、能力は弱まっていく。だから今回は能力を自覚させる方法を選んだんだ」


 俺はこのアップデートの能力を使って世界を変えたい、なんて思ってないけど、これはきっと俺の原因と重なってないからそれで能力が弱まることはないんだろうな。俺には俺の、柊木さんには柊木さんの原因があって、それを見つけて解決するしかないんだ。


「……なるほどね。アノマリーによって最適な処理の方法は違ってくるってことか」

「そういうこと。それを見極めるために監視と解析の際には能力だけじゃなく、対象の性格や周囲の環境についても考慮しておく必要がある。今回、梢子先輩が君を僕に付けたのは、こういうことを分かってもらいたかったからだろうね」

「柊木さんがいたからっていうのもあったりするのかな?」

「ハハッ、それはたぶん本当に偶然さ」


 柊木さんの件は流石に考えすぎか。しかし、獅堂先輩の能力って傍目にはただ先輩自身が敏感になってるだけで、周りに影響を与えたりはしてなかったよな? 本当に処理する必要あったのか?


「もう1ついいか? 実際に獅堂先輩の能力を見て、あれがアップデートや郎樹のカメラの能力みたいに他人に影響を与えるようなものには思えなかったけど、どうして影響度レベル2だったんだ?」

「アノマリーの影響っていうのは能力によって直接引き起こされるものだけじゃなくて、その能力によって通常とは違う結果がもたらされること全般を指す、と考えてくれた方がいいかな。確かに先輩の能力は直接的には他人に影響は与えなかった。だけど、先輩が能力を無意識に使うことによって、試合の結果や剣道部の代表が変わる可能性があった。それが先輩がレベル2と判断された理由だよ」

「それだと逆にレベル1なんてほとんどいないんじゃ……?」

「例えば動物の例で梢子先輩が挙げた『おしっこが常に二股になる犬』。あれと同じ能力を人間が発現したとして、それが何かの結果を左右したりはしないだろう? せいぜい本人が小便器に一歩近づくようになるだけさ。アノマリーの能力はそういう下らないものも多いんだよ」


 小便が常に二股に……か。そもそも他人に見せるものでもないから、それは影響を与えようがないな。


「なるほどね。でも、アノマリーの能力で結果が変わると何がマズいんだ?」

「能力によって結果を変えられた人間は別のアノマリーとして覚醒しやすいんだ。本人が捻じ曲げられた結果を大きいものだと感じていればいるほどその可能性は高い。だから大きな影響を与える前に僕らはアノマリーを発見して処理しなくちゃいけない」

「アップデートの能力者が近くにいるからなおさら、ってことか」

「そうだね。実際、今回の獅堂先輩の件は普段なら放っておいても問題ない程度のものだった。アップデートの余波でこの学校の人間はただでさえアノマリーに覚醒しやすくなっているから、少しでも可能性があるなら早めに摘んでおこうっていう梢子先輩の判断で処理することになったんだ」


 やっぱりアップデートが関係してるのか……俺と柊木さんのどちらがアップデートの能力者なのか、そして能力に目覚めた原因は何なのかを突き止めて、早くアップデートを終わりにしないといけないな。


「いろいろ参考になったよ。ありがとう、郎樹」

「どういたしまして。それじゃ、僕はいったん部屋に戻るからここで。今日これからと明日はスクールアノマリーの活動はないから、君も久しぶりにゆっくりするといいよ」

「了解。じゃあまたな」


 そう言って俺達は寮の入り口で別れた。


 何はともあれ柊木さんとは知人と言えるくらいにはなれたし、他にやることもない。思えば屋上でのステータスオープンの件からずっと気が休まることがなかったし、郎樹が言うように残りの週末は久しぶりにゆっくりしようかな?


 そんなことを考えながら、この日は自室に戻ったのだった。


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