ステータス30:計略
俺と柊木さんの関係が改善の兆しを見せ始めていた頃、郎樹と白居さんの試合はお互いが1本ずつを取り合って、最後の1本勝負を迎えていた。
しっかし、本当に遅い動きだなー。普段はもっと早く動けてるのに試合になるとデバフがかかったみたいにああいう動きしかできなくなるのか? 他のスポーツでもああいう感じなのかな? 今週の体育の短距離走はみんな普通に走ってたし、競技全部でそうってわけじゃないんだろうけど、それは走るっていう基本動作だったからって可能性もあるよな。
俺がそんなことを考えているうちに、最後の1本を白居さんが取って試合は終了した。そして、試合場から出るタイミングになって郎樹は獅堂先輩に対して何かを仕掛け始めたようだった。
「おっと、大丈夫か辛坊君?」
獅堂先輩の背後でつまづいて転びそうになった郎樹を先輩は振り向きざまに支えた。
「ありがとうございます、先輩。でもよく僕が転びそうになったの分かりましたね。まるで後ろに目がついてるみたいです」
「そうか? なんか最近感覚が鋭くてな。近くのものの動きが手に取るように分かるんだ」
「それはすごいですね! もしかして目をつぶってても分かるんですか?」
「やってみたことはないが……」
「1回やってみましょうよ。試しに僕と目隠しで勝負とか、どうです?」
「いや、しかし次は開谷君と柊木さんの番だろう」
そう言って俺と柊木さんの方を伺う先輩。郎樹は何か考えがあってやってるはずだ。ここはアシストすべきだろう。
「俺はそっちの方が見てみたいです」
「私も! 私もそっちの方が面白そう!」
柊木さんも好奇心からか無邪気に俺に賛同してくれた。獅堂先輩は少し考えてから応えた。
「うーむ……部活でそういうお遊びはあんまり良くないんだが、まあいいだろう。1回だけな」
開始位置に立って、前が見えないよう目隠しをしてから構える先輩。
「いつでもいいぞ。一応始める前に一言くれよな」
「わかりました」
そう答えた後、郎樹はおもむろにジェスチャーで何やら俺に指示を送ってきた。どうやら後ろから同時に攻撃しろ、と言っているようだ。
「あんた本気でやるの? やめといた方がいいわよ、流石に先輩怒るって」
と、隣の柊木さんが小声で俺に忠告してくる。そうだよなあ……でも、たぶんアノマリーの処理に関することなんだろうし、やらないわけにはいかない。
「忠告ありがとう。でも、やるよ。きっと必要なことなんだ」
「……? どうなっても知らないわよ」
獅堂先輩の背後に俺が付くと、先輩にバレないように俺と郎樹はジェスチャーで作戦を確認しあった。作戦は試合開始と同時に郎樹が前から面を、俺が後ろから胴を同時に叩き込むということに決まった。そうして、俺と郎樹の2人と目隠しした獅堂先輩という変則試合は幕を開けたのだった。
「じゃあ先輩、行かせてもらいますよ!」
「おう! いつでもかかってこい!」
「それじゃあ……めーーーーーーん!」
郎樹は開始と同時にあの勢いのない突進からの面を繰り出した。作戦通り俺は後ろから近づいて胴を繰り出す。正面からで掛け声もあった郎樹の攻撃には対応できたとしても、後ろから声もなく繰り出した俺の攻撃には普通は対応できないはずだ。しかし……。
「どーーう! こてーーーーー!」
先輩は前に踏み込んで郎樹に胴を繰り出すと同時に背後からの俺の攻撃を避け、体を翻して俺の腕に小手の一撃を入れたのだった。目隠しを外した先輩は驚いたような表情で俺のことをじっと見つめていた。
「……あ……す……すみません!」
「いや……いい……それはいいんだ……」
怒ってはいないっぽい? というか困惑してるような感じだ。ちょうど俺が初めて自分の能力について知った時のように。と、ここで郎樹が俺の横に来て先輩に声を掛ける。
「でも、本当に目をつぶってても分かるなんてすごいです。これも剣道のスキルの一種なんですか?」
「いや……そんなスキルはない……はず。取ってたら覚えてるだろうし……」
「ですよね。スキルの領域を超えてますし、本当に超能力みたいです。先輩が剣道強いのはこの能力があるからなんですね?」
「……俺はそんなに強くないよ。常に代表の5番手争いさ。部長になったのも他の3年の代表がやりたがらなかったからってだけだ。それが最近、調子が良かったのは……いや、調子が良かったわけでも、強くなったわけでもない……?」
先輩はその後、沈黙したまま考え込んでから口を開いた。
「……すまんが今日の体験入部はここまでにさせてくれ。もしまだやりたかったら他の部員を呼ぶが……」
「僕らはここまでで大丈夫です。ね、崇行君?」
「郎樹がそう言うなら」
「私ももういいわ。最後のすごかったし十分楽しめた。志穂は?」
「えっと……私は……また今度来ます!」
こうして、俺達の剣道部への体験入部は終わったのだった。




