ステータス3:義理
告白の翌日、俺は昨日の一件を問いただそうと、教室の前で明梨を待っていた。しかし、明梨は俺の姿を見るや否や、避けるように教室の中にダッシュで入って行ってしまった。
「明梨! なんで避けるんだ? ちゃんと話をさせてくれ!」
教室の入り口から呼び掛けるが、明梨はこっちを向こうともしない。
「開谷君、周りの迷惑になっているよ。もうすぐ始業時間だから、一緒に僕らの教室に戻ろう」
そう言って俺の肩を掴んだのは同じクラスの……誰だっけ? この小柄で特徴的な丸眼鏡を掛けた男子には確かに見覚えがあったが、名前が出てこない。
「えっと……君は同じクラスの……」
「辛坊郎樹だよ。こうやって、しっかり話すのは初めてだね、開谷君。教室まで歩きながら、もうちょっと話をさせてもらってもいいかな?」
「ああ、わかった」
俺は騒がしくしてしまったことを明梨のクラスメイトの上級生に謝罪して、辛坊と共にその場を後にした。
「さっきは止めてくれてありがとう。なんか周りが見えなくなってたみたいだ」
「いや、いいんだ。君みたいな熱い男、僕は嫌いじゃないよ」
「ははっ……いつもはこんなんじゃないんだけどな。昨日その……ちょっと一悶着あってさ」
「大体のことは高井戸先輩から聞いてるよ」
そう言うと、辛坊君は眼鏡をクイッと上げた。
「聞いてるって明梨の奴、俺がアイツに告ったこと他人に話したのか!」
「いや、その話は聞いてない」
「え……? じゃあ、一体何を?」
「君がステータスオープンできない、って話さ」
なんだそっちか……って俺、余計な事を自分から話してしまってるじゃん!
「あの……辛坊君。今、聞いた話はなかったことに……」
「別に他人の色恋沙汰をどうこう言う趣味はないよ。でも、ちょうどよかった。君の秘密を握れたみたいだね。これでスムーズに事が運びそうだ」
これはアレか? クラスの皆にばらされたくなかったらパン買ってこいとか、そういうのか?
「えっと、俺になんかやらせようとしてる? パシリとかは勘弁して欲しいんだが……」
「パシリか、ちょっと違うかな。僕が君に求めているのはオカルト研究会に入って欲しいってことだよ」
「ばらされたくなければ、ってこと?」
「いや、これは脅迫じゃなくて、ただのお願い。君が断っても告白の件を誰かに言うつもりはない。ただ、オカルト研究会のメンバーはみんな君がステータスオープンできない件を知ってる。高井戸先輩が昨日、その件を相談しに来たからね」
昨日、明梨が急用を思い出したって言って屋上から去ったのはそのためだったのか。てっきり、その場を離れるための方便かと思ってた。
「別に『ステータスオープンできない』なんて秘密でも何でもないし、それは脅し文句にはならないぞ。むしろ俺からしたら、そんなことできる方がおかしいんだ」
そう言った俺を見る辛坊君の顔は、とても興味深い研究対象を見るような好奇心に満ちた表情をしていた。それは昨日、明梨が去り際に見せた表情とは正反対のように思えたが、異質な物を見るような表情という点では一致していた。
「脅すつもりなんかないよ。僕たちオカルト研究会は、君がステータスオープンできない件をもっと詳しく知りたいだけなんだ。入部を強制まではしないけど、さっき騒いでいたのを止めてあげた件と、僕に秘密を口止めした件で、君は僕に二つの借りがあるよね? だから一度、部室に来て話を聞かせてくれるくらいの義理はあるんじゃないかな?」
「なるほど、義理ね。物は言い様だな。でも、少なくとも辛坊君が強い言葉を使わないように気を付けてくれたことは分かった。だから、その義理に対して部室に言って話をするくらいなら構わないさ。今日の放課後でいいか?」
「ありがとう開谷君。それじゃあ放課後、部室で待ってるよ」
そう約束したところで、ちょうど教室に着いた俺達二人は何事もなかったかのように席に着いた。特に接点もなかった二人が一緒に教室に入ってきたことを訝しがっているクラスメイトがいる、ような気がした。だけど、クラスの他の奴らは二人の間に何があったのかを知らないのだ。俺はなんだかとても重要な秘密を共有したような気がして、少しワクワクした気分になっていた。