ステータス28:技能
獅堂先輩は自分のギャグが1年生達にウケなかったことに首を傾げていた。
「おっかしいな、鉄板だったのに……もしかして分からなかったのか? 俺、獅堂が指導するって……な?」
いや、『な?』じゃないから。1回滑ったギャグの説明とか1番やっちゃいけないやつだから。獅堂先輩、写真で見た時はごつくて怖そうと思ってたけど、こんなキャラだったのか……。
先輩の親父ギャグに耐えかねたのか柊木さんが口を開く。
「やっぱ私帰る!」
「星来ちゃん待って、お願い。先輩も悪気があったわけじゃ……」
「先輩の親父ギャグはどうでもいいの! 私が気に食わないのはそこのそいつよ」
こちらを見もせず少し首をこちら側に振っただけだったが『そこのそいつ』とは、まあどう考えても俺のことだろう。連れの女子がなだめるが、柊木さんは聞き入れない様子だった。そこへ獅堂先輩が割って入る。
「まあせっかく道場まで来たんだ。それに連れの子も1人になると心細いだろう? 友達のためにも残ってあげて欲しいな」
「……はぁ……分かりましたよ」
「よし、それじゃあ改めて4人自己紹介しておこうか」
先輩の仲裁でなんとか事なきを得た俺達は、促されるまま今日剣道部に体験入部する4人で自己紹介を始めた。
「1年B組の開谷崇行です。今日はよろしくお願いします」
「同じくB組の辛坊郎樹です。よろしくお願いします」
「C組、柊木星来」
「せ……星来ちゃん、もうちょっとちゃんと挨拶しようよ。え……えっと1年C組の白居志穂です。よろしくお願いします」
「よし、じゃあ今日1日はみんな剣道部の後輩だ。正式入部してくれるようにしっかり親切指導してやるからな。ガッハッハ」
先輩の豪快な笑いで自己紹介は締めくくられ、俺達は防具を身に着けるためにいったん男女それぞれの更衣室へと向かった。その後、俺と郎樹は獅堂先輩の、柊木さんと白居さんは女子の部員の手伝いを受けて防具を身に着け、道場へ再び戻って来たのだった。
「みんな似合ってるぞ」
と、獅堂先輩。似合うも何も面で隠れててほとんど分からなそうだけど……。
「始める前に確認だが、君達は剣道の経験はあるのかな?」
「中学の時に授業で習っただけです」
俺の言葉に他の3人も、自分もそうだと頷く。
「そうか。でも授業でやってるなら、その時に剣道スキルはレベル1にはしてるよな?」
うわっ……ここでスキルが出てくるのか。どうしよう……見せろとは言われてないし、とりあえず取ったことにしておけばいいか?
「も……もちろんですよー」
そう答えた直後、俺の腕を誰かがグイッと後ろへ引っ張った。柊木さんだ。俺は少し後ろに下がって小声で彼女に話しかけた。
「どうしたの?」
「あんた、ステータスオープンできないんでしょう? ならスキルも取れないはずよね? なに嘘ついてるのよ」
「いや、この場でそんなこと言ったって仕方ないだろ? とりあえずスキル持ってることにしておいた方がいいって。お前もそういう事にしとけよ」
「……なに命令してんのよ。でもまあ今回はあんたの案に乗ってあげる。変な事で時間取ったら志穂に悪いし」
コホンッ、と獅堂先輩が咳払いをして俺達の注意を引く。
「内緒話は終わったかな?」
「あ、すみません」
俺は元の位置に戻り、ペコペコと頭を下げた。柊木さんも小さな声で謝った後に、軽く頭を下げていたようだった。
「それじゃ、他のみんなも剣道スキルは持ってるってことでいいね?」
「はい」
みんなが返事をしたのを確認して先輩は続けた。
「他のスポーツ系のスキルにも言えることだが、基本スキルには競技をするための最低限の動きが含まれている。レベル1でも持っていればとりあえずは動けるはずだ。体がそれをしっかり実行できるかは能力値や経験にもよるし、より高度な動きをするにはより高いスキルレベルや関連スキルの取得が必要になるが、少なくとも君達はすでに試合をできるだけの下地はあるというわけだ。部に入ったら素振りや足捌きなんかの練習も当然することになるけど、今日はせっかく体験入部にきてもらったんだ。試合をして、剣道の楽しさを知ってもらいたい」
そう言うと、先輩は試合の基本的なルールや注意事項などを説明して、実際に他の部員との模擬試合をやって見せてくれた。
「―――とまあ、こういう感じだな。じゃあ、とりあえず男子同士、女子同士で1回やってみようか。まずは男子から」
先輩に促されて、俺と郎樹は試合場へと向かった。その途中、郎樹が小声で話しかけてきた。
「崇行君、実は僕はちょっと興味があったんだ。スキルがないはずの君がスキルが必要な行動を本当にできるのか、ね。本来スキルが必要なことをスキルを持たない人間ができるなんて、この世界では考えられないこと。君からしたら僕達の方がおかしいのかもしれないけれど」
「……全く変な世の中になっちまったもんだ。スキルなんてなくても面も胴も打てるし、化粧だってできる。それが普通だったんだ。俺はそのスキルとやらがどんなものなのかの方に興味津々だね」
「じゃあ、お互いこの試合でそれを確かめ合おうじゃないか」
「そう……だな!」
事情を知らない人がはたから聞いていたら中二病臭く思えるような会話を繰り広げた後、俺と郎樹は開始位置に着いて竹刀を構えた。そこへ審判を務める獅堂先輩がやってきて、2人の顔を交互に見ながら言った。
「じゃあ、さっきやって見せたのと同じ3本勝負だ。お互い怪我にだけは注意して……始め!」
こうして俺と郎樹の試合は幕を開けたのだった。




