ステータス24:温玉
水曜日、『柊木さんと仲良くなろう大作戦』2日目。この日は彼女と共に前日、旧校舎に行ったクラスメイトが情報処理部に所属していることを突き止めた。ということは、おそらく柊木さんが入っていったのも情報処理部の部室だろう。一歩前進だ。
木曜日、3日目。彼女が昼食にいつもラーメンを食べていることが判明する。昨日も一昨日も昼はラーメンだった。3日連続というのは偶然じゃないはずだ。きっと昼はラーメンを食べるのが習慣なのだろう。ただ、この日は前日までとは違い温玉をトッピングしていた。何かいいことがあったのかもしれない。
「―――ふーん、それが昨日までの成果?」
呆れたようにそう言い放ったのは明梨だった。明梨がこんな反応をするのも無理はない。今はもう期限である金曜日の昼休み。俺は今までいったい何をしていたのか。呑気に学食で昼飯を食べていていいのか。
「だって、なかなかタイミングが……」
「だってもヘチマもない! 情報処理部の件は百歩譲って何かの役に立つかもしれないけど、ラーメンの件は何? 温玉をトッピングしてたから、だから何なの?」
「あ……アノマリーの趣向は能力に影響するって梢子先輩も言ってたし……」
「もう! 言い訳はいいから、これからどうするのか真面目に考えて!」
俺がばつの悪さから茶を啜りつつ明梨から視線を逸らすと、その視線の先に柊木さんを見つけた。
「あ、柊木さん来てる。やっぱり今日もラーメン注文してる」
「ラーメンはもういいから。崇行が相談したいって言うから来たんだよ?」
「あれ? 柊木さん、なんかこっち見てる……っていうか、こっちに来る?」
「え……?」
柊木さんはラーメンの乗ったトレイを持ってずんずんと俺達の席の方へ近づいて来て、俺の前で立ち止まった。
「ちょっとあんた、どういうつもり?」
「お……俺?」
「ごまかさないで。こそこそ私のこと付けたり、調べたりしてたの知ってるんだから。今だって私のこと見てたでしょう? 用があるなら言って」
「い……いやー、そのなんて言うか、用があるといいますか、ないともいいますか……」
俺はいきなり声を掛けられて頭が真っ白になっていた。しどろもどろにしか答えられなかったことが彼女の感情を逆撫でしたのは火を見るよりも明らかだった。
「ハッキリしなさいよ! それとも用もないのにただ付きまとってたストーカーなわけ?」
「ち……違う! お……俺はお前がステータスオープンできないって聞いて、俺も同じだから話ができないかなって……ほら、ステータスオープン!」
彼女は少し驚いた様子を見せたが、すぐにまた俺への敵意ある対応を再開した。
「……ふーん、それで声を掛けるタイミングを見計らって付きまとってたってわけ? それとも、あわよくば私の方から声を掛けてきてくれれば、とでも思ってたのかしら?」
「いや、それは……そうだけど……」
「情けない男。どっちでもいいけど、もう付きまとわないで!」
彼女はそう言い放つとその場から立ち去ろうとした。
悪い印象を持たれたままで去られるのはマズい。なんとかして引き止めないと……何か、何か彼女の気を引く話題はないか?
俺は何とかその場を取り繕おうと必死に話題を探した。そして思いついたのが……。
「あ、今日は温玉はないんだね」
「……気持ち悪い」
どうやら最悪の札を引いてしまったようだった。
それからしばらく、俺は食べかけだった昼食も手につかないほど落ち込んでいた。彼女と良い関係を築くのはもう難しいかもしれない。なんでもっとうまくやれなかったのだろう? それに温玉って何だよ……あの場を取り繕うのは無理だったとしても、書店のこととか、もっと話題はあっただろう?
落ち込んでいた俺に明梨が声を掛けてくれた。
「……崇行、元気出しなよ」
「ハハッ……なんか情けないところ見られちゃったな」
「ま……まあ何はともあれ、これで彼女と接触するって目的は達成したわけじゃない? 後はどうにか仲直りしてさ」
「仲直りも何も、もともと何もなかった関係がいきなりマイナス方向に突き抜けちゃったんだ。こっからどうやって仲良くなっていけばいいのか……」
「まあ、今日はもう無理でしょうね。柊木さんの件は今日はここまでにして、放課後に部室で進捗報告を兼ねてみんなに相談してみましょう? そしたら何かいい案を思いつくかもしれないし」
「そう……だな。1人で悩んでても解決できる気がしないし……」
「はい、じゃあこの話はもう終わり。さ、早くご飯食べないと昼休み終わっちゃうよ? ちゃんと食べなきゃ元気も出ないぞ」
明梨は努めて明るく俺に接してくれた。その優しさが痛かった。よくよく考えれば1週間近く女の子に付きまとって、あんな反応になるのは当たり前だよな……明梨だって同じことされたら嫌な気持ちになるだろう。梢子先輩が言ったように、この手のことに疎い自分が心底憎かった。




