ステータス20:前進
ステータスオープンができず、知りもしなかった人間が俺の他にもいたという梢子先輩の発言に、俺は衝撃よりもむしろ安心感を覚えていた。自分と同じ境遇の人物がいるという事実を心強く感じたからだ。俺はその人物について梢子先輩に尋ねた。
「その人も俺と同じアップデートの能力を持ったアノマリーってことですか?」
「わからない。さらに言えば、彼女の出現によって君がアップデートの能力者なのかどうかもわからなくなってしまった」
「え……? それってどういう……」
「仮に2人が同じアップデートの能力者だったとしても、一方が行ったアップデートをもう一方が観測することはできないはずなんだ。しかし、君も彼女も最初のアップデートを観測している。今のところ、考えられる可能性は2つ。1つは君と彼女の間で能力を共有している場合、もう1つは君と彼女のどちらかがアップデートの影響を受けないような能力を持った別のアノマリーである場合だ」
確かに後者のケースだと俺の能力が別の能力な可能性が出てくるな。俺がアップデートの能力者かどうかわからなくなったって言ってたのはそういうことか……。
「なんだかゴールが見えたと思った矢先にまた振り出しに戻されたような気分です。ようやく自分の能力について理解できそうだったのに……」
「彼女の出現がなければ私達は君をアップデートの能力者だと断定してしまっていただろう。仮に君がアップデートの能力者でないのにそうだと断定して誤った監視や解析を続けてしまい、周囲に大きな影響が出始めてから違うことに気付いていたら処理の段階で大きく躓く可能性もあった。これは君個人にとっては不幸な事かもしれないが、スクールアノマリーにとっては決して悪い事じゃない。そして、君はもうスクールアノマリーの一員だ」
「そう……ですね。少なくとも自分の能力がアップデートか、あるいはアップデートの影響を受けないような能力だってことは分かったんだから、一歩前進です。自分の能力がどちらか見極めるためにこれからスクールアノマリーの一員として自分で自分を監視して解析していけばいいんですよね」
梢子先輩は少し嬉しそうに俺のことを見つめて微笑んでいた。こんな顔もするのか。
「察しが良くて助かるよ。やはり私の見込みは間違っていなかったみたいだ。君が言ったように君にはスクールアノマリーの一員として活動してもらう一方で、自身の能力について監視と解析を行い、その全容を明らかにしてもらう必要がある」
「まだ新米ですけど、精一杯頑張らせてもらいます」
「期待しているよ。それから、私を含めたスクールアノマリーの他のメンバーは、君が君の能力を明らかにするための協力を惜しまない。何かあったらいつでも頼ってくれ」
「ありがとうございます。とても心強いです」
―――と、ここで誰かがドアをノックして部室に入ってきた。郎樹だ。彼は部屋に入るなり梢子先輩の方へと歩み寄り、手に持っていたノートを手渡した。
「梢子先輩、例の彼女ですが、女子寮に帰ったので今日の監視は切り上げてきました。今日の監視の成果はそのノートに」
「まあ、まずは座りたまえボーロ。イデアもいったん作業を止めて集まろうか?」
梢子先輩に促されて郎樹と明梨は席に座った。今回は俺1人が3人と相対する形ではなく、俺の隣に郎樹、梢子先輩の隣に明梨の2人ずつの形だった。
「ボーロの報告を聞く前に、改めて紹介しよう。スクールアノマリーの新たなメンバー、開谷崇行君だ。コードネームはタイタン」
「開谷崇行です。みなさん、改めてこれからよろしくお願いします」
「崇行、いろいろあったけど、心機一転またよろしくね」
「崇行君、入部を決めてくれて僕はとても嬉しいよ。こちらこそ、これからよろしく」
形式的な挨拶に過ぎなかったが、スクールアノマリーの一員になったという実感が沸々と湧いてきて、嬉しいような興奮するような、そんな妙に熱い胸の感覚を俺は覚えていた。
「タイタンの歓迎会はまた後日開くこととして、今はボーロの報告を聞こうか」
「了解しました。対象は1年C組の柊木星来。この女子生徒です」
そう言うと、郎樹は持っていたデジカメの画面を全員に見えるように傾けた。画面には青みがかったミディアムヘアに銀縁のメガネが特徴的な女子生徒が映っていた。俺はこの人物に見覚えがあった。
この銀縁のメガネ、間違いない。駅ビルの書店で店員さんと揉めていた女子だ。




