ステータス2:返事
俺の告白に明らかに戸惑っている明梨。それもそうだ。いくら仲が良かったとはいえ、まともに話したのなんて俺達が小学生だった頃以来、およそ4年ぶり。それで久しぶりに話したと思ったら、その翌日に突然の告白だもんな。無理もないか。でも、今言わなきゃきっと一生言えない、そう思ったんだ。返事がOKだろうとNGだろうと、きっとこれで俺は前に進むことが出来る。明梨にとってはいい迷惑かもしれないけど、これは俺にとって必要な儀式なんだ。
緊張に耐え切れずにゴクリと唾を飲む俺。それを合図にしたかのように、明梨は意を決して話し始めた。
「崇行、返事をする前に一つだけお願いがあるんだけど、いいかな?」
「え……えっと、返事は後からでもいいんだけど……」
今更になって尻込みする俺。なんて情けない。
「ダメ! 今、返事しなきゃ、きっと私、後悔する」
「……分かった。それで『お願い』って何?」
「あのね……崇行のステータスを全部見せて欲しいの」
……? ステータスってなんだ? いや、ゲームとかならよく聞く言葉だけど、現実にそんなものあるわけないし。『ステータスを見せて欲しい』なんて、明梨はいったい何を言ってるんだ?
「えっと、言ってる意味がよくわからないんだけど……」
「ごめん、そうだよね。ステータス全部なんて見せられるわけないよね……」
「いや、そうじゃなくて、そのステータスって何?」
訝しげな顔をする明梨。いや、その顔をしたいのはこっちなんだが。
「ちょっと崇行! ステータスが分からないなんて、ふざけないでよ!」
「いや、それを言いたいのはこっちの方だから。真面目な話をしてるのにいきなりステータスなんて、そんなゲームじゃあるまいし……」
「よっぽどステータスを見せたくないのね。そりゃステータス全部見せるのに勇気がいるのは分かるけど、ステータス自体が分からないなんて誤魔化しまでするとは思わなかった。私は崇行にならステータス全部見せられるよ!」
いや、マジで何言ってるんだ? 頭おかしくなったのか? 昔から少し変わったところはあったけど、こんな突拍子もないことを言うような奴だったかな?
頓珍漢なことを勢いよく捲し立てる明梨に対して、俺はため息交じりに返答した。
「はぁ……じゃあ見せてよ、その『ステータス』っての」
「い……いいよ。ス……ステータスオープン!」
明梨が右手を前にかざしてその言葉を発した瞬間、目の前に半透明のスクリーンが突如現れた。そして、かざした右手の掌をくるっと回すと、そのスクリーンがそれに合わせて回転して俺の方に向いた。
これはいったい何だ? 何もなかったはずの空間上に浮かんでいる、まるでSF映画に出てきそうなそのスクリーンには明梨の名前や生年月日、血液型等が映し出されている。俺が知らない間にそういう技術が開発されたんだろうか? 明梨はそれを使ってドッキリでも仕掛けようとしているのか? いや、流石に真剣な告白に対してそんなことをするような奴じゃないし……。
などとスクリーンをじーっと見つめがら考えていると、明梨は慌ててスクリーン端のバツ印のボタンに触れた。すると、目の前にあったスクリーンは何事もなかったかのように一瞬にして消えてしまった。
「い……今はここまで! ここから先は崇行も見せてくれたら!」
「えっと……見せるって、どうしたらいいの?」
「もう、そういうのいいって」
「……?」
「本当に分からないの? 右手をこう前に出して『ステータスオープン』って言えば人間なら誰でも出せるって、小学生でも知ってるわよ」
俺は半信半疑ながらも言われた通りにやってみた。
「ステータスオープン」
しかし、何も起こらなかった。声量が足りていないのか、発音が悪かったのか……念のため、もう一回やってみよう。
「ステータスオープン! Status open! すてーたすおーぷんっ!」
何やってんだろ俺……なんか虚しくなってきた。やっぱり明梨の悪戯だよな。きっと俺が真剣じゃないと思って、手品か何か使って揶揄ってるんだ。そうだ、そうに違いない。ちゃんと真面目な告白なんだって、もう一回伝えよう。
「……なあ、明梨。俺は真剣なんだよ」
「真剣でもそうじゃなくても『ステータスオープン』でステータス画面が開かないなんて、崇行おかしいよ……ごめん、ちょっと急用思い出したから」
そう言って屋上から走り去った明梨の奇怪な物を見るような表情が、目に焼き付いて離れなかった。明梨は一体どうしてしまったんだ?