ステータス19:更新
コードネームで呼ばれて赤面していたことが嘘だったかのように、梢子先輩はいつもの調子で話を再開した。
「聞きたいのはボーロに頼んだ仕事についてだったね? だけど、それは君の能力にも関わってくる話だから先に君の能力についての見解を話しておきたいんだが、問題ないだろうか?」
「それは願っても無いです。週末いろいろあって、自分のことがまた分からなくなりかけていたところで……」
「週末の出来事についてはイデアから報告を受けているよ。話に入る前に1つイデアが聞きそびれていることがあったと思うんだが、それを聞かせて欲しい。君が母親に聞いた内容についてだ」
そういえば帰りの電車で話すって言ったけど、スキルの件があって話しそびれてたな。
「母に聞いたのは俺が幼い頃、ステータスオープンしたのを見たことがあるかどうかです。それに対して母は見たことはないと答えました。ですが、母はステータスオープンは親から子供に教えるのが常識だと思っていて、兄妹には教えた時の記憶があるのに俺に対してだけその記憶がないのはおかしい、とも言っていました」
「なるほど、ありがとう。だいたい想定していた通りだよ。過去の事例と照らし合わせて考えるに君の能力は『アップデート』である可能性が高い」
「アップデート?」
「そう、世界に変革をもたらす最も偉大で最も危険なアノマリー。アップデートの能力者は世界を更新し、人々の記憶までそれと辻褄が合うように修正する。しかし、本人だけはその更新の影響を全く受けず、更新したという認識さえ持たない。君の母親はステータスオープンが当たり前の世界で生活してきたように記憶を修正されたが、君に関する記憶を同じように修正すると矛盾が生じてしまう。だから、君にだけは理由は覚えていないが何故か教えなかったという、不思議には思うけれど矛盾しない程度の記憶の修正に留まっている、というところだろう」
能力自体は昨日、明梨に聞いた内容とほとんど同じだな。お母さんの話も先輩が言ったように考えれば納得がいく。
「明梨から聞いていると思いますけど、昨日また俺が知らないうちに世界が変わっていました。これもアップデートの能力ってことですか?」
「それはパッチと呼ばれるアップデートの能力の一部だ。アップデートの能力者が世界の法則を大きく変える更新を行うのは生涯に1度だけ。しかし、アップデートの後に世界に生じた歪みを是正するためにアップデートに関連した小規模な更新が実行されることがある。それがパッチだ」
確かに昨日の変化はステータスオープンに関連した小さなものだった。前日、明梨に聞いていなければ変化があったことにも気付かなかったかもしれない。それにしてもステータスオープンときてアップデート、次はパッチか……。
「アップデートにパッチって、何だかまるでゲームの中の話みたいですね」
「私はこの世界が何かのゲームやシステムの中の世界で、全てがプログラムで出来ていたとしても何も不思議じゃないよ。しかし、仮に本当にそうだったとしても、その中で生きている人間にそれを観測することは決してできない。どこまでいっても机上の空論。世界が5分前にできたとする仮説なんかと同じさ。話を戻そうか」
「あ、なんか話の腰を折ってしまったみたいですみません」
「いいんだよ、こういう話は私も好きだ。それに対外的にはここは一応オカルト研究会だからね。さて、パッチによる小規模な更新を君が観測した、というのが土曜と日曜の間に君が体験したことの正体なわけだけれど、言ったようにパッチはアップデートの後に世界に生じた歪みを修正するために実行されるんだ。そこで君に質問なのだけど、パッチの前にスキルのことで何か違和感を感じるようなことはなかったかい?」
うーん……そう言われても、そもそもスキルの存在を知ったのが一昨日だしなあ……。
「えっと、行きの電車で明梨からスキルのことを聞いて、それでゲームだとこうなのになー、って思った程度です」
「なるほど。君はよくゲームの話をするが、ゲームが好きなのかい?」
「好きですけど、それが何か関係してるんですか?」
「アノマリーの趣向はその能力に深く関係しているからね。ゲームとの違いを感じたことがパッチの引き金になったとしてもおかしくはない」
俺がゲーム好きだからステータスオープンできる世界に変わって、ゲームならこうなのにって思ったからまた変わった……?
「つまり、今後も俺がステータスオープンについて何かおかしいと思うことがあれば、昨日と同じような変化がまた起こる可能性があるってことですか?」
「そうだ。そして、それを観測できるのはアップデートの能力者である君だけ……のはずだった」
「……はず?」
「そう、ここでボーロに頼んだ仕事の話に戻るのだけれど、いたんだよ、君の他にもステータスオープンできず、それについて何も知らなかった人間が。ボーロには今日その人間の監視をしてもらっていたのさ」
……! 俺と同じ境遇の人間が存在した?




