ステータス18:巨人
週が明けて月曜日の朝、いつものように俺は朝食を食べに学食に行った。監視のために郎樹がいるだろうと思っていたけれど、予想に反してそこに彼の姿はなかった。
せっかく友達になったんだし、連絡先とか寮の部屋番号とか聞いておけばよかったな。まあ、教室に行けば会えるわけだし、そこで聞こう。
しかし、始業時間になっても彼は教室に姿を現さなかった。朝のショートホームルームの後に担任に聞いてみたが、特に連絡は来ていないとのことだった。この日は結局、放課後になっても郎樹は教室に来なかった。
スクールアノマリーなら何か知ってるかな? どうせ入部の件で部室には行く予定だったし、ついでに聞いてみよう。そうして部室へとやって来た俺は部室のドアをノックして中へと入った。
「失礼します」
「やあ、待っていたよ。ちょっと立て込んでいてね。すぐに片付けるから座って待っていてくれたまえ」
梢子先輩に促されて俺は席に座った。部室には梢子先輩と明梨の2人がいて、書類の整理をしているようだった。
「待たせたね。イデアにはもうちょっと作業を続けてもらうことになるから、話は私1人で聞こう」
「あ、はい。えっと、入部の回答の前に、まずは前回来た時に無神経な質問をしてしまったこと、謝罪させてください。本当にすみませんでした」
「気にしなくていいんだよ。あれは私もいけなかった。イデアと君との関係から君がそういうことを聞いてくる可能性が僅かながらあったことは承知していた。君が予想以上に聡くて、実際にその質問をしてきたことは想定外だったけどね」
褒められているような、そうじゃないような……まあ、もう怒ってはいないようだし、そこは安心していいかな?
「……ありがとうございます。これ、お詫びじゃないですけど週末実家に帰省した時に買ったお土産です。郎樹にも渡そうと思ってたんですけど、今朝から見当たらなくて……何かご存知ありませんか?」
「これはご丁寧にどうも。それでボーロのことだけど、彼には別件で動いてもらっているんだ。いわゆる緊急事態ってやつでね。普段は授業を休んでまで活動することはないんだけど、ちょっとそうも言っていられない状況だったのさ」
「それってどういう……」
「―――おっと、ここから先は君の入部の可否を聞いてからさ。私はいい返事をもらえると思っているけれど、君の口からそれを聞くまで安心はできないからね」
「徹底してますね。お察しの通り俺、開谷崇行はスクールアノマリーに入るためにここに来ました。これからよろしくお願いします」
こうして俺はスクールアノマリーのメンバーになった。これだけで何かが劇的に変わるとは思わないけれど、少なくともアノマリーについて、そして自分について、これからもっと詳しく知ることができるようになるだろう。
「じゃあ、話の続き……の前に大切なコードネームの命名をしておかないとだな」
「いや、コードネームとか要らないです」
「ダメだ。これは部の伝統だからね。君の名前を聞いた時から考えていたんだ。開谷崇行。苗字と名前の間を取るとタニタカ、タニタ。それをちょっと捻ってタイタ、タイタン。そう、巨人タイタンが君のコードネームだ」
「はいはい、分かりました。でも、タイタンなんて呼ぶのどうせ梢子先輩だけですよ?」
「私としては全員がコードネームで呼び合うのが理想なんだが……」
「はいはい、じゃあナーダ、話の続きを聞かせてくれ」
俺がそう言うと梢子先輩は顔を真っ赤にしてうつむいていた。
「い……いきなりコードネーム呼び捨てはズルいだろう。て……照れるじゃないか」
……え? なんだこの反応……この前、自信満々にナーダって呼ばれるのは大歓迎って言ってましたよね?
「え……いや……その……なんかすみません」
「ちょ……ちょっと外の空気吸ってくるから。い……イデア、す……少しタイタンの相手をしてやっててくれ」
そう言うと梢子先輩は逃げるように部室の外へと出て行った。そして先輩と入れ替わるように書類整理をしていた明梨がいったん手を止めてこちらへやって来た。
「崇行、入部決めてくれたんだね。よかった」
「昨日、電車で明梨が言ってくれた『スクールアノマリーは力になれる』って言葉が後押ししてくれたよ、ありがとう。しかし、どう考えてもコードネーム呼びが浸透しないのは梢子先輩のこの反応のせいだよな」
「梢子先輩以外のメンバーの間だけでコードネームで呼び合ったこともあったんだけど、先輩拗ねちゃってね。それで結局、今の形に落ち着いてるの」
「そうなんだ……なんかよく分からない人だな」
「うん……でもアノマリーのことについては誰よりも頼りになる人だから、そこは信頼していいよ」
明梨がそう言い終わったタイミングでクールダウンを終えた梢子先輩が部室に戻って来た。
「待たせたね。じゃあ話の続きをしようか」
そう言った梢子先輩はもう沈着冷静な元の先輩に戻っていた。




