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6 二人して友を思う

「それにしても今の今まで貴女が気付かなかったなんて…… そんなに忙しかった?」

「いいえそういうことは無いのよ。ただちょっと心配はしていたのだけど」

「心配?」

「ええ。ほら、結婚式の後からまるでマーシュは私に連絡くれなかったし。会ったのは、貴女がユルクさんを紹介してくれた時だけだったでしょう?」

「ああ! そうだったわね」

「貴女あの時、あんまり幸せだから全然こっちに連絡してこない、って拗ねてみせたじゃない」

「……正直、それはまずかったと思っているのよね」


 またぽり、とエーリシャはビスケットを噛んだ。


「大人しいひとが更に言葉少なになったとは思ったけど、結婚生活に結構満足していると思っちゃったのね。ほら、小父様が悪いひとをわざわざ婿に取る訳が無いと思ったのよ」

「それは確かにそうよね。小父様がどれだけマーシュのことを常に心配しているか。それに小父様は亡くなった奥様のことをずっと忘れられずに再婚もしない様な方だし」

「そういうところが、スノウリーの小父様びいきなのよね」

「そう。うちがうちだから。つい」

「もしかしたら外に女のひとが居るのかもしれないけど、それを気取らせないというのは大事よね。うちなんかはまあ、そんな暇は作らないわ」


 まあ、とスノウリーは笑った。


「でも本当に、あの時気付いていれば、と思うわよね」

「ううん、気付いても何かできた訳じゃないと思うわ」


 スノウリーは思う。

 思えば本当に幸せな結婚生活だったなら、手紙の一つも寄越してくるはずなのだ。

 だが音沙汰がまるでなかったことを考えると。


「あのひと、自分や身内に何かあると、それを隠そうとするじゃない」

「……ああ!」


 エーリシャも気付く。


「あのひとのお母様が亡くなった時もそうだったわね。ともかく気丈に振る舞っていたけど、言葉少なになったものね」

「あのひと本当に黙ってしまうから」


 だからずっと結婚以来音沙汰が殆ど無かったことに気付いてやりたかった――


「水くさいと思うけどね。私なんかは。それとも、古い家柄だからかしら? うちも確かに伯爵家だけど、書籍をずっと昔から扱うところと野菜を扱うところじゃやっぱり違うのかしらねえ」

「それを言ったら、うちなんて、石と鉄と焼き物じゃない。そういうことじゃあないと思うのだけど……」



 書庫蔵に籠もって一人、マーシュリアは懐かしい、書物の匂いに埋もれて時々ふっと天窓を見上げる。

 ――ああ、やっと自由になった。

 思えば、短いとは言え何って辛い日々だったろう!

 それはもう、最初の夜からだった。

 あんな恐ろしい目に遭ったのは初めてだったのだ。

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