3 三人が仲良くなれた理由
「一人娘でなかったら、まだどうにかなったのかもしれないのにね」
がし、とエーリシャはビスケットを噛み締める。
「うん、我ながら味はいいわ」
「貴女は本当に変わらないわね」
「そう簡単に変わってたまるものですか。だって、それでもまだ学校卒業してから一年も経っていないのよ。結婚したからって、そうそう変わる訳でなし!」
それでも生活はずいぶん変わったろうに、とスノウリーは思う。
*
帝都在住の貴族であった彼女達にとって、貴族の子女が集まる四年間の学校は最後の気楽な日々だった。
確かに貴族ばかりが集まることから、その身分差はゼロではない。
たとえば公爵令嬢と男爵令嬢ではやはり育ってきた環境そのものが違う。
爵位があれば通うことは可能だ。
そして学業に関しては同程度のものを学ぶことができる。
だがそれ以前の立ち居振る舞いや文化、生活習慣の違いはどうしてもある。
近しい者達で集うことになりやすい。
スノウリーとマーシュリアとエーリシャは侯爵家と伯爵家の出身だが、ただそれだけで集っている訳ではない。
多かれ少なかれ、ある程度の事業を興している貴族という点が共通していたからこそ、彼女達は集うことができたのだ。
特にその中でもスノウリーのアラハント侯爵家は、帝国内でも有数の建築会社を有している。
鉄道が大陸全土に渡る現在その需要も広がり、拡大を続けている。
マーシュリアのブックド伯爵家は古くから続く書籍取り扱いの事業を行っている。
規模は大きくないが、こちらは歴史がある。
ブックド家につながりのある本屋なら、大概のものは見つかる、と言われているくらいだった。
エーリシャの実家であるミント伯爵家は広大な領地から送られてくる農作物を市場で売りさばく他、その市場の関係で遠くの果物卸にも手を伸ばし、それが成功している。
今では特に高級な果物を帝室に直接卸すだけの地位を確立している。
旧態依然とした領地経営だけの貴族とは一線を画した家の出身であることが、まず彼女達を引き合わせた。
当人は「地味」と言っているが、整った顔立ちと美しい声、学年監を勤めた程の統率力、成績も首席で卒業した「白薔薇の君」と呼ばれたスノウリー。
しっとり、ふっくら、控えめな性格、そしてこれは亡くなった彼女の母譲りなのだろうか、艶やかな美しさは牡丹や芙蓉の花の様と称えられ、その所作はどの教師からも誉められてきたマーシュリア。
頭の回転が速く、常に元気で、明るく皆を楽しませ、流行や新しい考えに敏感なエーリシャ。
どうしてこの三人が仲が良いのか、と周囲は思っていたが、当人達はそんな周囲の評判など気にせず楽しく寄り集っては自由になる時間を過ごしていたものだった。