1 スノウリー、親友の離婚の話を聞く
「え、何ですって」
外出から戻ってきた妹の言葉に、アラハント侯爵令嬢スノウリーは思わず問い返した。
「だから! お姉様の親友のブックド伯爵のところのマーシュリア様が、離婚なすったって聞いたの!」
「マーシュが……? ティムリー、それは本当?」
スノウリーはすぐには信じられなかった。
「本当も本当よ。だって私この耳で聞いたもの。と言うか、今日のお茶会ではその話でもちきりだったわ! お姉様何で来なかったの?」
「今日の主催は確か、公爵夫人でしょう? 沢山お客様がいらっしゃるじゃないの。私はあまりそういうお付き合いは好きではないって、前から言ってるでしょう? ほら、地味だし」
「地味? お姉様は地味じゃなくて、飾り気が無いって言うのよ。もっといまどきの服で着飾れば誰よりも綺麗なのに!」
「人にはもって生まれた性分というものがあるの。それより、マーシュの話をもっと聞かせて」
「いいわ」
そう言ってティムリーは姉の部屋のふかふかとした椅子にどっかと腰掛けた。
普段なら淑女らしくない! と姉に注意されそうなところだ。
だがスノウリーからしたらそれどころではなかった。
マーシュリアはスノウリーの短くも楽しい学校時代からの親友の一人なのだ。
メイドにお茶を淹れさせ、妹に話の続きをうながす。
「確か、マーシュリア様はブックド伯爵の一人娘でしょう?」
「ええ」
「それで学校卒業したらすぐに、伯爵の子飼いの部下のひとと結婚なすったでしょう?」
「そうよ」
その話を聞いた時のスノウリーの気持ちは「何故」だった。
何故そんなに早く結婚してしまうの、一番大好きな貴女が、と。
「でもそのひと、まだ伯爵になってもいないのに、その名前で使い込みをしてしまったんですって」
「え! 婿養子がそんなことしていいと思ってるのかしら」
「いい訳ないでしょお姉様。だから! 伯爵もさすがに怒って離婚ってことにしたんですって」
「でもそれじゃマーシュは……」
「婿養子なんだから、まあ政略結婚でしょう? お姉様しっかりして」
実際、ティムリーの目の前の姉は、普段の冷静さをすっかりと失っている。
「何だったら、お姉様のもう一人の親友のエーリシャ様のところにうかがったら如何?」
「エーリシャに…… そうね!」
スノウリーはぱっと立ち上がると、外出の支度を、と自分つきの侍女に命じた。
(本当にマーシュリア様のこととなると大変なんだから)
ティムリーは目の前に手も付けられずに置かれたカップを眺め、ため息を一つついた。