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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

傷の悲鳴(刀剣乱舞)

作者: 無夜

刀剣は出ません

歴史修正主義者の独白。ピクシブにもアップアリ

 小さな不満も、未来へのささやかな不安も、今となってはどれほど贅沢な幸せであったことでしょう……。



「壊し壊れてください」

「戦線の維持を最優先に」

「あなた方はいくら壊れてもかえがありますし、何度だって呼び立てますよ。壊れてきてください……」

 もう何年も、口に出す言葉はこんなものばかり。

 政府が書き換えた歴史を修正するという作業を孤独に開始してから、何年経ったかもう記憶が曖昧。

 雨の匂いが、最初の日を思い出させる。

 学校帰り、いつもの道。

 雨の匂いが濃厚で、降った直後なのに、夏の日差しはもう道路の大半を乾かしきっていた。

 なんの予兆もなく、家も家族も消えてしまった、あの日。

 政府の行った歴史の書き換えのせいで、父母は出会わず、別々の家庭を築き、私は生まれてこなかったことになったのだと、わかったのは、ようやく探し当てた父と対面した瞬間に。ただただ愛されて甘やかされて、普通に青春を謳歌している、居なかったはずの異母弟を見せつけられた。

 長く一緒にいた幼なじみの友達も、もう友達ではない。

 何もかもなくした。


 私がその場に存在したのは、過去を改竄した際にできた無様な傷、ひずみ、パラドックス、そんなもの。

 私を中心に、歪んだ歴史と過去の傷が広がっていく。その傷が大きくなるほどに、私は今、何が起きたのか、理解した。


 都合の良い歴史に書き換えたせいで、それを行った政府首脳陣もだいぶ入れ替わっている。私のように静かに、『今』から排除されたのだろう。

 そして私と違い、傷の中心にはならなかったために、完全に消えたのだ。

 傷は私を吸い込み、過去へとはき出した。


 傷は言う。


 さあ、私を癒して。

 そのための力はあげるから。

 痛いのです。痛いのです。耐え難いのです。



 最初は触ることすら嫌悪した、血まみれの折れた刀。死体が握っている。無念の形相。

 戦場だから、そんな死体はごろごろある。

 それに触れて、傷の力を注いで兵にする。

 歴史を修正しなければ。

 終わったなら、私は両親の元へ、友達のいる、私の時代へ帰り着ける……。

 などという夢は、傷から与えられる力が塗りつぶしていった。

 歴史をただして、元通りにしてみても、ならばそこにはもう一人、傷に見込まれることのなかった幸せな娘がもう場所を塞いでいて、その平穏は私のものにはならないのだと。

 ならば、なぜ、こんな思いをしてまで戦い続けるのか。

 傷の声にせかされて、追い立てられて、己である理由を失っていく。



 穢れた邪霊を呼び出して、物量戦を繰り返す。

 夢中であちこちを修正した。

 過去のほころびを直していく。

 私の使う兵達は邪霊らしく、怨嗟の声がうるさくて、ついには私は彼らに声を出すことを禁じた。

 政府軍は可哀想だった。

 こんなところにやってきて、もう戻るすべもない。

 歴史を変えるという崇高な使命を帯びて、酔っている者もいるけれど、多くは元の時間軸に戻れないことを知っているようで、暗い目をしていた。

 私の指揮する兵たちが彼らを殺してのけたとき。

 何人かが安堵した顔をした。

「ああ、やっと終わりが見えた」

 そんな顔。




 肩を撫でる程度の長さだった髪がいつしか膝の裏にまで届くようになっていた。過去のあちこちに飛んで、時間の感覚が失われた私には、髪が伸びていくのだけが、歳月の確認だった。

 長く長く、虐殺に等しいだけの単調な戦場で、私の派遣した隊が全滅した。

「新しい敵……何者ですかね」

 問いに答えられるものはいない。

 珍しく、戦場で死んでいた老婆を側仕えとして霊体のまま、側に置いているけれど、彼女もまた私への呪詛を口にするから、口を封じた。

 それがどれほど前だったか……。

 戦線を維持して、政府軍がくるたびに追い返してきたのは、どれほどの月日?

 過去の傷に触れれば、敵が審神者と呼ばれる者だとわかった。

「同じ、傷の中心、ね」

 大太刀と槍の、その二本はいつも私の側にいた。いつからいるのか、思い出せない。

 過去の悲鳴、傷からの苦痛のうめきが、私を苛み続け、歴史を直す仕事へと駆り立てる。

 老婆が私の髪をくしけずる。

 重たい黒髪はいつしか穢れを含んで、先端が蛭のような感触に変わっていき、私の意志とは無関係にうごめくようになっていた。

 白い狐がやってきたのは何度目か。

「政府より、正式な使者として最後のご提案でございます」

 何度目の、『最後』か。ばからしい。聞く気にもならない。

「そちらと同じ能力の者を派遣致しました。仲間と戦うのは苦痛でございましょう。こちらとしましても、歴史に手を加えた真の罪人は処分しておりますので、ここで手を打っていただきたい。二度と過去を弄らぬと、現政府高官すべてをあげて約束いたしましょう。これ以上の修正は、またもとの木阿弥になるばかり」

「始末なさいな」

 槍が小さな白い狐を薙ぎ払う。

 狐はひょいっと刃を抜けて、逃げ出した。

「蜜月ならず。闘争は続行と認識」

「現政府、すべての高官。気が付かぬ間に、すげ変わっているのに。あてになりません。それに罪人はまだ二人、残っているのに、処分したとぬけぬけと……いつもながら、信用なりませんねぇ、政府諸君ら」

 狐がいなくなれば、犬も処分されてしまう。

 私はいい。

 私が狐。

 逃げのびる気もない。

 でも、その犬は?

「後輩のためにも、ますますもって、私は倒れるわけにもいかず、戦いをやめるわけにもいかなくなってしまいました」

 私が倒れた後、やすやすと処分されないだけ、強くなってくれなければ。

 もしかしたらその者はこの膿んだ永遠の傷をなだめる、私の後継者かもしれないのだから。



 あの幸せな日々に、愚痴たこと、今では後悔しているのです。

 ささやかな、贅沢な幸せを、ありふれていると錯覚して感謝しなかったことを、悔いているのです。


 その罪で私はここにいるのであるならば。

 真っ赤に染まった鎧達が私を見上げて、血を求めている光景に。

 私は納得せざるおえません……

二次創作、どんな感じでアップするのか、と練習的に投稿。


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