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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第2話 夏の吹雪と雪女!!
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夏の凍てつく大地……やっぱおかしいってこれ!!

「……ごらんのとおりですが、はい私は妖……下級妖、種としては人間の方の呼び方で行くと雪女、という種になります。名前は雪花(せっか)


 視線の先で、どこかもじもじとした様子を見せながら声をかける少女の姿。熱いのだろう、着崩した服からは、それはもうたわわな果実の谷間が露出して――。


「鉄、馬鹿なことを考えているのであれば、斬るぞ?」


 そんな言葉と共に、背後に立っていらっしゃる、我らがくノ一の紫苑さんからすっごく冷たい声――死んだ気がした――と共に、冷酷無慈悲な処刑宣言が飛び出してくる。


「……いや、あの彼女とかそういうのでもないのに、紫苑にいちいち言われないとだめ?」

「人としてダメだから言っている、お前は英雄としての活躍が求められているんだ、それ相応の振る舞いっていうのが求められるんだ」


 正論、実に正論だ。


 叢雲という、それこそ人類の命運を背負った超兵器を扱う人間が、かわいい女の子に鼻の下伸ばして、品のない笑みを浮かべている。


 どう考えても不安しか生まないわけで、皆にいらない不安を生むだろう。だが――。


「英雄色を好むっていうじゃないですか」


 と、それらしい言い訳をするぐらいはかまわないではないか、俺はそう考えたわけで。


「英雄は偉業を成し遂げた奴の呼び名であって、お前は中級妖を2体倒しただけの素人だろうが」


 ぐうの音も出ない正論で叩きつぶされた。それはそうだ、叢雲がなくても中級妖を倒すことは、専門家が人数揃えれば普通にできる。


 というか、むしろ――。


「中級妖程度に苦戦していては、叢雲の力は全然発揮できていないということだ」


 結局のところ、すごい武器をもらって振り回しているだけなのだ。

 世界一の剣を手にして、刃の方をつかんで、柄で殴るような、無茶苦茶な使い方をしているようなもの。それで倒すのは確かにすごいが、本来の使い方をすればできて当たり前のことなのだ。


「女に現を抜かすなら、正しく叢雲の力を発揮し、それ相応の偉業を成し遂げてからにするんだな」


 正論により俺は完全敗北、この議論は俺の負けで終わった。


 しかしながら、紫苑はその手のことに寛容であるというのも理解した。そういうのに厳しいのであれば、偉業を成し遂げたとしても、してはならないというのだから。




「あの……私の話を聞いてもらっても?」


 軽い漫才を紫苑としていたら、そろそろ話をしても大丈夫かと問いかけてくる。


「あぁ、悪い悪い……それで?」


 妖であっても良い者もいれば悪者もいる、実にシンプルな話であり、助けを求められれば手を差し伸べるのもやぶさかではない。


 なにせ俺が住んでいた村にも何体か妖が住んでいた。毎年毎年小豆洗いの洗った小豆を使ったぜんざいが正月の楽しみだ。


「……私の同族が、少し離れた人里で悪さをしていまして」

「……下級なら、それこそその辺りの殿様たちに頼めば?」


 下級妖の討伐はやろうと思えば、鍛えた侍や忍者が一人で成し遂げることができる。それこそ大群で攻めてきているのであれば、軍隊を動かした方が早いのだ。


 まぁ、それ以前に人間サイズの相手と戦うのに、叢雲では戦いにくいというのもあるのだが。


「……中級です」

「やっぱ異常発生ってのは怖いっすねー」

「キャラを崩して誤魔化そうとするな」


 確かに、異常発生が原因で中級すらも多発しているらしい。


 本来ならば数年に一度現れるかどうかという奴が、ここだけでも2体同時に現れたのに、さらに別の場所にもいるのだという。


「で、雪女の中級が――」

「3体です」


 さて、情けない話だが中級2体でひーこら言ってたのである、正直なところ勝てる気がしない。


 まぁ、しかしながらそれでもいかなければならない理由、というものも俺は理解していた。


 叢雲を使わずに、中級妖を討伐するには、侍が数百人では足りない人数が必要だという。無論一体の討伐でだ。


 数千人の招集ともなると、時と場合はあるものの、普通に考えてかなり時間がかかるのも当然なわけだ。


 何が起きているのかは分からないが、おそらく彼女にとって1分1秒が惜しいだろうわけで――。


「すでに侍様たちが向かって全滅したのです」


 おっと、想像よりも悪い状況だ、なにせ従来の対処法が完全に通用しないと伝えられたのと同じなのだから。


 つまるところ――。


「問答無用で俺がいかないと、ろくでもない結果につながると」




「しかしながら、どうして同族の行動を止めてくれって言うんだ?」

「あぁ、それについては疑問に思ったな……どういう意図がある」


 さてさて、俺と紫苑は雪花の案内に従い目的地の人里へと向かったのだが、疑問に思っていたことを問う訳である。


 例えばだが、家族がすごい偉業を達成した……、と言われて嬉しいと思うのは当然であり、むしろそれを止めようとするなどというのは――命の危険でもない限りは――考えにくいわけである。


 人里を襲う中級の雪女が3体と言われたとして、どうして下級とは言え同じ雪女が助けを求めたのかという話だ。


「暴れているの姉さんたちで――」


 なおのこと分からない、それはもうどうして止めねばならないのか、非常に疑問が湧いてきて――。


「生まれてからずっといじめられてて、それはもう生きるのが嫌になるくらい、いじめられ続けていて」


 一瞬で理解できた、都合がいい理由ができたから仕返しをしてほしいのだ。


 ずっと自分に合法的な範囲で嫌がらせをしていた奴を、明確なぶっ飛ばす理由があるからぶっ殺せという話だ。


 なんとも世の中分からないものだ。


「……ま、それがどうであろうと、俺たちは関係ない話だ」

「家族だから仲良くしなければならないなどというつもりはないし、糞野郎なのであれば家族であろうとぶっ殺せ、私はそう考えている」


 他所の家庭のあーだこーだなどに、首を突っ込むつもりはない。それが妖となれば、なおのことだ。


「だから、気分が変わったから殺すのをやめろとか、言わないでくれよ」


 そうなったとしても、手加減ができるほど俺は強くない。


 叢雲の性能がどれほどのモノであろうとも、俺は強くないのだ。




「……いや、え? 夏だよな?」


 そんな俺たちが例の人里にたどり着いた時、視線の先にあったのは――。


「雪原に、氷の山だと?」


 あまりにも異常な光景、真夏の今あるはずのない光景が広がっていた。


「はい、これは全て姉さんたちの――」


 雪花が、何かを語ろうとしたその次の瞬間だ。


「おやおや、こんな時に外から人が来るなんてね」


 若々しい、漆黒の――だがしかし、この刀の国のモノとは思えない――衣服を纏った男が声をかけてきた。


 いや、男という言い方はどこか不適だろう。年齢を大きめに見積もったとしても、10代後半……、少年とでも言うべき風貌だ。


「……旅をしている武芸者だ、珍しくもないだろう?」

「私はこいつのお守りだ、何かおかしいか?」


 紫苑と共に、ただの旅人という風にふるまって見せる。


 まぁ、それが通るとは思えない、なにせ雪女と一緒にいるのだからだから――。


「あぁ、おかしいね? なにせ妖と一緒に旅する武芸者何て珍しいじゃないか」


 そう、まともな理由なくしてそのような状況は疑わしいにもほどがある。


 素直に告げればいいと、俺の頭は告げている。だが心が、魂が……何か嫌な予感がする、適当に誤魔化せと告げた。


 故に――。


「こいつは俺のこれだ」

「え? えっ!?」


 雪花の肩をつかんで、グイっと自身の下へと引き寄せる。それと共に、開いている手の甲を見せれば、小指を立てて自身の関係を示唆して見せる。


 それらしい理由、などと考えたおれの結果は恋人という関係で――。


「きゃぁぁぁぁぁっ!?」


 雪女だというのに、顔を真っ赤にした雪花はそのまま俺のあごに拳を叩きこんできた。


 いやまぁ、アレだ俺が悪い、これは間違いなく俺が悪い。何も言わずに体に触れて、勝手に恋人だなどと宣言したのは、どう考えても俺が悪い、相手のことをまるで考えていない屑の所業だ。


 だから、そうだから――。


「お前は悪くない」


 その言葉だけ呟いて、雪の世界に倒れ伏し、意識を飛ばした。

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[一言] あーあ、機転を利かせたつもりが裏目っちゃいましたね。 南無!
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