表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第9話 夢は天下の回りもの
77/80

神降ろし

「代償は……払わないとダメよね」


 死んだ命は決して戻らない、だからこそ命は尊いモノであり、大切にしなければならない。


 故に、その摂理に反する奇跡を巻き起こせば、それ相応の代償を支払う必要がある。


「だから、貴方は戦う運命(さだめ)にある」


 命の対価は命であるなんて、俺は考えていない。


 だって、それじゃあ奇跡の意味がないからだ。


「未来永劫、終わることのない戦いの渦に飛び込まなければならない。それでも構わないわね?」


 彼女の言葉に俺は首を縦に振った。


「ずっとずっと地獄のような苦しみを味わうかもしれないわよ」


 それでも俺は首を縦に振る。


 死ねば楽なのかもしれない、あれだけ大暴れして見せたのだ、俺の中の無念の多くは解消されたかもしれない。


 だけど、それでも―。


「まだエンディングには早すぎる」


 差吊苦は暗躍している妖の一人にすぎない。奴を倒してそこで終わり、という訳ではないのだ。


 だから、ここで俺が―。


 |主人公『ヒーロー』が死んだままになったら、ハッピーエンドにはなれないだろう。だってまだ、戦いは終わっていないんだから。


「皆が望む最高最善のハッピーエンドに到達するまで、俺は足を止めるつもりはないし、止まるつもりもない」


 それは地獄への片道切符の購入宣言、いつ終わるとも知らない修羅の道。自分でもよく分かっている。


 それでもやるのだ。


「だから、悲しまないでくれ」


 俺の信徒にそう告げる。


 きっと、彼女は俺を心配してくれている。


 だからこそ、俺はそう告げて―。


「ふふっ、だったら世界最強くらいは目指して見せなさいよ」


 にやりと笑う彼女は、俺の歩むべき先を信じてくれているようで―。


「主人公、この世界の代表をやるんでしょ? だったらできないなんて言わないわよね?」

「任せとけ、世界最強の人間で、化け物で、神様やってやる」


 俺は彼女の、信徒の、天音の祈りに応える義務を背負った。



 *



「んっ……、ここは?」

「目が覚めたみたいだな、龍牙」


 目覚めた俺の前には、じっとこちらを見つめる紫苑の顔があった。


「あぁ、おはよ―」


 目覚めのあいさつでもしようとした次の瞬間には、ぎゅっと俺の全身に力が加えられるのを感じ取る。


 言うまでもなく、紫苑に抱きしめられていた。まるで気が付いたらどこかに飛んでいってしまう、風船を握っている子どものように、力を込めて。


「……本当にここにいるんだよな?」


 ここに俺がいることを確かめる、生きていることを確かめるように、彼女は問いかける。


 そりゃあそうだ、死んで蘇ったと思ったら、また気を失って。俺自身でも、生きているのかと問われれば自信が持てない。


 それでも、そうそれでもだ―。


「あぁ、俺はここにいるし、勝手に死んだりしないさ」


 この位言えなければ、英雄じゃないし、男じゃないし、なんなら人間じゃない。


 自信なんて後から付いてくるものだ。


「そうか、良かった」


 彼女はそう口にすれば、抱きしめる力がさらに強くなる。彼女の心そのものが分かるわけではない。ある程度の推測はできたとしても、絶対に正しい答えになりはしない。


 だから、まぁ正しい返答なんてのも分からない。ならば格好をつけたことを言ってもいいだろう


「愛してくれるのならば、俺はそれだけで立ち上がれる」

「それは、格好の付けすぎだぞ、まったく」


 そう言う彼女だが、呆れというよりも楽しそうに笑っている。ならばそれでいい。


「……さてと、決戦は近い筈だ」


  正直な話として、今の俺の力は限界まで引き出せば大抵の奴には勝てるだろう。叢雲の真の姿を考慮すれば、それこそ本物の神様でも出てこない限りは負ける気はしない。


「……紫苑、狐龍と一緒に、俺の旅から離れても―」


 だから、英雄は……戦いに傷つく者は俺一人でもいい、そう告げようとして―。


「頼まれても離れるモノか、絶対に私はお前を離さない」


 彼女はそれを拒絶した。俺と共に戦い続けるのだとそう宣言して見せた。


 あぁ、俺のようにやろうとして英雄をやっている、紛い物とは違う。


「そうか、ならば……地獄の果てまでもついてきてくれるか」


 だからこそ、最後の覚悟を問うように俺は問いかけ。


「いいや、地獄の果てなど行くものか」


 彼女はそれを拒絶して―。


「お前が地獄の果てまで行くようなことを起こさせないのだからな」


 そう言い切って見せた。


 あぁ、まさしく本物じゃあないか。


 俺がそんなことにならないように、守るとまで言ってのけた。


「……さすがだよ、紫苑」


 俺はそれだけ告げて、抱きしめ返した。彼女が俺を守るというのならば、俺も彼女を守ろうじゃないか。


 たとえこの身が滅びようとも、などとは言わない。だってそうなれば彼女は悲しむのだから。だから、俺は―。


「この命のある限り、君を守り続けよう」


 この命が尽きない限りを約束しよう。だから、俺は死ねないし死なない。


 彼女と共に、この国に迫る危機を打ち砕くのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白いと思ったら、よろしければブックマークや評価ボタンを押してくれると嬉しいです。 それが私にやる気を与え、より面白い続きの話を描こうという活力になります。どうかよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
[一言] やっと龍牙と紫苑が名実共に対等になりましたね。 こういうの藍戸さんらしくていいですなあ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ