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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第1話 絡繰武勝叢雲見参!!
7/80

放て必殺! 天下抜倒剣!! 一刀両断!!

 体を炎に焼かれ続け、苦しみの声を上げ続ける油すましから、さとりへと視線を動かしていく。


 まじめな話として、俺はこの叢雲にどれだけの転生者(にんげん)が命を捧げ、どれだけの(スキル)を託したのかというのは知らない。多分一人か二人ぐらいは炎系の奴がいるだろうという感で試した結果、運よく成功したのである。


 つまるところ実に運がいいことに……、俺の心を読める相手は、鉄龍牙と叢雲が何をしてくるのかの判別ができない。


 なにせ、俺がしようと思ったことも――。


「実際に発生するかどうかは博打ということか」

「……分かってもらえたようで何より」


 何ができるか把握していないがゆえに、相手も何が出てくるのか分からない。


 言ってしまえばだ、始めてやったカードゲームで、相手のデッキと手札をすべて把握できたとしても、どのようなコンボがとびだすのか分からないのと同じこと。


「……初戦がお前で運がよかった」


 理解していけば理解するほどに、こちらが何をするのかがバレるようになる。


「ふっ、だがお前は何をする? 自分でも理解していない力で何をする!」

「こうするっ! 技能付与!」


 俺の言葉と共に、叢雲が持っている可能性(・・・)のあるスキルをいくつか、それこそ適当に使用すると念じる。


 それだけでいい、実際に発動するモノが何なのかは俺にも分からないが、俺に分からない以上さとりも分からない。


 つまり――。


「ええいっ、貴様ぁ」


 対処する方法などありはしない。


 炎を、氷を、雷を、岩を、鉄を、時を、空間を、重力を操る。それはもう思いつくすべての攻撃方法の全てで、同時に攻撃されると仮定して、どうすれば防げる?


 何も知らなければ、警戒の必要などかけらもなく、ただただシンプルに戦えただろう。だがそうじゃあない、目の前の妖は俺が一瞬で想定したすべての攻撃方法に対処しなければならない。なにせその一つ一つが、確実に命を奪う。


 故に何もさせるべきではないと判断して、さとりは突撃を仕掛ける。どれほどの力であっても、振るわれないのであれば、何もないのと変わらない。


「遅い!」


 あぁ、そうだろう。だがその判断をするのは、俺からすればあまりにも遅すぎた。


 実に幸運なことに、最も最初に発動した力は加速。音を置き去りにしたかと思えば、さとりの腹目掛けて拳がめり込んでいた。


 たとえ相手がどこをどんな手段で、どのタイミングで攻撃するか分かったとしてだ。対処が間に合う前に終わらせれば、それは対処不可能の、完全な攻撃へと変わっていく。


「風林火山!」


 それと共に、右手に持っていた銃が宙を舞い、2つに分かれる。無論その形状も変えて。


「疾きこと風の如く!!」


 叢雲(おれ)の両手には、風林火山の2つ目の姿であるダガーが確かに握られている。


「そらそらそらそらそらそらそらぁっ!!!」


 右へ左へ、飛んで跳ねてと動き回り、すさまじい速さでさとりを切り刻んでゆく。


 たとえ俺の心が読めたとしても、その間に切り裂いてしまえばもう止まらない。


 あぁ、俺も正直無茶な動きをしている自覚はある、気が付かないほどに動き回っていた。


「ただでやられるものかっ!」


 足元に油がまかれていたことに。まぁ、どういうことかなど、言わなくてもわかるだろう。


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 物凄い速さで動き回っていた叢雲が、油で足を滑らせてしまうなど、誰だってわかる現実であり――。


「はぁ……はぁ……、この程度で俺が死ぬと思ったか」


 油すましは、全身を焼かれ苦しそうな声で、それでもまだ生きているのだと宣言して見せた。


 つるりと滑った、言葉にすれば実に滑稽かもしれない、バカバカしいだろう。だが現実として、俺は生死を分けるピンチだと理解した。


「あぁ、くそったれ」


 ぬるぬると滑るせいで、まともに立ち上がることすらできしない。絶体絶命の危機を引き起こしたのは何だ? と問われれば、俺は迷わず答えられる。


 油断だ、慢心だ、自分の心の弱さだ。炎で焼き続けている程度で死ぬなどと考えた俺の弱さだ。止めを刺せていない、それが現実だ。


 俺はど素人だ、だからこそ学ぶ必要があるのだろう。


「はははは、偉そうに暴れてこのざまだ」


 けらけらとこちらを馬鹿にしてくる声が聞こえるが、それがどうした。どうやら油断して抵抗できない叢雲(おれ)をズタボロにしてやるつもりらしい。ゆっくりと、恐怖を煽る様に近づいてくるのは、さすがは本物の妖ということか。


 そうして2体が、俺を見下ろしてきた――。




「だがもう遅い」


 俺の言葉と共に、叢雲が周囲の油と共に燃え上がる。何をしたか? 実にシンプルだ。


 油すましを焼いた弾丸と同じ、炎系のスキルを行使しただけ。ただ、考えたと同時にしただけだ。


 2体の中級妖の全身が燃えあがり、足元の油も蒸発していけば、ゆっくりと立ち上がる。その間も妖どもの叫び声が響き渡るが、大した意味はない。


 無言で、油すましにダメにされた刀を引き抜く。


 先ほどの大炎上によって、刀の油も蒸発したようで、切れ味も元に戻ったらしい。


「天下抜倒剣!!」


 俺の叫びと共に、刀が――天下抜倒剣が、力を開放し、光り輝いて行く。神々しさすら感じられる光と共に、叢雲から力を吸われて行く感覚が強くなる。


 事実として吸われているのだろう、そしてそれだけの力を必要としているのだろう。


「あ、あれはっ!?」

「まずい、アレだけはまずいっ!!」


 奴らも、炎に焼かれながら(ちから)を見て恐怖し始める。理解したのだ、この刀の本質に――。


 だがやはりもう遅い。


「一刀両断!!」


 横一閃に切り裂けば、斬撃の軌跡が横一文字に宙に残る。それと共に、二大中級妖の上半身と下半身が完全に分断される。


「こ、これはやはりっ!」

「退魔の力だっ!!」


 ぐずぐずと体が崩れ去っていく様は、それこそ砂の城が吹き飛ばされるようにも見えた。


 さて、奴らの語る退魔の力、というのは実にシンプルな話だ。魔のモノ特攻、即ち妖を絶対に殺すための刀、それが天下抜倒剣。その名は天下の敵に対してのみ、抜くことが許され、必ず敵を倒すための刀。とそんな祈りが込められているらしいが、俺も詳しくは知らない。なにせどのような力が込められているのかを、把握することすらできていないのだ、製作者の心情なんてのを把握しているほうがおかしい。


 そんなことを考えながらも、奴らの肉体がもう耐えられないまでに力を注ぎ込まれているのが目に見えた。


「これにて、一件落着!」


 そう口にしながら、手に持つ刀を納刀する。


 完全に刀が鞘に納められるその時、後方の妖たちが爆散した。退魔の力に体が耐えきれず、そのまま体内で暴走。それからなんやかんやで爆発する、と事前に聞いていたが、現実としてみてみると、まさしくファンタジーな爆発だろう。




 じろりと睨みつけていけば、里に隠れていた下級妖も蜘蛛の子を散らすように、それはもう逃げ回っていく。


 知らぬ間に夜になり、朝が来ていたらしい。昇る朝日を背に受け、守った里の様子を見つめていく。


「よくやった、初陣と考えれば大金星にもほどがあるぞ!!」


 少し離れたところから、紫苑が声をかけてくる。どこか安堵したような柔らかい笑みが、実に美しい。


 その背後には助け出した里の人たちだ、手を振りながら、満面の笑みを浮かべこちらに駆けて来る。


「あぁ、これが戦った報酬か」


 どこか満足、とでも言うべき感情が俺の心を染め上げる。怖くて辛い思いをした、正直なところ戦いなどというものは、やらなくて済むというのであればさっさとやらなくて済むようになってほしい。


 でも、戦わねばならない理由は、確かに俺の魂に刻み付けられた。


 これならば立ち上がることも、刀を手にして立ち向かうこともできる。


 だって、彼らの笑顔を見れば疲れが吹き飛ぶ気がした。




「いや、やっぱしんどいわ」


 ――気がしただけだ。


 つぶやいた言葉と共に、意識を失い……俺は眠りの世界に落ちて行った。徹夜していたんだからこの位は許してほしい。

次回予告


 なんとか初陣を切り抜けて、ゆっくり休めると思っていたら、待っていたのは稽古稽古稽古!


 もう嫌になっちまうぜ……なーんて考えていたら、なんとまだ夏だっていうのに、近くの村で吹雪だって!?


 季節外れにもほどがある異常事態に、俺と紫苑は調査に向かった!!


 ……って、どうして下級とは言え妖が俺に助けを求めるんだ!?


次回! 絡繰武勝叢雲

 「夏の吹雪と雪女」


 俺の闘志が雪をも溶かすってな!!

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[一言] 必殺技の残心と見栄切り後の爆発はヒーローの必須事項。 初陣大勝利!!
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