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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第7話 人と人との狭間
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例え勝てないとしても

「寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! 今この地に現れ立つのは!」


 こうなってしまえばいつも通りの戦い、状況は最悪の中の最悪だが、それでも俺は――。


「初代大将軍、織川光喜様の時代より伝わりし、伝説の巨大絡繰!!」


 格好をつけて戦おう。


「その名も名高き! 絡繰武勝叢雲!!」


 名乗りと共に俺がポーズを決める、それと共にもう一つの名乗りが始まりを告げる。


「人に隠れ、世に隠れ、影と共に舞い踊れ」


 瞬時に現れた巨大なる障子によって、叢雲の姿は影となるだろう。そして俺の隣に彼女は現れる。


「これより出でるは、この時代に生まれし伝説!!」


 その言葉と共に、彼女は障子を切り裂きその身を外界に晒しだす。


「絡繰忍勝ノノウ! ここに推参!!」


 彼女の本来の流儀にはそぐわないが、俺のやり方に合わせてくれていることに感謝を感じつつ、敵対者に二人で睨みを利かす。


 そこに在るのは巨大なる工場の化身で、縦の大きさは40mほどだろうか。上級にも見える大きさはしているものの、一応定義的には高さを基準とするらしいので中級らしい。




 正直な所、今回の戦いは苦しいモノだ。こいつを倒したところで何も改善しない。


 何も守れないし、何も変わらない。敵が少し都合がいい方向に行くだけだ。


 俺たちにできるのは鎮魂の祈りと、邪悪への報復のみだ。


 悲しいことに、悲劇が起きる前に敵と戦えるなんて言うのは、よっぽどの幸運の持ち主か、敵の目的自体が自分自身だった時ぐらいだろう。


 残念なことに、俺の敵にとって俺たちはただ邪魔なものだ。


 ゲームをしていて、倒さなくてもいい敵キャラを、クリアすることだけを考えているときにわざわざ探し出して倒したりはしないだろう。


 当たり前の話として、彼らがわざわざ俺を狙って攻撃してくるとすれば、邪魔だから消すためか、嫌がらせのどちらかだ。


 奴らにとっては何の損もない状況にしている。


 それでも俺たちは戦わないといけない。


 だったら、それを前提に戦おうじゃないか。


「たとえどのような状況であろうとも!」

「我らが最後に掴むは希望の未来!!」


 高らかに宣言してやろうじゃないか。


 どれほどの苦難であろうとも、この戦いで負けたとしてもその犠牲者の思いを背負い、最後には勝つ。


「我らの闘志を!」

「恐れぬならば!!」


 2つの絡繰が見栄を切れば、妖もこちらに向かって暴れ狂う。


「かかってこい!!」


 それに対して、俺たちは挑戦状を叩きつけ、突進をかわし立ち向かう。




「ちぃっ、手数が多い!!」


 耳をつんざく咆哮と共に、奴の四方八方からロボットアームが伸びては襲い掛かる。


 あるものをこちらをつかんで捕えようと、またあるものは回転鋸が装甲を切り裂かんと振るわれる。


「ならばあえて間合いを詰める!!」


 紫苑の言葉と共に、ノノウが迫る攻撃の中をすり抜けて、奴の背に乗っては切りかかる。


「魔倒剣!」


 彼女の言葉と共に、剣にエネルギーが集結し刀身が光り輝く。そのまま振るわれた刃は――。


「ちぃっ、硬い!!」


 容易く弾かれた。


 傷一つ付いていない強固な体は、奴が持つ力がそれほどに強大であることを示しているのだろう。


 火力だけならば、天叢雲という最大の力がある。しかし、俺たちはこれを使いたくはない。それ相応に負担がある。


 まぁ、別に寿命を削るだとかそう言う話ではなく、シンプルに疲れるだけなのだ。しかしそれがまずい。


 奴は妖が作り出した、妖獣機という兵器の製造工場の付喪神、つまりはそう言ったものの化身とでも言うべき存在。


「下手に負担がデカいのは使えないか」


 工場とは何なのか、物を作る場所だ。しかも妖獣機という、叢雲にも匹敵しうる超兵器の製造工場だ。


 倒した後に、そんな超兵器の軍団が現れないとは限らない。


「だったら、こいつはどうだっ!!」


 故に負担が軽く、火力の高い武装を使う必要がある。


 俺は風林火山の山、大盾を両手で構えて付喪神に向ける。


 動かざること山の如し、本質としてはその場にとどまり一撃で敵を打倒すもの。


「展開!」


 大盾の中央が扉のように開く。そこから現れるのは、まさしく巨大なる大砲。


「エネルギー充填120%!!」


 叢雲の中の力を全てそこに注ぎ込む。だが恐らくそれだけでは足りない――。


「時間停止!」


 故に選択するのは叢雲に刻み込まれた先人の遺産。


 ほんの数秒の時間の操作、神にも匹敵するそれだが、俺が使ったところで何かができるわけではない。


 叢雲の中の、他の先人たちの力ならば話は別だが。


「攻撃範囲拡大! 強酸性付与! 熱量増大!」


 選択していく砲撃を強化するための遺産。一つ一つが攻撃の力を高め、致命傷を与えるためのモノ。


 時間を止めたのも、選択した遺産の全てを一つの攻撃に注ぎ込むためのモノ。俺は元々の持ち主ではないから、そして力は一人に一つだけなのだから、同時にすべてを使えない。だから、一撃に複数込めるために、ほんの少し時を止める必要があった。


大山鳴動砲(たいざんめいどうほう)!! 最大出力!!」


 時が動き出せば、一撃の制御に全神経を集中させる。


 この一撃で、奴の核を破壊する!!


「紫苑! 離れろっ!!」

「分かったっ!!」


 ノノウが射程範囲から離れるのを確認すれば、奴の土手っ腹に風穴あけてやるために――。


「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 抑え込んでいた力を開放する。放たれるのは熱線、それも掠っただけで金属を腐食し、焼き払うもの。


 その一撃は工場全体を燃やし尽くし、逃げる場所を与えない。


 照射時間は、約1分。その間ずっと焼いたのだ。その中にいたであろう遺体の全てを巻き込んで。


「ふぅ……、これで――」


 工場の付喪神は大きな風穴を開けられ、ずずんと大きな音と共に大地に倒れ伏した。


 もはや動かない、奴は死んだのだ。




「おわっ!?」


 そう、死んだはずだった。


「再生しているだと!?」

「くそっ、工場ってのはそういうことか!?」


 工場とは物を作る場所である。それは工場を建設するためのものも含まれる。当たり前の話だ。


 だから、奴は内部で製造し交換することで復活する。実に簡単な話だ。


「付喪神であるということがここまでうまく作用しているとはな」


 付喪神。


 長い年月を経ることで物に宿る神や精霊と呼ばれる妖。魂が宿るまでに必要な時間は約100年、などという研究が行われていた記憶がある。


 つまり、奴らの計画は少なく見積もっても100年前から行われていたということで、それ相応の数が用意されているという事実がある。


 なんとも最悪この上ない事実だ。


 ついでに言えば、付喪神の体は生体……、つまり生物ではないという点だ。


 大半の生物には痛覚があるし、痛みを感じれば怯むし恐れる。それは妖であっても変わりはしない。


 だからこそ、妖獣機は厄介であった、殴っても斬っても撃っても、その衝撃で動いたりはしても気にせずに襲い掛かってきた。


 そして目の前にいる、付喪神もまた同様であった。再生したと言っても、あれだけ大きな風穴を開けたのだ、それ相応のダメージがあったはずだ。


 まるでその痛みを感じている様子がない。だから奴は恐ろしい、パーツを交換すればすぐに万全で、そのパーツを常に製造している。なんとも恐ろしい敵なのだ。


「……天叢雲、使うしかないのか?」


 俺はあの力を恐れている所がある。叢雲とノノウの2機の巨大絡繰が合体して誕生する、無敵のスーパーロボット。


 だがしかし、天叢雲の強さは1+1=2の計算式では決してない。1+1だというのに、答えは10か100か、それよりも多いのか、そこまでは分からないがとてつもなく大きな数字になっている。


 代償として、俺と紫苑が意識を失うほどの疲労を感じているが、この疲労の原因がただ疲れているだけなのか? という点にも疑問を感じている。


「いや、やるんだよな」

「分かった、天叢雲だな」


 だがしかし、それでも俺たちは勝たなければならない。


 故に最大最強の力を今解き放つ時だ。


「超越合体っ!!」


 今2人の声がシンクロし、2機の絡繰が1つとなる。故に2人も1人となろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 倒しきれません、再生します。 奥の手使うしかない。 しんどい……ほんとしんどい…… この負担を克服する日はいつか来るのだろうか?
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