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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第7話 人と人との狭間
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謀略の残り香

 信じられる要素がない話、というのは意外と難しい話である。自分たちにとって重要な案件でとなると特にだ。


 信じられる要素がたくさんあるというのであれば、その話を信じてしまえばそれで構わない。しかし、信じられる要素がないというのであれば、信じることは難しいだろう。


 しかし、それでも俺たちは信じて行動しなければならない。それは世界の危機とかそう言うのを背負っているが故の話だ。もし万が一、信じられない話が真実だった場合、信じて行動していなければ大変なことになってしまうかもしれないのだ。


「だから信じられなくても信じて行動しなきゃいけないんだけど……、ヒント。妖の仕業を示唆するなにかもないとなぁ」

「あぁ、調査しようにも、何をどう調査すればいいのかすら分からないとなるとな」


 砂漠の中で一粒の砂を探す……というほど難しいことではない、しかしそれでも難しいことに違いはない。まるで全て白一色のパズルを完成させようとするような感じだ。


 いきなり迷路の中に放り込まれたようなもの、現在地がどこなのかすら分からないそれは、ある意味で遭難したのと違いはない。


「とりあえず聞き込みからしていくか」

「二手に分かれて行動しよう、それぞれの聞き方で確認をする。そこで同じ人物からの話で矛盾が生まれれば――」

「何らかの嘘が存在するのが確認できるってことか」


何らかの嘘。この村を支配している妖がいるとして、俺たちに情報を掴ませないようにするために、村人に箝口令を敷いている可能性は普通にあり得る。そのための嘘があるとして、事前にマニュアル化していないならば、ある程度ばらけたりするのは、予想できるだろう。


 その場さえしのげれば問題がない、本来ならばそういうものなのだから。


「……もちろん、一切の矛盾を見つけられない可能性はある」

「子供たちが適当なことを言っている可能性だってある」


 信じられるだけの情報はない、信じたい話でもない。


 というか、何なら。


「まぁ、適当言ってる方が一番いいんだけどな」

「えぇ、何もないならそれが一番いい」


 正義のヒーローなんてのは暇なぐらいがちょうどいい。悪さをしている奴がいないし、誰も嫌な目にあっていない可能性が高い証明だ。


 まぁ、単純な力、というか暴力でどうしようもない案件だから、力になろうにもなれないし、寧ろ邪魔になるから結果的に暇になってるという可能性は無きにしも非ずだが、そこまで考えるのは考え過ぎだといえるだろう。


 結局一番の理想は、子どもたちの言う通り妖に支配されている。なんて事態が起こっていない事なのだから。




 俺と紫苑の調査が始まってから、数日が経過した。結論から言えば、気になる点はいくつもあるが、それと妖の関係性がまるで見えない。


 時折夜中に村人たちが集まって、輪になって何か儀式のようなものをしている。という怪しい行動をするときがあった、しかしながら彼らはこう呟いていたのだ。


「ベントラーベントラー」


 数少ない、どうでもいいことばかり覚えている俺の前世の記憶だが、この言葉の意味は良ーく知っていた。どうやら前世の俺は、オカルト趣味があった可能性がある。


 結論から言えば、ベントラーベントラーとは宇宙人と交信できる――、と言われている魔法の言葉だ。


 言うまでもないが、妖とは関係ない。紫苑が調査すべきだといっていたが、間違いなくUFOを呼ぼうとしているだけなので、別に気にする必要はない。


 妖が実は宇宙人だとか、そんなバカバカしい可能性になるのだ。信じられない事でも調査をするべきというのは、俺もよく理解しているポイントだが、さすがにこれは信じなくてもいいだろう。




 つまるところ、俺か紫苑のどちらかの認識では怪しいことも、もう片方がその詳細を知っているせいで、どうということはない案件だとすぐさま理解ができてしまう。怪しいと思うことが、バカバカしいだけの話だと分かってしまえば、やる気もだんだんと失せて行くものだ。


「……これ、本当に何もない案件なんじゃないか?」

「……数日使って、何もない案件は実際いいことなんだろうけど、それはそれとして精神的にくるものがあるな」


 これが妖の作戦だとしたならば、なんとも恐ろしい奴だ。俺も紫苑も完全に油断している。自分で自覚しているのに、本当にどうしようもない感じは、それこそ汰異堕とかいう超上級の力とも違う。極々当然の生理現象のようなものだろうか。


「……どこかに行く目的地もないし調査は続けよう」

「だな」




 結局のところ俺たちの旅というものは、目的地となる情報も妖の被害もなければ始まらない。紫苑のノノウに使ったエネルギーの結晶についての、それらしい目撃談があるわけでもなければ、それこそ中級以上の妖の被害の話もやってこない。


「……暇だな」

「訓練をしようにも、一応調査を続けないといけないからな」


 紫苑の術を使った訓練だが、幻覚の世界に囚われることで成立する。当然そんな状態では、事件の調査なんてできるわけないのだから、こちらも実行することはできない。結果として、適当なところでスクワットぐらいしかできないのだ。


 ある意味で慣れてきた結果の雑な仕事になっている調査、そんな中で俺たちは――。


「どうもすみません」

「っと、どちらさん?」


 今まで村の中で、一度も見たことがなかった若い男に出会った。というか、向こうから声をかけてきた。


 この村で行動を起こした妖は若い男だった"らしい"。


 暫定容疑者として、この男は非常に怪しいモノであった。


「この村であまり見かけない風貌の方だと思いまして、私真理須(まりす)英雄(ひでお)という旅の商人をしている者です」


 男は張り付いたような笑みに、なんというか奇抜な格好をしている。具体的に言えばTシャツにデニムだ。


 至極当たり前の話だが、刀の国は基本的には前世の日本の江戸時代のような文化レベルである。当然その時代の日本にTシャツもジーパンもありはしない。というか、何故か覚えている記憶の中で言っているが、江戸時代のころはそもそも世界全体で見てもTシャツもジーパンもなかったはずだ。


 無論転生者(だれか)が作った可能性はあり得るし、完全に前世と同じ歴史をたどっているわけではない、故に普通にあってもおかしくないものの可能性は存在する。


「……珍しい恰好をしているんだな?」


 紫苑の反応から、その可能性も限りなく低いのだが。


 少し考えてもみて欲しい、見るからに怪しい恰好をしている奴がいて、それが小学校の近辺をうろついていたとする。


 間違いなく通報されるし、警察も見かけたら絶対に職務質問する。


 それに匹敵するほどに、この世界の刀の国置いて、Tシャツとジーパンの組み合わせは異常なのだ。


「旅芸人っていう方が説得力あるぞ?」

「ひでぇ言われようだ」


 酷い言われようかもしれないが、そんな恰好をしているお前が悪いのだ。


「まぁ、それはさておき……この村で何かを探るのでしたら、何かの謀が待っている可能性を考慮したほうがいいかと。何かが企まれていた過去、というのは間違いなくありましたから」


 ……この男は何故こんなことを語りだしたのだろうか?


 そんな疑問は片隅に置いておく、確かに今時計の針が進んだ気がしたのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだろう……めっちゃ怪しいけど過去作のウサンクみたいな奴も居たしなあ……迷うなあ……
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