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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第6話 完成! 超越絡繰武勝天叢雲!!
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何故合体の機構が用意されていたのか

 どこかで見た気がする天井。


 目を覚ました俺が最初に見たものはそれであった。


「おや、目が覚めたか」


 どうやら眠っていたらしいことを、聞こえた声で理解する。


 それとほぼ同時に俺の顔を除いてきたのは子どもの顔。どのかはさておき、確かに俺はこの顔を知っていた。


「……ムラマサか?」

「あぁ、目が覚めたようでなによりだ」

「なんでここにいる……、いや、俺がどうしてここにいるの方が正確か」


 こちらを見ている少年に問いかければ、彼の存在もあって、天井がムラマサの工房であることを理解する。


 ムラマサの工房はイーズモ、俺が戦っていたキュウトからはそれなりに離れている。俺からすれば転移したようなものだが、紫苑がそう言う術を使ったとも思えない。天叢雲での戦闘はそれほどの負担を強いていた、彼女も意識が飛んでいるのは間違いないだろう。ノノウで戦った時も終わった後は気を失っていたのだ、それ以上に負担が強かったであろう、天叢雲で意識を保っている可能性は低いはずだ。


「あぁ、天叢雲と共にこっちに帰ってきたからね」


 叢雲は俺に刻まれている紋章、端的に言えばマーキングされている俺がいる場所に召喚される。召喚されるということは元々いる場所があるわけだ。もともとはオエード城がその座標だったが、どうやら整備をしてもらった時に、ムラマサの工房に変更されていたらしい。


「しかし、天叢雲のことを知っていたんだな?」


 ふと気が付いたのだ、彼は俺が口にする前から、天叢雲という呼称を使っていた。


 当然の話だが、天叢雲というマシンはあの瞬間初めて誕生した代物だ。あの場にいた者でないならば、認識できる可能性があるのは、構成する叢雲とノノウを作り出した彼らしかありえない。


「まぁ、できるようにしていたからね」


 そしてそれは、彼らが合体をできるようにしていたという証明でもある。




「ふーん。……まぁ、聞きたいことはいろいろとあるけど。紫苑はどうしたんだ?」


 そんな中で、ふと気になったことを問いかける。


 天叢雲は合体ロボであり、もともとの合体パーツである叢雲とノノウで構成されている。そしてそれぞれに、俺と紫苑が搭乗していた。天叢雲には当然、俺と紫苑が同じように乗っている。天叢雲として戻ってきたのであれば、当然紫苑もこちらに来ているはずなのだ。


「あぁ、慣れの問題だろうな、彼女はまだ寝ている。とは言えお前も丸1日寝ていたがな」


 なんとも恐ろしい話である。1日中グースカしていたのか。


 それほどまでに負担が大きい天叢雲、と考えるとできるだけ使いたくはない切札といったところか。いっそのこと慣れに慣れて、使いまくれるようにした方がいい気もするが、その辺りは紫苑と相談するのがベストだろう。俺一人では振るえないし、紫苑一人でも扱えない力だ。


「とりあえず、軽く体を動かしておけ。聞きたいこともあるだろうが、体の調子を確かめて、その後に飯を用意してやる」


 少年の姿ではあるが、彼は――無論、この個体以外のムラマサ全員がそうなのだが――子どもではないし、なんならおじいちゃんなのだ。見た目とはまるで違うふるまい、と考えるとなんとなく納得ができてくる。




「さ、とりあえず食べな」

「え、いや……え?」


 彼に促されると共に、ちゃぶ台に載せられるお盆。その上にはご飯が山盛りになっている丼ぶり、アユの塩焼きがドカッと乗せられた皿、どんぶりになみなみと注がれた味噌汁、明らかに一本丸々の沢庵。


 腹は減っている、1日寝ていたわけだし?


「これを1食で食べろと?」

「足りないのか? ならそう言えよ、まったく」

「いや、多いんですが」


 そう、多いのだ。ちょっとこれは真面目に、一人で食べる量ではない。間違いなく複数人で分けるべき量だ。言うなればビュッフェ、食べ放題で各自好きなだけ持っていってくださいってときの、料理が置かれている大皿。


「若いんだから食え食え」

「いろいろともったいないのでやめてくれませんかねぇ!?」


 出された料理は、たとえどれほどまずくても食べる、という個人的な流儀が俺にはある。だからこそ、多すぎる食事というものを俺は好まない。

 無論悪意があって、彼らがそう言うことをしているのではないというのは分かっている。分かっているとしても、残してしまうことへの罪悪感はとても大きい。


 この辺り、俺が百姓の家に産まれ、食材を作る側だったという経験がそうさせるのか、それとも前世の方で何かがあったのか、どちらなのかは自分でも分からない。なんなら特に理由がないってのも普通にあり得るだろう。どちらにせよ大事なのは、俺が食べ物を残すことをしたくないし、できないという点だ。


 子ども相手に殴り合いで勝つなど、大人であれば造作もないことかもしれない。だけど一切の遠慮なく子供をぶちのめせる大人もそういないだろう。それと同じ話だ。




「……ご、ごちそうさまでした」


 だから俺は、明らかに一度に食べる量ではないソレを食べきった。ちょっと自分でも頑張った気がする。どれだけ絶望的な戦いであっても立ち向かう勇気、より食欲を増してやれるようにするための食べ方を考える英知、自身の覚悟を決して揺るがさないための精神力、優しさを優しさとして受け止めるための心の余裕。全てを結集した結果の勝利である。


「この程度でいいのか?」


 あぁ、そうだ、この程度でいい。いや、この程度でも多いんだ。若い者はもっと食べろと先人が言いたくなる気持ちも、それはまぁ理解できないわけではないさ。それはそれとして、若者の言うことも素直に受け止めてやって欲しい。


「……合体も、もしかしなくてもこの程度の理由でつけられたのか?」

「ん? どういうことだ?」


 いや、まぁさすがにないか。なんとなくできそうだから、全部できるようにしたとかそんな。帰りのついでに、欲しいといっていた気がするからって、勝手に何か買ってくるような、そんなノリで合体機能を搭載するのはさすがにないだろう。


「で、どうして合体何て付けたんだ?」

「初代たちが語っていたんだよ、ロボと言えば合体だって」


 ……いや、さすがにないという俺の感覚がないのか?


「だから、新しく作ることがあったなら、絶対に合体できるように仕込んでやると決めていてな」


 ……雑な理由はさすがに俺も想像外だったぞ? おい!?

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