見よ! スーパーロボット天叢雲ここにあり
光の中で、2つの鋼が組み合う。光の渦の中で、本来存在しない結合のためのパーツが誕生する。
「何をするつもりか知らないが、1ヶ所に集まったということは好都合!!」
光の中に向かって、無数のタケハヤが――。無数の差吊苦の殺意が振るわれる。
炎が、氷が、雷が、岩が、剣が、槍が、弾丸が、それはもう思いつくすべての攻撃が叩き込まれて行く。ただ敵を殺しつくすためだけに。
「なにっ!?」
その全てが光に阻まれ、その全てがかき消されて行く。
「知らないんだよな、合体ロボの合体中は隙だらけ……なんて言うのはド素人の発想!!」
光の中から1つの巨大な影が現れる。
「合体中は何らかの防御手段が講じられていたり、隙にすらならないスピードでの合体が行われているなど、これはもはや常識!!」
高らかに叫びをあげる声は、叢雲の搭乗者である俺の声。俺が語るは世界の真理と言っても過言ではない。
「な、なんだっ、何が起こった!?」
あぁ、されどこのようなものに慣れていない奴にとっては驚きだったのだろう。ある意味ではこれが最初なのだ、この世界で最初の合体ロボ。ならば全力で格好つけなければならないだろう。
「寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! 今この地に現れ立つのは!」
俺の言葉と共に、光の柱がかき消える。そこに在るのは一つのマシン。人類の希望たる、絡繰武勝の新たなる姿。
「表と裏の全てを背負い!」
俺の口上に合わせるように紫苑が口を開く、あぁそうだ――。
「人のために、世のために!」
「人に隠れ、世に隠れ、影と共に舞い踊り!」
叢雲とノノウが一つとなったように、俺と紫苑も一つとなった。考えることも手に取るように分かっていく。
「光を背負って立ち上がる!!」
ならば、即席の口上もうまい具合に噛み合って口にすることができる。正直なところ、これが実に気持ちいいのだ。
「見よ!! これこそがこの時代に生まれる新たなる伝説!!」
ならば、難しいことを考えずにヒーローらしく戦おう。
「その名も超越絡繰武勝天叢雲!!」
俺と紫苑の声がシンクロし、二人の声で高らかに名乗りを上げる。
金色の鎧に黒き翼が映えるその雄姿、俺は殺意の嵐の中で雄々しく構えを取って見せる。
「いざ、尋常に勝負ってなぁ!!」
敵機の数は少なく見積もっても3桁を超える。
「この数を相手に――」
奴の嘲りの言葉が聞こえてきたのと同時に、俺と紫苑は敵陣ど真ん中への突撃を選択する。
天高く飛翔する敵陣のど真ん中へ。
「数が何だって?」
天叢雲が腕を振るう、ただそれだけ。そう、それだけだ。
それと共に、敵機の半数が意図も容易く爆散していく。
「……ッ!?」
「ふっ、どうした? 何かおかしなものでも見たのか?」
格好つけてはいるが、想像以上の力を発揮している事実に、俺は喜びを隠せない。しかもだ――。
「なぜ飛べるようになっている、叢雲!」
「否、これはもはや叢雲に非ず!! 天叢雲こそがこの勇者の名だと名乗ったはずだぜ」
飛行能力を合体することで有することができた。自由自在に飛べるようになったのだ。これは叢雲やノノウにはなかった、天叢雲という合体に成功した結果の新たな力。
力が強くなったことも、走る速度が速くなったことも、この事実に比べれば小さな差だ。できることがもっとできるようになったのではなく、できなかったことができるようになった。
1を2にするのと、0が1になるのでは、実際にやっている側としては大きく違いがある。
「天狗の里での経験が活きてるな」
「あぁ、全部終わったらあいつらにも礼を言いに行こう!」
びゅーんとひとっ飛びすれば、すれ違う敵を自由自在に切り刻む。見る見るうちに、それこそ蚊取り線香を炊いた部屋の蚊のように、ぼとぼとと撃墜されて行く妖獣機。
「だったらまずは――」
「悪党の成敗それしかないよな!!」
縦横無尽に空を駆け、迫る殺意を殺していく。
刻一刻と敵が減っていけば、むしろ差吊苦の攻撃は苛烈になっていく。まぁ理屈の上では納得いくものだ。奴が全ての機体を操作している以上、数が多ければ多いほどに意識しなければならない者は増えていく。逆に撃墜されればされるほどに、1機1機の機体の操縦に意識が集中していく。
つまり、倒せば倒すほどに敵が強くなっていく。
「ちぃっ!!」
1機がこちらに突撃を開始すれば、迎撃しようとする俺たちの動きを読んでいたとばかりに、四方八方からの遠距離攻撃が飛んでくる。
「殺してやる、殺してやる、どんな手を使ってでも殺してやる!!」
それらの攻撃を受け止めながら、突撃した機体を殴り飛ばして爆散させる。言葉にすればシンプルだが、実際にやってみると恐怖を感じるのも仕方ないといえるだろう。
明確な殺意が、自分に向けて、行動にまで移されている。一般人ならばちびりそうになっても仕方ないさ。歴戦の勇者だったとしても、怖いと絶対に思うだろう。それでもなお、格好つけて立ち向かうのが俺たちの戦いだ。
俺たちは最後まで格好つけて戦うと決めたんだ。
「1つ1つ倒しても、敵が強くなるだけだ」
「一気に倒すしかないということだな」
「……そして俺たちは、天叢雲の武装についての情報が欠片もない」
どのような仕様なのかを記された、言うなれば取扱説明書など存在しない。だってこれは、現場が勢いでやったらできた、とかその手の本来の仕様ではないのだから。
だから、俺たちは――。
「勢いでやってみるしかないよなぁ!」
「ええいっ、そうでしかないがっ!!」
その言葉と共に、天下抜倒剣とノノウの魔倒剣を同時に引き抜く。
「天下抜倒剣!!」
「魔倒剣!!」
そして、そこで俺は1つの思い付きをした。
2つの剣を1つにする。
「機体が合体したのなら、武装も合体して当然!!」
俺の意思の力か、それともムラマサが事前にそうなるように構築していたのか、なんなら不思議なことが起こっただとか、都合がいい奇跡が起きただとか、なんだっていいのだ。
結果として、2つの剣は1つとなったのが重要だ。
まるで最初からそうであったかのようで――。
「天上!!」
「天下!!」
「抜倒ぉーけぇぇぇぇぇんッ!!!」
俺と紫苑も、まるでそれが自然な事のように、その剣の銘を高らかに叫んだ。
「刀が長くなっただけで!!」
あぁ、確かに傍目にはそう見えるのだろう。
だがこれはただの刀ではない、スーパーロボット――しかも合体したのだ――の必殺剣だ。長くなっただけで済むはずがないだろう。
「邪悪を断てっ!!」
「天叢雲!!」
その言葉と共に、凄まじいエネルギーが天上天下抜倒剣の刀身に集まっていく。そして次の瞬間だ――。
「光陰斬りぃぃぃッ!!」
刀身そのものがエネルギーへと変化して、全長数kmにまで伸びていく。それを勢いよく横に一閃。
ただそれだけで、刀身に触れてすらいない敵機もそのエネルギーに焼かれて行く。退魔の力が増幅されたソレは、妖にとっては毒。それもただの毒ではない、致死性かつ即効性のソレ。たとえ機械だとしても、妖の手によって創造されたソレは妖としての特性が含まれているのかもしれない。ただ一撃によって、爆発と蒸発を繰り返していく。
正しい攻撃範囲に気が付いたとしても、最早逃れる術はない。
そのままぐるりと1回転する要領で、横に薙ぎ払っていけば視界に映る全てが断ち切られて行く。
鋼の強固なボディのはずの敵すらも、まるで草むらを木の棒で叩くように、すいすいと断ち切って。
「……ふー」
回転を終えれば、視界に映る限りは敵の存在を認識できないことを確認する。
奴が逃げたのか、今ので倒せたのか。どちらにせよ、今大事なのは戦いに勝利したということのみ。
「……紫苑、後は任せていいか?」
「龍牙、それはこちらの台詞だ」
俺の問いかけに対して、紫苑が返した言葉。それによって理解したことがある。
「……こりゃ、そうほいほいと使える力じゃないかもな」
どうにかして地面に降りた後、俺と紫苑は野原の真ん中で死んだように意識を失った。
合体ロボ天叢雲、それ相応に負担も大きいということでこんな感じの扱いです。
出ること自体が必殺技とでも言いましょうか。もちろん叢雲とノノウでないとまずいこともあるので、一概に最初から天叢雲で行けばいいってわけでもないってことで。




