超越合体
意識を取り戻した時、俺は確かに敵のど真ん中にいた。
「龍牙、聞こえているかっ!!」
そしてそれと共に、まだ寝ぼけているような感覚の俺に対して、女の声が叩きつけられた。
あぁ、これはよく知っている。毎日毎日声を聴いていた、戦いの海を行くと決めた俺を、じっと見つめてきた瞳の持ち主だ、握りあってきた手の持ち主だ、足並みをそろえここまで戦い抜いてきた仲間の声だ。
「悪い、紫苑!!」
「説教は後だ、このまま戦うのだろう」
声の主は紫苑だ、奴らの攻撃から救い、俺の暴走で無駄に心配をかけてしまった、大切な仲間だ。
「あぁ、ここでこんな鉄くずをぶち壊さないといけない」
これは俺の本心だ。
妖ならば、ここで逃げてももう一度倒せば、同じ被害は発生しない。だが、兵器は違うのだ。
まったく同じ位置、同じ角度で引き金を引けば、同じ銃で、同じターゲットであれば結果が同じになる。使う者が全部ばらばらだったとしても、結果は同じだ。
つまり、アレを使っているものが何者であるかはどうでもいい、アレが意味のない代物であると見せつけなければいけない。二度とあんな代物が現れないようにするために。作るだけ無駄になる、価値のない代物に貶めなければならないのだ。
「ああ゛ぁ゛ぁ、タケハヤの何が鉄くずだぁ!!」
だから、あぁだからだ。ついに奴が言葉を発した事実に動きが止まってしまった。
無人で動いているだとか、そんなことを想定していたわけではない。むしろその方が俺にとっては都合がよかったといえるだろう。
「……おいおい、まさかこれ全部――」
全てが同じ機体であった。そしてその全てを俺は見たことがあるのを思い出した。少し前の話じゃあないか。
これは天狗の里に襲撃してきた時と、まったく同じ機体じゃあないか。
ブチギレずに、冷静であれっていうのはこういうことも含むのだろう。敵の危険度をちゃんと理解できないままに突撃していた。あぁ、奇跡的に幾つか撃墜できたのは、本当に奇跡なのだろう。初代様に代わってもらっていたのも、それはもう幸運だったのだろう。
「差吊苦かっ!!」
「だぁい正解っ!! 全部俺だっ!!」
さて、しかし困った――。
「まさかお前の兄弟姉妹がこんなにいるとは思わなかったぞ!?」
「全部俺だといっているだろ」
そんなハッタリがこの俺に通用するとは思わないでもらいたい。
「複数機ある以上、複数人いるのは間違いない!」
「……お、おう」
「そして、寸分違わぬ違いの分からない、精度が高すぎるお前の模倣!!」
「……そうかそうか」
「つまり、それほどまでにお前のことを理解している奴に間違いない」
間違いない、自分で言うのもなんだが、俺の推理力が恐ろしい。
「つまり、生まれてからずっとお前を見ていた兄弟姉妹に間違いない」
「不正解だバカタレっ!!」
あら? 人海戦術作戦だと思っていたが違うのか。
「なるほど、遠隔操縦ということだな!」
「そうだ、そういうことだ忍びの女!! 叢雲の搭乗者は間抜けなのか」
俺の家を爆破しておいてこの言い草、なんて失礼な奴であろうか――。
「あぁ、そうだな」
「紫苑さん!?」
と言いたいところだが、どうやら紫苑はあっちの方が正しいといっているらしい。俺は間抜けだそうだ。
泣きたい。前世基準で見ても成人男性が、それはもう周りの目など気にせずに泣きたい。駄々っ子のようにいやだいやだと泣きたい。
「……だが、それでも格好をつけることができる間抜けだぞ」
紫苑さん? それはフォローのつもりなのでしょうか?
頭を抱えたくなるが、しかし遠隔操縦ということは、どこかにいる差吊苦を倒せばそれで解決する。……けれども、俺たちが視認できる場所にいるとは限らない。どっちにしろ全滅させなければならないという事実には変わらない。
あぁ、仮に紫苑がノノウに乗り込み参戦しても、この数を倒す前に倒れてしまうのがオチだろう。だからこそ、紫苑は撤退を告げたのだろう。
「紫苑、賭け事って好きか?」
「……賭け事だと?」
だからこそ、彼らの告げた可能性に賭けるしかない。逃げてしまえば、この戦法の有用性が証明されてしまう。数を増やすことで俺たちの敗北につながる可能性が出てくる。
なにせ、純粋に人間を守る戦力は叢雲とノノウしか存在しないのだ。
極論三か所同時攻撃を、ずっとずっと行われるだけで被害は発生し続ける。負け続けてしまうのだ。
だからこそ、2ではなくて1で倒さなければならない。
「一発逆転の大博打! ここで負ければ人類の未来はお先真っ暗、間違いなくのバッドエンド!! 不幸で不幸で仕方がない、完全敗北が約束される!!!」
ならばこそ、勝てる可能性に賭けなければならない。
俺も、紫苑も、叢雲を作った時代の先人たちの誰も知らない、そんな未知に賭けなければならない。
「だが、ここで勝てば!! この戦いはおろか、妖の異常発生の解決も大きく進むっ!!」
「本当か!?」
あぁ、進むだろう――。
「多分!!」
まぁ、実際の所は知らないさ、どうなるかなんて俺はには分からない。
迫りくる敵をけん制するように、腕と足を動かして、ピョンピョンと跳び回るしかできない。そもそも俺は弱き者だ。
格好つけてないと戦場に、自分の足で立つこともできない情けない奴だ。自分の中のヒーローを演じてなければ、立てないんだ。
だったら、勝てるかどうかなんてわからなくていいじゃあないか。
「何でもは知らないし、なんなら知らないことの方が多い俺に、賭けてみろ!!」
天高く叫ぶと共に、俺に迫りくるタケハヤという的の機体が蹴り飛ばされて行く。
その足は鋼、その色は紫。
「ふっ、それを賭ける側に言う言葉か?」
その名はノノウ、我が戦友紫苑が駆るマシン。
彼女は、どこか呆れた様子で、しかし楽しそうにこちらに問いかけてくる。
「そんな奴に最初に全部ベットした、賭け事の基本も何も知らない奴の一人に言われても、俺は何とも言えないなぁ!!」
「ははははっ、それはそうかっ!!」
俺と紫苑は高らかに笑う。それはそうだろう、そもそも俺に託さざるを得ない状況がバカなのだ。
だったら、バカがバカなりに、できることをやるしかない。
「それで、何か策があるのか?」
「あぁ、それは――」
俺がそれを語ろうすれば、差吊苦の四方八方からの攻撃が迫る。
さすがに、同時に複数機を操るのは手間取っているのだろう、一機で攻めてきた時に比べれば避けやすいそれをかわしつつ、大きな声で叫ぶ。
「合体だ!」
そしてそれと共に――。
「な、なっ!!」
紫苑が急にてんぱったような声を出している、なんだ……? 俺は何かおかしなことを言ったのだろうか?
よく見れば、差吊苦の操る敵機も、全て呆然と立ち尽くしているではないか。
「この戦闘中にそんなことを考えている余裕があるのか、叢雲ォォォォッ!!」
すさまじい怒りと共に、奴が飛び込んで来ればかわすことすら間に合わない。全力で耐える体制に入り、そこで何か……そう、羞恥心のようなものを感じた。
いや、まぁ数の暴力とか言う卑怯な手段を、しかも不意打ちで叩きこんできたんだ。そりゃまぁ、真っ当な感性をしていれば恥ずかしくも思うだろう。
「は、破廉恥だぞ、龍牙!!」
……あぁ、そんな風に考えていた俺は間違っていたらしい。それはそうだ、なにせこの世界にロボットアニメの概念は無ければ、ロボットモノらしい概念は叢雲しか存在しない。
より正確に言えば、単独で完成していたスーパーロボットしかありはしない。
そんな世界で、男と女で合体などと言えばどういう意味を持つのかなど、少し考えれば分かる話ではないか。
何と何が合体するのかを、正確に語らなければ無駄に誤解を生むだけではないか。
「叢雲とノノウを合体させんだ、唐突に生真面目キャラぶってんじゃねぇ!!」
「な、馬鹿なことを言うなっ!! そんなものできるはずが――」
あぁ、そりゃあそうだろう。もともとそんな機構を要望しているはずもない。
「うるさい、やるったらやるんだよっ!!」
が、そんな意見を受け入れてやれるほど現状は、楽な状況ではない。世界を救う仕事が、ホワイトであるはずがないのだ。
「いいから、俺に続いて叫べ!」
「あ、あぁ――」
差吊苦の攻撃をかわしながら、何処からか頭の中に浮かび上がった言葉を叫ぶ。
「超越合体!!」
「超越合体っ!!」
俺と紫苑の言葉が世界に響き、金色の竜巻が叢雲とノノウの間に生じていく。
そしてその中に、2つの巨人が吸い込まれていった。




