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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第6話 完成! 超越絡繰武勝天叢雲!!
41/80

ずっと傍にいて、もうどこにもいない人

 いつも通りの修行をして、いつも通りに飯を食う、そしていつも通りに寝る。


 良くも悪くも、いつも通りの生活を俺たちは送っていた。


 目的もなく、刀の国全土を回るのは、それこそ非常時に目的地に向かえないという事態が発生する。


 では、俺たちはどこにいるのかと言われれば――。


「そう言えば俺、武家になったんだったな」


 俺の家である。




 正確には刀の国の中心のオエード。に並ぶ、西の地域の中心地にして、少し前までは中心であった都、キュウトにある家だ。


 さて、以前は中心であったなどという言い方をしたものの、このキュウトの地がオエードに劣っているわけではない。


 オエードに移るまでは、こちらが中心地であったこともあって、オエードに負けず劣らず発展した都市となっている。


 そんなキュウトの中心、から少し離れた場所に俺の家……、というか武家屋敷が存在する。


 それこそよくある武家屋敷、と言いたいところだが、そもそも武家屋敷がよくあるモノではない。なんて思いはするが、やはりイメージしていた通りのソレが完成していれば、どこか「こういうのでいいんだよ、こういうので」といった感想を抱いていた。


 そんなデカい屋敷で、休憩時間ということもあって寝転がっていた俺の下に、どこかにこやかに笑いながら、紫苑がやってきては問いかけてくる。


「……ようやく、自宅というものに慣れてきたか?」

「いや、慣れないよ」


 そう、慣れていない。


 まるで、今までそんな伏線が存在しなかったから、さも当たり前のように出てきた新キャラに対して、何処の誰だお前? となるような感覚に近い。


 まぁ、実際気づいたら家が用意されてました位の、実につまらない話なので小難しく考える必要も無いのだが。


大事なのは――。


「ここが俺の家だと、しっかりと自覚を持つことだな!」


 俺が言葉を発した次の瞬間だ。


 ひゅー、と妙な音が上から聞こえてくるではないか。


「曲者か!?」


 俺が身構え立ち上がると共に、紫苑が俺の服をつかんで外に駆け出し連れていこうとする。


「し、紫苑どうしたっ!?」

「龍牙、上だ!! 上を見ろ!!」


 そのまま屋外に連れ出されると共に、紫苑に指示された方向、上を――。


 空を見上げる。


「お、おいっ!? これはどういうことだっ!?」


 今日は晴天だ、雲一つない青空だ。だから、そこに在るのはお日様と、一面の青だけだ。そのはずなのだ。


 視界に入ったソレは黒、黒、黒。何かがあるということしか認識できないだけの、うごめく軍団が空を染め上げている。


 あぁ、いやそちらに目を向くのは仕方がなかった。




 ドカーン!!


「……」


 だから不意打ちで来た爆音の方に視線を落とし、見たものに対して俺と紫苑の口があんぐりと開く。目は真ん丸に、釘づけにされる。


 結論から言えば、家が爆発した。つい最近用意してもらったばかりの豪邸が、跡形もなく消滅した。


「は、ははは……、まだ慣れてなかったけどよ……、ははは」


 炎が燃え盛る光景が、俺の瞳に焼き付けられる。


「……いや、これはないだろ」


 隣で紫苑が何か言っているが、俺の耳には届かない。


「ふざけるなよ」


 自分の声だというのに、目の前が業火に焼かれ続けているというのにもかかわらず、すべてが凍り付いたような気がした。


 燃やせ、燃やせ、怒りを燃やせ。その全ての炎を凍り付かせて、殺意に変える。


 右手をかざした俺は、ただ一言。いつも通りの言葉を、いつもと違う気持ちでつぶやいた。


「絡繰武勝、いざ出陣」




 あぁ、いつもならば熱き血潮を全身に流し込み、闘志を燃やして立ち上がっていた。


「殺す」


 それは、人々に希望を与えるための勇者としてのふるまい。妖の被害を受けて、心が沈んでしまう人々に、元気を与えて立ち上がってもらいたいという思い。


 それは戦うことが恐ろしい、ただの人間でしかない俺が、それでもなおと格好をつけることで、勇気を振り絞るための戦い方。


 だけど、だけどだ。自分のことながら客観的に見て俺にそれは存在しなかったんだ。


 ここにあるのは英雄、叢雲の搭乗者である鉄龍牙ではない。


「消す」


 ただひたすらに、無感情に砲身を構えては、引き金を引く。


 引く。


 引く。


 引き続ける。


 放たれた弾丸が、当たれば相手がもろいのか、それとも正確に当てられているのか、断った一撃で敵が爆散していく。


 右腕を前に突き出し、手の甲を敵に見せつけながら、軽くクイっと手招きし挑発する。


 妖は、侮られることを最も嫌う。それは恐怖を糧とするが故の共通の感性であり、どうにかして恐怖を感じさせようとするか、もしくは確実に殺そうとするかの二択。


 一歩間違えば死んでたようなことをしてくるのならば、間違いなく。


「殺しに来るよな」


 その反応を見ていると、自分が笑っていることを理解してた。殺されそうなのに笑うのか?


 いや、違う。


「殺せるから笑うんだ」


 両手にダガーを装備して、迫る敵機の軍団の中をすり抜けていく。近くを通ると共に、ザンっ! ザンっ!! と切り裂いて、一撃一撃を確実に叩き込む。


 四方八方から、迫りくる殺戮の意思。その全てをかわし、逆に切り刻む。爆炎の中から迫る敵は蹴り飛ばし、たった一人で立ちまわる。


 あぁ、言ってしまえば何かが奪われるというのは、これが始めてだ。


 敵意や殺意ではなく、悪意を感じる攻撃はこれが初めてだ。


 ならば、こちらは――。


「殺意を載せて、敵を斬る」


 既に両の手だけでは足りないほどの敵を斬り刻んできた。


 それでも敵が減った気がしない中で、鉄の巨人が空から迫る。腕をつかんで振り回して、そのまま勢いをつけて投げ飛ばす。


 まるでダメージを受けた様子なく、飛びかかるのを見て。力を込めて拳を作り、全身で勢いをつけて、顔面目掛けてぶん殴る。


 あぁ、全部全部――。


「殺してやる!」


 周りの目を気にすることもなく、ただひたすらに破壊を繰り返す。


「……叢雲の戦い方じゃないだろ、それはっ!」


 遠くから、女の声が聞こえるが、俺の耳には届かない。


 どこの誰か知らないが、これは我慢することじゃあない。


 思いの全てをさらけ出して、我慢せずに暴れまわることがすべきことだ。


「本当に君はそう考えているのか?」


 ずっとずっと近くから、俺に向かって声が聞こえてくる。


 だが、何処に見えはしない。


 叢雲の中にいるのは、俺だけのはずだ。


「……かーっ、これが叢雲の担い手か」

「あははは、まぁ仕方ないですって」


 一人じゃない、もっともっと多くの声が聞こえてくる。


 だけど、声に気を取られてはいけない、腕を振るい敵を切り裂いて行く。


「家壊されただけだ、死んだわけじゃねぇだろ」

「ま、あっしらとは別枠らしいですし、仕方ないんでは?」

「戦争してたやつらと同類扱いは、私はノーセンキュー」

「さすがに、それはマジウケル。結局皆選べてしまえたバカでしょ? アタシも含めてだけど」


 この声を俺は知っている気がする。だけど、こんな声の持ち主と、会ったこともなければ聞いたこともない。


 名前も知らない、顔も知らない、どんな奴かの情報も知らない。なのに確かに知っている。そんな存在を感じながらも、殺意にのまれていた俺に――。


「二代目、いったん体を借りるぞ」


 そんな男の声と共に、俺の意識が書き消えていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これほんとに龍牙本人のまっとうな感情ですかね? この前心の一部だけ怠けさせられてたから色眼鏡で見てしまいます。 コイツら誰だ――――?
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