為すべきこと、為したいこと
叢雲とノノウ、2機のスーパーロボットの活躍によって、天狗の里に平和は戻った。――などという都合がいい現実はありはしなかった。
結論から言えば天狗の里は二分された、迦楼羅の主導していた人間たちとの融和を図る勢力と、彼に反発する者たち。今までは内に抑えてきた反発する意思が表に出てしまった。
例えばだ、近所に住んでいる人が、とても恐ろしい企みをしていたとすれば、とてつもなく恐ろしく感じてしまうだろう。例えそれ以外の全てが、今まで通りの心優しい隣人だったとしてもだ。
彼らは知ってしまった、前の様に戻ることなどできはしない。時計の針を戻すように、世界の時間を巻き戻すことなど、できるはずがない。少なくとも、叢雲に搭載されている、かつて存在した転生者たちの中にも、そのような力を持つ者はいなかった。そして仮にできたとしても、それ相応の力を行使しなければならないだろう。
それこそ、これから先天狗の里全体でドデカイ殺し合いだってあり得るだろう。
……残念だが、天狗たちがこれからどうするかを決めるのは俺のするべきことではない。
彼らがどうするのかを決めるのは、それこそ彼らのするべきことだから。
「……まぁ、そもそも俺がどうこうする時間がないしなぁ」
「あぁ、ここにかかわっている間に、世界が滅ぶ可能性の方が高いだろう」
それぞれがすべきことがある。俺は戦う者であり、政治をする者ではない。
むやみやたらに手を出して、それこそ新たに不満をため込ませるのもよろしくはないし、俺たちのすべきことには優先順位がある。
すべきことはもう終わったのだ、そう考え俺と紫苑は天狗の里から黙って立ち去ろうとして――。
「……行くんだ?」
「あぁ、長居してもすることもないしさ」
八咫が一人、出迎えとばかりに待っていた。
どこか、思いつめたように見える表情は、まぁ理解できるものだった。
自分たちの指導者に、不満があったからと言って襲い掛かった。それはまぁ、よっぽどの悪政でも働いていたわけでもなければ、恥とでも言うべき光景だ。
革命、などと格好をつければそれらしく見えるかもしれないが、ただの暴力。品性のない暴れるだけの力では、何も変わらないし、周りからは危険視されるだけだ。
心の中で押さえつけていた不満が、無理やり暴走させられていただけ。しかし、そのような不満があって――。
「ちょーっとやられただけでああなった、格好悪いよね」
彼女がそう考えるのも、まぁ理解できない話じゃあない。
例えば、世界を救うために旅をしている奴が、急に女の尻を追っかけだして、適当な街に定住するなどと言いだせば、それはもうすこぶる格好悪い。
あぁ、俺はまちがいなく一歩間違えばそんな風になっていた……、というか片鱗が少し出ていたような気がしないでもない。
だからこそだ――。
「……格好悪くても、それでも前を向いて進めるんだろ?」
「……うん、そうかな」
「だったら、それはもう格好いいんじゃあないか?」
あぁ、格好悪くて、足は折れ地に倒れ伏したとしても、それでもなお立ち上がって、前を向いて歩けるってのは、それはもうすこぶる格好いいことではないか。
何度、それはもうコテンパンにされて格好悪く負けても、それでも何度でも立ち向かって逃げ出さない奴ってのは、普通に格好いいのだ。
ただただ一方的に勝利して、倒した奴を馬鹿にするような奴よりは、絶対に格好いいのだ。
「……悪いことをしたと後悔をしていて、これからより良くしたいと心の底から思っているんだったら。それはもう普通に格好いいことなんだよ」
「まったく、軽いノリで適当なことを言うんじゃあない」
鼻で笑いながらも、何処か楽しげに笑う紫苑に、軽く頭を叩かれつつも、この距離感が心地いいのだと、俺はそう感じていた。
世界一の英雄何て肩書は必要ないし、かわいこちゃんにモテモテになる必要も無い。当然デカい銅像何ていらないし、金持ちになる必要もありはしない。
俺は俺として、したいことで、すべきことを為したいだけだ。
「……だが、龍牙の言うことには、私も同感だ」
「一度間違えたから、それはもう未来永劫許されるべきではない、なんて意見は暴論だし?」
「当人同士が許しあえるのなら、外から何と言われても許してしまえる方がいい」
「少なくとも、その方が許す側は器もデカい、すごい奴に見えるからな」
とは言えもちろん限度はあるが、まぁたった一人で何度裏切られても制圧できます。なーんて言いだせる強さを持っていたなら、何度だって許すこともできるだろう。
それだけで力の証明になるのだから、意外とそう言うのは有りなのかもしれない。もちろん甘い奴として馬鹿にされるし、何度も何度も騙される可能性もあるが、俺は甘い奴で、だますよりも騙される奴の方が好きだ。
「……はぁ、迦楼羅様はそう言う妖だしなぁ、勝てないわけだ。これからも鍛えてもらわないとなぁ」
「……ん、いや一応不意打ちとはいえ勝ったんじゃ――」
「迦楼羅様、普通にピンピンしてるよ?」
「……心臓を貫かれたのではないのか!?」
「いや、心臓を動かして、位置をずらして回避したんだよ」
何を言ってるんだこいつは。まるで当たり前のことのように八咫が語っているが。アレか? 超上級ともなると、そこまでハチャメチャなことが普通にできるようなことになるのか?
人間ではないというのは、重々承知していたが、ここまで常識が違うのは想定していなかった。
雪花や羅刹も、さらっとこういうことを言いだしそうで末恐ろしい。
「……まぁ、どうするかは任せるけど、しっかりと力じゃなくて、言葉で問題を解決するんだぜ?」
「力を振るうのは、それしか手段がないときだけでいい」
俺と紫苑は、ただただそう告げて2人で出発した。
「ありがと、英雄さん」
声をかき消すように風が強く吹いた、そんな気がした。
――もちろん俺の耳には届いていたが。
樹海の中をただ黙々と歩いていく。
「なぁ、まだ出れないのか?」
「……龍牙、すまない」
紫苑がそう呟いて、それはもう物凄く申し訳なさそうにこちらを見てくる。
何がすまないのだろうか? ものすごく嫌な予感がしたのだが、さすがにそれはないだろうと、俺は頭の中で無理やり納得させる。
そうだ、大丈夫だ、絶対大丈夫。……まさか道に迷ったとかそう言うことを言わないはずだ。
「道に迷って樹海から脱出できる状態ではない」
……まさかだったよ、このお姉さん。くっそ深刻そうな顔で、道に迷ったって言いやがったよ。
そして当然だけど、俺も道に迷ってるんだよ、というかなんなら天狗の里から出た段階で地理を把握してないんだよ! 入る時気絶してたもんね!! 仕方ないね!!
「……どうする? いやマジで」
「……むぅ、転移の術も飛べる場所が近くにないからなぁ……」
あぁ、これはもう仕方がない、この手段はとりたくなかったがやるしかないだろう。
決心した俺は、天高く右手をかざす。樹海で迷うのは、何処に何があるのかもよく分からないし、似たような景色が続くからだ。
ならば――。
「絡繰武勝! いざ出陣!!」
天高くそびえる、鋼の武者こと叢雲を呼び出し、さっそうと乗り込んで見せる。
高所からなら町なんかも見つけやすいし、ずっと同じ方向に進んでいけば、最悪樹海からは脱出できるだろう。
行くぞ叢雲、道に迷ったときはいつでもお前の出番だ!
「……これはまた、笑えない使い方だな」
紫苑が苦笑いを浮かべながらも、叢雲の手に乗り、指につかまる。
あぁ、俺たちは進むんだ、行き当たりばったりだとしても、困難しかない道だとしても。世界が平和になることを信じて、立ち上がる。
それが俺の――。
「叢雲と生きるってことさ」
次回予告
紫苑のためのスーパーロボット、絡繰忍勝ノノウの誕生で俺たちはすこぶるパワーアップ!!
とは言え妖の方も厄介な策を取るようで……、どうやら奴ら空を飛ぶマシンで襲い掛かってくるんだとか!!
俺たちの力を結集しても、頭を押さえられちゃ勝ち目がないぜ!?
こうなったら、叢雲とノノウの真の力を発揮する時だ!! ってなんだよそれは!?
こうなったら一か八かの、最終作戦! やれるだけやってやるぜっ!!
次回! 絡繰武勝叢雲
「完成! 超越絡繰武勝天叢雲!!」
やっぱり合体はロマンだよな!!




