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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第5話 疾風忍者ノノウ現る!
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絡繰忍勝、いざ参る!

 法螺貝が鳴り響けば、突如として全長30mはあろうという、障子が突如として出現する。


 まるで、そこから何かが現れるために――。いや、確かにその障子の向こうに何かの影が現れる。


「人に隠れ、世に隠れ、影と共に舞い踊れ」


 高らかに口上を始めれば、まるでその場の雰囲気を支配するかのように、紫苑の声が世界に轟く。


「何が出てくるのか知らないが――」


 差吊苦の操る妖獣機が、障子に向かって突撃を開始する。何が現れるのか分からないからこそ、出てくる前に破壊することを選択する。


 叢雲という脅威が存在したからこそ、彼の判断は正解だったといえる。かつて初代将軍が操った時には、たった一人で妖の異常発生を止めることを成し遂げた。


 人間の巨大兵器とは一つ現れるだけで、戦場をひっくり返すもの。それが差吊苦の認識だったのだろう。


 あぁ、それは正解だ。スーパーロボットとは、ただ一つで戦略兵器としての側面を持つ代物。少なくとも俺は、"覚えていないはずの記憶"がそう告げているのを知っている。


 だから、スーパーロボットが何かをする前に、それこそ出撃する前に破壊しようというのは、実に合理的で、正しい選択なのだろう。


「死ねぃっ!!」


 妖獣機が放った銃弾が、障子に穴を開けた。それと共に、ごうごうと炎上していく。


「テメェは焼殺だぁっ!!」


 全てを焼き払い抹殺せんとばかりに、燃え上がり煙が上がっていく。


 あぁ、全て、全てが燃えていき、そこにいたはずの機械の巨人が、紫苑が焼けて――。




 煙がはずれ、と形を変えて文字となる。


「なにっ!?」


 差吊苦の困惑の声と共に、障子も炎も全てまとめて、どろんと煙とともに消えていく。


「これより出でるは、この時代にて新たに始まる伝説!!」


 それと共に、彼方に現れる巨大なる人影。


 その姿はまさしく忍。腕組みしつつギラリとにらみつける姿は実にクール。


「絡繰忍勝ノノウ! ここに推参!!」


 紫黒のボディは闇夜に紛れるであろう、隠密能力の高さがうかがえる。


 あぁ、そうだこれこそ、紫苑のために作り上げられた、叢雲の仲間、絡繰忍勝ノノウ!


「だったら、俺もっ!」


 竜巻によって浮かされていたのを、逆にそれを利用して跳躍する。


「風林火山! 侵掠すること火の如く!!」


 重火器としての運用を行う、火の形態変化し構えれば、狙いをつけずにひたすらに引き金を引き続ける。奴のスピードは理解している、狙って打っても当たらないのならば弾をばらまくのが正解だ。


「ちぃ、当たらない攻撃をするんじゃあないっ!!」


 それに対して、差吊苦の怒りの導火線に火をつけたようで、荒々しい叫びと共に、視線がこちらに向けられる。


 あぁ、そうだそれでいい。こちらを向け、差吊苦。


「よそ見厳禁だな」


 紫苑の、ノノウの刃が隙だらけの差吊苦を切り裂いて行く。それに気が付いても、対応する前に距離を取る。そして生じた隙を見逃さずに、俺が弾丸を叩きこむ。


 2人で1人を攻撃するのは卑怯だ? 確かにそうかもしれない、それは格好悪いのかもしれない。だけれどもだ、そもそも勝たねばいけないのが俺たちだ。敗北だけは許されない、決して折れることなく立ち上がり、立ち向かい続けなければならない。


 ならば卑怯もラッキョウもあるものか。格好つけなければ、俺は戦えない臆病者かもしれないが、それでも勝つことを優先しなければならないだろう。




「くそっ、電撃殺っ!!」


 こちらのやり方にも気が付いたようで、差吊苦が選択した攻撃手段は、広範囲への無差別攻撃。四方八方に、すさまじい高圧電流が、バチバチと音を立てて襲い掛かってくる。


 恐らく、機体に乗り込んでいる俺と紫苑も、直撃を受ければ体を焼かれるだろう。そしてそもそも、電撃など見てから避けられる攻撃ではないことは、どんなバカでもすぐに分かることだ。


 直感的な回避、次にどこに来るであろうかと予測することでのみ対処できる。


 ……うん、どろんどろんと直撃をくらえば煙となって消えるを繰り返している、ノノウというか、紫苑の忍術が何かおかしい気がするが気にしない様にしよう。


 アレは俺には真似できないし、できたとしてもできるようにするための努力が足りない――まぁ、そもそもする気はないのだが――のでどうしようもない。しかしながら、一発一発が即死、とまではいかなくとも、致命打となりかねない攻撃の雨あられ。ならばそれをどうにかして回避するか、軽減する必要がある。そして、回避し続けるのは現実的ではないだろう、なにせ電撃だ。ほぼ光の速さで飛んでくる攻撃を、見てから避けられるというのはちょっと真面目に、人間をやめているにもほどがあると考えていいだろう。


 つまり、軽減する方法を考え――。


「これならいけるかっ!! 原子作成! 金属操作!!」


 存在しない原子を空気中に無理やり作成する。なんともふざけた最上位クラスの、理不尽染みた転生特典。叢雲の中に存在したそれを、無理やり発動すれば、銀を生成。そのまま金属操作のスキルを使用して、無数の銀の塔を制作していく。見た目も雑な、それこそ子供の粘土細工のような、不出来な代物が無数生成されて行く。


「何がしたい、叢雲ぉ!!」


 それを意にも介さず、奴の放つ電撃が四方八方に飛んでいく。


 正直なところ、俺も原子作成のスキルなど使いたくはなかった。


 数少ない記憶の中にある例で言えば、ゲームで強い技を使えば、その分何らかのコストを支払う量も増えていく法則がある。少なくとも叢雲の中に搭載されている、かつての転生者たちのソレは、ほぼ間違いなくその法則に従っていた。それも、うまく使えば強い、ではなくどう考えても強い、といったスキルであればそれだけ増大していった。


 俺の疲労感が。


 これがバカにはならない、疲れは判断ミスを誘発し、戦闘ではそのミス一つで死すらも引き起こしかねない。


 そんな、大きなリスクを背負って創り出した、不出来な銀の塔。


 差吊苦はそれを無視して、俺に向かって電撃を放って――。


「なにっ!?」

「よし、成功っ!」


 その全てが銀の塔へと飛んでいった。


 結論から言えば、即席の避雷針の作成である。


 電撃の全てが避雷針に飛ぶわけではないものの、それでもある程度の軽減には成功している。電気は、電気を通しやすいモノの方へ進もうとしていく。そして最も電気を通す金属こそが銀なのだ。


 おそらく差吊苦は、電気そのものは素人。故に想定外の事態に動きが止まり――。


「よくやった、龍牙!!」


 紫苑のお褒めの言葉と共に、ノノウが四方八方からの攻撃を開始する。手裏剣が飛べば妖獣機の装甲に傷をつけ、投げられたマキビシは、一つ一つが高出力の爆弾と化している。明確な対人外兵装、それは叢雲のようなロボット兵器にも対応するためのソレであった。


「ちぃっ!?」

「紫苑、いや疾風忍者ノノウっ!!今日はお前に任せるぜ」


 そう告げると共に、俺は差吊苦の機体に向かって、叢雲を突撃させ――。


「でぇいっ!! 隙はこっちで無理やり作るっ!!」


 思いっきりぶん殴ってやる。殴る、蹴る、掴んで投げ飛ばす。


 差吊苦は強大な力を有する格上だが、こういったロボットに乗り込んで戦う戦い方においては、俺の方が経験はある。


 正直なところ、原子作成のスキルでここまで疲労するとは思っていなかった。もう死んでも使わない、絶対に俺にとってろくなことにならない。結論から言えば、叢雲の最大火力を誇る天下抜倒剣を引き抜くことすらできそうにない。なんなら、風林火山の形態変化も行える気がしない、叢雲の大半が搭乗者の気力とかそう言うので駆動している、そんな気がしてくるほどに、叢雲も自由に動かせない。


「あぁ、任されたっ!!」


 だからこそ、紫苑にすべてを任せるしかない。なんとも格好のつかない話だが、それでもこれしかないのだ。


 彼女は俺よりも強いし、俺よりも戦い方も知っている。


「魔倒剣!」


 ならば、彼女が断ち切ると決めた相手は――。


「電光影裏っ!!」


 間違いなく断ち切るのだ。


 ずんばらりと一刀両断された敵の機体、あぁこれで倒したのだと、俺はそう感じ――。


「くそっ、そこまで考えていたか」

「うわ、マジか」


 奴の機体があった場所から、バシュッ! と何かが飛んでいくのが視界に入る。あぁ、間違いない緊急脱出装置とでも言うべきソレで差吊苦が逃げたのだ。


「覚えてやがれっ!!」


 などともはや一周回って珍しいとすら感じる、ありきたりな捨て台詞と共に逃げていく奴の姿を、ただただ見送りながらも。俺たちは一応の勝利を手にしたことに、笑みを浮かべ――。


「後は任せるぞ」


 と、紫苑が意識を失ったのを感じ取る。あぁ、やっぱり初戦はキツイよなぁ、なんて考えながらも、俺も意識を失っていくことを、自分のことながら他人事のように感じ受け入れた。

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