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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第4話 ヒウガのビーチで水着大会!?
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荒れ狂う海

 紫苑と雪花のやる気は完璧、それこそどこまでも無双する英傑が如く。


 と言えば大げさに聞こえるかもしれないが、残る最終種目まで圧倒的な力を発揮していった。


 第2種目では、叢雲の砂像を作り上げ最優秀賞を獲得。第3種目はかき氷の早食いで、これもまたトップの成績。


 残る最終種目まで、二人が勝ち進んだのである。




「さぁ、いよいよ最後に残った面々を、皆様の前にご紹介いたしましょう!!」


 司会者の言葉と共に、数人の女性たちが顔を出していく。


 未目麗しい女性たち、はっきりと言って以前の俺だったなら間違いなく心奪われ、鼻の下を伸ばしていたことだろう。なんなら鼻血を吹き出して倒れる位はしていたかもしれない。


 そして当然その中には――。


「続いては、これまでの種目でぶっちぎりの活躍を見せてきた2人!!」


 俺の仲間がそこにいた。


「影となりて世に忍ぶ彼女、しかしその美貌は隠せない!! 紫苑っ!!」


 その美貌は余の男どもを見事に虜にしていったのだろう、これぞまさしくクールビューティー。なーんて俺なら言ってしまいたくなるほどだ。


 ……ただなぁ、あいつ……人間か疑わしいスペックしてるんだよなぁ。


 雪花の海面走りは、一応海面を凍らせることで、足場を形成しているから納得できる。紫苑の海面走りは、足が沈む前にあげればいいとか、なんかそういうバカみたいな話っぽいんだよなぁ。


 なんて、それこそ紫苑の外見ではなく、内面の評価をしていれば、当然もう一人の紹介も始まっていた。


「凍てつく冷気に暖かい心!! 雪花!」


 彼女は彼女で、それこそ初めて会った時と比べて、それほど時間が経過したわけでもないのに、雰囲気が大きく変わった気がする。


 どこか、そう柔らかくなったとでも言った方がいいだろうか?


 俺たちと出会った時、彼女は頼るだけだった。それが今では、俺たちが頼る側になっている。


 たった少しの出来事で、生き物というのは容易く成長し、変化していくのだ。


 ……俺もちゃんと成長しないとな。




「そして、最後は――」


 俺の決心の言葉と共に、最後の一人の――。


「っ、伏せろっ!!」


 名は呼ばれることもなく――。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


 会場が悲鳴で支配された。


 最悪の事態を引き起こした権化は――。


「中級妖、しかもッ!!」


 海上だ、海の上に奴はいた。


 その姿はまるで蜘蛛の様、しかし頭は猛牛と鬼を足したようなおどろおどろしい姿をしていた。


 サイズはパっと見て40m前後といったところ、上級ではない故にどうにかなると思いたいものの――。


「海の上となるとな」


 俺が叢雲に乗り込んで、実際に戦ったことがある経験は、片手で足りる回数しか存在しない。


 それは紫苑による、幻術を利用した訓練であっても、両手の指で足りてしまう。


 そしてその全てで戦いは、陸の上でしかしていない。理由はただ一つ。


「叢雲は、陸戦兵器だ」


 現実の問題として、叢雲は陸戦のみを想定した戦力である。


 戦車を海で利用するなんてしないし、騎馬隊で空を飛ぼうなんてのはペガサスでも連れてこいという話だ。


 逆立ちしてもできないモノはできない。


「だとしてもだよなっ!」


 だが、それが立ち向かわない理由にはならない。


 できないというのが、諦める理由にはなりえない。


「絡繰武勝! いざ出陣!!」


 俺の言葉と共に、砂の中から巨大な頭が――。


「あれはっ!」


 両腕が――。


「なんだ、なんだっ!?」


 人々の驚く声が聞こえる、ならばいつも通りやらねばならないだろう!!




「寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! だけど危ないからちゃんと避難はしてねっ!」


 叢雲の中に俺が吸い込まれてく。一心同体となった、俺と叢雲は迫る妖をじろりと睨みつけ、構えを取る。


 無論今回は周囲に人が多いので、しっかりと避難誘導をした上での話だが。


「今この地に現れ()でたのは!!」


 正直なところ、この戦いは前回の上級妖……、しかも差吊苦が操る奴以上に恐ろしい。


 なにせ、今度の戦いは――。


「初代大将軍、織川光喜様の時代より伝わりし、伝説の巨大絡繰!!」


 叢雲にとって、明確なアウェー。道具も使わずに、鳥に空で戦いを挑むようなものだ。


「その名も名高き! 絡繰武勝叢雲!!」


 だとても勝たねばならない、俺たちには――。


「貴様ら妖どもの、特に水着美女を恐怖のズンドコに陥れた罪で、今ここで叩き切ってくれる!!」


 負けられない戦いしかないのだから。


「叢雲! ズンドコではなくどん底だっ!!」


 紫苑のツッコミと共に、周囲の人々も笑いを漏らしていく。


 そうだそれでいい、たとえ道化となろうとも、皆が笑える世界が一番最高だ。


 だから、その笑顔を奪う奴らが許せないのさ!!




 と、格好をつけたところで――。


「ちぃっ、体が重い」


 当然のことながら、俺の水中での戦い方が上手くなるわけでもなければ、海が干上がるわけでもない。


 そしてもっと当たり前の話だが、叢雲は海での戦いが苦手という弱点は、当然変わるわけがない。


「風林火山! 動かざること山の如し!!」


 故にこちらが選択したのは、人々が避難をする時間を稼ぐこと。


 風林火山の形態が一つ、山の大盾によって迫る攻撃を防ごうという訳である。


 意図を理解していないのか、それとも理解したうえで問題他ないと判断したのかはさておき、まるで暴走する列車が如きスピードで、こちらに向かって妖が突撃を開始する。


「つッ!!」


 本来だったならば、どうにかして抑え込むことができただろう。


 しかし、今回は違う。今俺が戦っている場所は海辺、より正確に言えば砂浜だ。


 それはつまり、いつもの土の大地と違った立ち回りが要求される。


 などという、当たり前のことを俺は忘れていたらしい。


 奴のパワーも噛み合ってか、大地を強く踏みしめることができず、態勢が崩されマウントポジションが奪われてしまう。


 立ち上がることを許さないとばかりに、胴体で押さえつけらる。後は煮るも焼くも自由自在。


 手始めにと8本の足で、ひたすらに殴りつけ始める。強固な叢雲の装甲は、この程度ではびくともしないとはいえ、衝撃を止めることはできはしない。


「がぁぁぁっ!?」


 つまるところ、揺れる。


 それは搭乗者である俺へのダメージが加速し、叢雲はともかく、俺がノックアウトされての敗北を意味する。


 何か対抗手段はないモノか、模索を開始してもいい手段を思いつく前に、まともに考えることすら困難な状態をぶつけられる。


 どうにかしなければならないが、どうにかする術を見いだせない。


 そんな時だ――。


「龍牙、奴は牛鬼だ!」


 紫苑が、奴の正体を察知したようで、俺にその情報を伝えてくれる。


 とは言え、別段妖怪図鑑を楽しんで読んでいたような、オカルト好きなちびっ子だったわけでもないし。各地の言い伝えなどをまとめる民俗学者だったわけでもない。


 結論から言えば言われても分からない。


「あまりにも情報が錯綜している故、こちらもどれがどうだか分からないが、下手な倒し方をすれば――」


 ちょっと待ってくれ、情報が錯綜しているってどういうことだ。もしかしなくても、別種の妖も牛鬼を名乗っているとかそういうパターンか?


 などと疑問が頭を悩ませていれば――。


「かつて確認された情報によれば、牛鬼を殺した者は牛鬼になると言われている!!」


 最悪な情報が飛び込んできた。


 俺はともかく、人類の希望たる叢雲が、あんなよーく分からんとんでもない化け物になってしまうというのは、あってはならないことだ。


「くっ、どうすればならずに倒せる!?」


 だからこそ、俺は紫苑に問いかけて――。


「知らん!」


 最悪の返答が返ってきた。俺にどうしろというのだ!?


 ただ分かるのは、それこそ現状が最低最悪の詰みで、だとしても俺はそれを打開しなければならないという事実だけだ。


 ……それが俺に求められる役割で、俺がやりたいと望む在り方だ。しかし、最初は押し付けられた役割だが、それでも今やりたいことを貫くのは、難しいモノなのだろう。


 だからこそ、やりたいことだから、どうにかしてやろうじゃないか。

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[一言] 援軍に鬼太郎が欲しい! あーどのパターンで倒すのかなー?
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