目覚める妖獣機
「……無様、とは言い切れませんが――」
「煩いっ!」
全身ズタボロの状態で帰還した彼を見て、荒れているなと感じてしまった。
都合よく利用できそうだと感じてしまった。これは私の種族としての本能なのでしょう。
「……えぇ、大事なのは人間側が我らの探すものを見つけてしまったこと」
「意味は分かっていないんだろうがな」
……だからこそ、それこそ漬物石にでもされている可能性もないとは言い切れないのですよね。
「それと、まぁ仕方ありませんよ……、大蛇は本来の8分の1の強さしかもっていなかった」
「というかぁ、なんならそれ以下よぉ」
我ら以前に存在した、超上級妖八岐大蛇。第一次人妖大戦において、妖側の最上位戦力の一つだった彼ですが、人側の切札である叢雲によって叩き斬られた。
此度差吊苦が、融合することで強化した大蛇は、その八岐大蛇の切れ端が再生しようとしていたもの。
8つの頭と8本の尾を持つ八岐大蛇の8分の1、1つの頭と1本の尾。70mという巨体は確かに優れていると言いたいところですが――。
「大きさで言えば、本来の100分の1にも満たない矮小な状態……力の大半を失っている状態ですから」
「縛りプレイにもほどがあるわねぇ」
故に、以下に操り手が有能であっても、まるで勝ち目がないといっても過言はないでしょう。
格闘ゲームで言えば、キャラランク最低のどうしようもないキャラで、環境を支配している最強キャラに挑むようなもの。負けて当たり前の話でしかない。
「……とは言え、我々は体躯の差でどうしても無理をしなければならない」
「……わざわざそんな風に言うということは、できたのか?」
荒れているように見えた彼の表情が、笑みを浮かべ始める。あぁ、これはいけません、実にいけませんねぇ。
「……もちろんですよ、敢えて対等の方がいいのでしょう?」
「あぁ、それでいい」
その言葉と共に、私たちの視界には人型の巨大な鋼の巨人が現れる。
両肩には大砲が目立ちますが、全身それこそ武装の塊。言うなれば人類がこれから歩むであろう、戦争の歴史を一つに凝縮した、殺しの化身。
人を神にも悪魔にもする力が叢雲だとするのならば、これは妖が神も悪魔も全てを無に帰す力。
一目見るだけで魂を焼き尽くす破壊の権化だ。
我々3人の超上級は、その名こそが在り方を示す。
差吊苦の名は、即ち殺戮を求めるということ。しかしながら、その中で彼には一つの縛りが成立した。
我々が上級を超えた存在であるにもかかわらず、人間と体が同じ大きさというのには、それぞれ異なる理由が存在する。
汰異堕や私のソレは、その方が都合がよく、したいようにできるから。
では差吊苦のソレはなんなのか?
かつて一度聞いたことがある、結論はただ一つ。「勝てて当たり前なのだから、せめて体格だけは対等にでもしてやらなければ、楽しみが減る」という、娯楽性の高いモノ。
だからこそだ、彼はサイズだけでも対等でなければならないと考える。
「全長30mの、それこそ中級妖のサイズの妖工的に作り出された、獣のように柔軟に動く鋼の戦士」
故に私はこれを作り出した、彼が望む在り方を再現するために、人の希望と互角の体を与えた。
「その名をタケハヤ、叢雲と同じ大きさでありながら、差吊苦の力を引き出し振るうことができる画期的な代物です」
ここに嘘はない、私と汰異堕のモノも開発を行っており、性能で言えば確認している叢雲のモノよりもはるかに上だろう。
動力源は我々自身、人ならざる妖ゆえに限界をはるかに超越した力を、自由自在に振るうことができる。
それも人間のサイズの我々ができることが、30mにまで巨大化したのと同じ、それ相応の範囲のスケールアップが行われる。
即ち、彼にとってのこれは広範囲殺戮兵器とでも言うべき代物。人間に向かって使うことは、叢雲との戦いに巻き込む形でもない限り、彼の性格上ないとは思いますが――実際に行えばたった1日で、この国を焦土にできるということを踏まえて――自分でも恐ろしいモノを作ってしまいました。
「……まぁ、面白いモノだな?」
おそらく彼はここから、さらに求めているものがあるのでしょう。この兵器がどのような殺戮を生み出すのかの説明を。
「えぇ、これのために私は海を越えていろいろとみてきましたから」
「妖脈を形成するのがメインだろうが」
まぁ、差吊苦の言う通りではあります。他国に住む彼らと仲良くしておけば、後々役に立つ何かが発生するかもしれませんし。
ですが――。
「何か問題がありますか?」
「まぁ、ないか」
そう、問題はありません。他国の妖は敵ではないのですから、仲良くしても問題はありません。それこそ、喧嘩を売って仲を悪くする必要も無いのです。
であるならば、それこそ何か利用できる手段は多い方がいい。使いこなせなければ、手札が多いのは考える時間を増やすだけですが、使いこなせるのならば手札は多い方がいいのは当たり前の話なのですから。
「さて、ではこのタケハヤですが……、武装の方は多種多様。それこそ貴方がお望みの全てを成し遂げられると誓いましょう」
にやりと笑いながらも、彼の持つ殺すために何でも行える力を、十二分に引き出せるものを作ったのですから。
「殴殺、撲殺、刺殺、斬殺、焼殺、毒殺、溶殺、凍殺、爆殺、絞殺、電撃殺、エトセトラエトセトラ……、殺し方に不可能はないと誓いましょう」
神が与えた、チート能力等とは格が違う。水がかけらもない場所で溺死をさせてあげましょう。縛るものがないのに絞殺をさせてあげましょう、ただただやりたいように、殺戮の限りを尽くすことができるのが、この暴れるための超兵器ことタケハヤなのです。
「……へぇ、実にいいじゃあないか」
私の言葉にどこか満足そうに語る彼、しかしながら彼の言葉に対して私は、それこそ買ってもらったばかりの玩具を取り上げる親のように振る舞わねばなりません。
「ですが、この機体は万全ではありません」
「おい、ここまで良いように言っておいて、それは無しだろ?」
彼の言葉はごもっとも、しかしながら何も言わなければ彼はこのまま突っ走って……、やらかして死ぬでしょう。
「車に乗るのに、免許が必要で、免許を取るには試験をしなければならないように、貴方もこのタケハヤを使うのに訓練をしなければなりません」
「あ゛?」
そりゃまぁ、私の言葉を直接聞けば、完全にお前の実力不足だと告げているようなものでしょう。ですが、それはそれこれはこれ――。
「では、何も考えずに乗り込んで、ボタン適当にポチポチした結果自爆ボタンを押さない自信がありますか?」
「待て、そんなものを仕込んでいるのか!?」
軽く冷や汗を垂らしながら、彼はそう問いかける。何も考えずに乗り込んで、何も考えずに戦闘を始めようとしたら自爆して死にました、なんて言うのは笑い話にすらなりはしない。精々、もう少しリアリティを出してくれ、と言われるのが関の山でしょう。
「はい、127通りの自爆方法を用意しています」
「その努力をもっと別の所に活かせないのか!?」
絶対にどのような環境で、どのような状況であったとしても、確実に自爆できるようにと考えて配慮した結果、こうなってしまいました。
負けそうになって、どうやっても勝ち目が見えなくなれば、彼は間違いなく自爆するでしょう。それを考えればこの位のことはして当然だったと言えます。
「ははははっ、まぁ考えておきましょう」
私と汰異堕の分はですけれど。
私も彼女も、差吊苦が自爆するであろう状況になれば、迷わず逃げるタイプです。それはもう全力で、生き恥を晒してでも逃げるタイプですから、まぁつける必要がないということですね。
「まぁ、そう言うわけで訓練をして、問題ないと判断してから使ってください」
「だったら、アレ探しはどうすんだよ」
「一つ持っていかれましたが、まぁいいでしょう。汰異堕さん、任せてもいいですか?」
私と差吊苦の会話を、話半分に離れた場所で聞いていた彼女に向かってそう問いかける。
私が差吊苦の状態を確認するためにも、彼の訓練に付き添う必要があります。そう言うわけで、自動的に彼女に白羽の矢が立ったという訳です。
「え、いやぁ、面倒くさいんだけどぉ?」
「はい、じゃあ好きにやっていいので頑張ってください」
「無視ぃ!?」
残念ながら彼女に拒否権はありません、なにせ行えるのが彼女しかいませんから。
「まぁ、あれです……、応援してますから」
「おーおー、応援しててやるよ」
と、まるでやる気がないような――実際私はやる気がない――声色で、彼女に声援を送れば――。
「……薄情者ぉ」
そう告げて、ひとりとぼとぼと向かっていってくれました。怠惰ではあっても、やらないわけではないのが、彼女のいいところです。
「さぁ、それでは……殺しの道具を使いこなせるようになりましょうか」
「あぁ、叢雲を殺すのは俺だからな」
その言い用では、汰異堕が失敗するかのような言い草ですが……。まぁ、いいでしょう。
次回予告
上級妖をぶっ飛ばした俺と叢雲! これでさらにパワーアップ! と喜んでいたのも束の間。
俺が手に入れた宝玉と似たようなものが、なんと別の場所でも見つかったなんて報告が!?
よし、今度もまた俺が手に入れてやるぜ! と覚悟を決めたけれども、なんとそこで開かれていた大会の賞品!?
しかも、水着美女コンテストっ!? これじゃあ俺が何をしたって勝ち目がないじゃあないか?!
頼むぜ、紫苑! 雪花! 二人の力を借りなきゃこいつは手に入りそうにないぜ!
次回! 絡繰武勝叢雲
「ヒウガのビーチで水着大会!?」
ポロリはないが、コロリといくなよ!




