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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第3話 叢雲の謎と、妖の探すもの
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探すモノは何?

「そう言えば俺は何を流せばいいんだ?」


 初代将軍織川光喜すらも探し出せなかった代物、俺はそれを探しに一人で行動を開始したわけだ。


 ――が、そもそも俺はそれが何なのか知らない。どんな形で、どんな色で、どれくらいの大きさなのかも知らない。ついでに言えば名前も知らない、誰も知らない。


「……まぁ、いいだろう。俺は住んでいた村で探し物の達人リョウちゃんの異名を持っていたからな」


 自分に言い聞かせるように、俺はそう口にする。正直なところ、こんな姿を誰かに見られるのは恥ずかしいから、一人で探しているという現状はありがたかった。


「へぇ、そうなんだぁ?」


 ……別に現状、俺は一人ではなかったらしい。そして俺はこの少年の声を知っている。


 あぁ、つい先日あったばかりだ、実に嫌な経験をしている。


「その声は――」


 声の方に振り向きながら、腰に下げた刀を抜刀する。残念ながら居合なんてものの鍛錬は、まだまだしていないし、できもしないことをやるよりも、最初から構えているほうがいいだろう。もし万が一、俺の想定でなかったら土下座でも何でもして、謝ればいいのだから。


 視線の先にいたのは漆黒の、それこそこの国のモノではない衣服をまとった若々しい、忌々しい話だが顔の整った少年。


「超上級妖差吊苦(さつりく)!!」

「大正解」


 正真正銘の最悪。死を覚悟するとは言ったが、そもそも出オチにもほどがある。さすがに家から出て30分も経たずに、それこそいるのが分かってた大蛇ならともかく、こいつは無しだろう?


 小学校に入学したばかりの子どもに、難関大学の入試をさせるような、完全に無茶にもほどがある。叢雲もなしに中級以上に対処などできるはずもない。


 だというのに、今叢雲は整備中。使えないのだ。


「はははっ、ビビったな? 怯えているな? 恐怖したな?」


 ニタニタと笑いながら、俺を煽るように声をかけてくる。実際そうなのだからどうしようもないが、しかし――。


「お前ズボンのジッパー下りてんぞ」

「なにっ!?」


 言われっぱなしは癪に障るので、適当なことを言って逃げてやる。


 あたふたと慌てる姿は滑稽で、いい感じに時間が稼げることを期待したい、がまぁ無理だろう。


 まぁ、どうしてかと言えば――。


「てめぇ、俺のにジッパーなんてねぇよ!!」

「だはははははっ、テメェの着てる服の話なんだからすぐに気が付け間抜けっ!!」


 そういうことだ、無いモノが下りることなどありはしない。


 しかし、いい感じにこいつがバカだという確信が持てた。紫苑から聞かされていたが、本当に馬鹿だ。


 ひとまず、奴の魔の手から逃げるために全力で俺は走り出した。




「殺すっ!」


 そして異様に身体スペックが高い、一瞬で距離を詰めてきた。


「ははははっ、そういうのは殺すじゃなくて、殺したって言うんだぜ!!」


 俺は命の危険となると、逆にぺらぺらと口が回るタイプだったらしい。そしてそれ以上に――。


「そらよっ!」


 体もよく動くようになるらしい。


 こちらに向かって振り下ろされた、差吊苦の腕を迎え撃つように、刀を振るい直撃させ――。


「折れたぁ!? お、折れたぁ!?」

「ただの刀が超上級に通用すると思ったかまぬけっ!!」


 意図も容易くへし折れた。多分だが、俺がものすごく強かったとしてもこの結果は変わらなかっただろう。それはもう悲しい現実として、強度が足りなかった。


「くそったれっ!! テメェ何があってここにいるんだよっ!!」


 走れ、足を動かせ、止まるな死ぬぞ。


「なに、お前と同じさ……探し物だよ。雪女どもが失敗してすぐここに来た」


 くそ、どれだけいるんだ、こいつは――。


 まて、ずっと探しているのか?


「休戦協定を申し上げたい!!」


 と高らかに宣言して見せる、それで止まってくれるのならばそれで良し、そうでないのなら……、まぁ死ぬだけだ。


「ほう、わざわざそんなことを言うというなら、それだけ俺に利があるんだろうな?」


 どうやら俺の提案について、聞くだけは聞いてくれるらしい。なんともありがたい話なわけだが、じーっとこちらを値踏みする顔は、明らかに殺意にあふれている。


 つまりだ、全力で言いくるめなければ俺は死ぬ。


「その前に一つ聞きたい。かなり長い間、お前はその探し物を見つけられていない、それは事実だな?」


 これが、実はずーっとさぼってました、とかになると話が変わってくる。だから聞かねばならないわけで。


「ったく、それがどうした」


 否定していない、つまり見つけられていない!


「俺が探すのを手伝ってやる」

「……は?」

「探し物を探してやると言っている」


 さて、命の危機だというのに上から目線のような言い方をしているのには実は理由がある。


「ほぉ、立場が分かってないのか?」

「分かっていないのは貴様だ、もし万が一……、お前の探しているものを持っているとしたらどうする?」

「なんだとっ!?」


 当たり前の話だが持ってるわけないし、そもそもこいつが探しているものが何なのかも知らない。


 俺は適当なことを言っているだけだ――。


「適当言ってるんじゃ――」

「俺が嘘をついているという証拠がどこにある」

「っ!?」


 全力で自信満々に、ただただ語っていく。


 ちなみにだが俺は嘘はついていない、持っているとしたらどうするというただの質問である。だからまるで嘘をついている奴特有の反応も出ない。


 勝手に解釈した奴がバカだという話だ。


「あーあー、そう言うんだったら……、ぶっ壊しちまうかもなぁ」

「分かった、休戦だ、休戦してやる」


 ついでに言えばそもそもだ、持ってて交渉するなら渡してやるとか、そういう話になるに決まっているだろう。


 つまり、俺はこいつを全力で利用する。


「ひとまずだ、お前が探しているものってのを教えてくれないか?」


 見つけたら全力でぶっ壊してやる。


「アレだ」

「どれだよ」

「アレとしか俺たちも把握していない」


 あるぅえぇ? ものすっごいデジャヴを感じるんだが?


「……形は?」

「知らん」

「アレって正式名称?」

「違う」

「正式名称は?」

「知らん」


 だらだらと、汗が流れ出るのを感じ取る。別段俺は悪くないし、多分恐らくきっと、何もしなくてもこいつの探し物が見つかる可能性が――。


「色は?」

「知らん」

「大きさは?」

「知らん」


 ありはしないことぐらい、誰にだってすぐに分かることだった。


 自分も似たようなことしてることに気が付いて泣きたくなった。


「……まぁ、いい今までは2つの目しか使ってなかったが、これか4つの目になると見落とす確率が半分になるぞ」

「おおっ、それはまたデカい……、貴様の首を自分で絞めることになるが、まぁ、今助かりたいのだからなぁ」


 見つけたらヤバい物そうだな、見つけたらパクって逃げてやる。




 当たり前の話だが、そう簡単に見つかるものではないだろう。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、まだ見つからねぇのか」

「その言葉そっくり返してやるから、お前も真面目に探せ」


 だから、まぁ俺も自分の探しているものを探しているだけだ。


「まあ、どっちにしても……、俺もお前も時間がかかるのは前提とする、いいな?」

「分かっている」


 一歩間違えば殺されるかもしれない、そんな状態で生き続けるというのも一つの鍛錬になるかもしれない。俺はそう考えつつ、早く見つからないかと、そう頭を抱えていた。


 もしくは叢雲の整備が早く終わるでもいい、できるだけこの状況から解放されたい。何日かかるか分からないが、それでも俺はこの状況が最悪の形で終わらない事だけを祈り、ただただ歩き続けた。


 苦難の道を歩まねば生きる未来がない、生きる価値がないというのであれば。この程度歩めなくて何だというのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「……まぁ、いいだろう。俺は住んでいた村で探し物の達人リョウちゃんの異名を持っていたからな」 主人公の名前は鉄龍牙(くろがねりゅうが)なのに リュウちゃんではなくリョウちゃんとなって…
[一言] くっそwwww 無駄に戦闘力の高い阿呆相手の命懸けのハッタリ口八丁口車!
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