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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第3話 叢雲の謎と、妖の探すもの
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伝説を超えろ

「……そう言えば、ムラマサたちは初代の時代を知っているかのようなことを言っていたな」


 ふと、あくせくと働く彼らの仕事を眺めながら、思い出したことを呟く。


 気になっただけ、そこに意味はないと言われてしまえばその通りではあるのだが――。


「なんだ、そんなことが気になったのか」


 と、考え事をしていればムラマサの一人が声をかけてくる。そしてその言い方は――。


「何百年も生きていた、なーんていってるように聞こえるんだが?」

「あぁ、生きていた」


 ムラマサの一人のその言葉に、俺は驚きを隠せない、等と言うつもりはない。妖という人知を超えた存在はいるし、俺含めて前世の記憶を持って超常的な力を振るう、そんな転生者がいる。ならばそれだけの期間生きている人間などというのも、まぁ考えられない話ではない。


「……うん、あの日からずーっと生き続けている」

「俺たちはさ、人じゃない」

「……神様、いや精霊か? まぁ、妖とは違う人間たちからすれば、そして俺たちからしてもよく分からないものだ」


 だから、数百年も前の時代から生き続けている。そもそもヒトでないのだから、ヒトの尺度で物を考えるのは間違っている。


 実に簡単な話だ、おそらく彼らにとっては――。


「まぁ、つい最近の事みたいなもんだよ」

「ふふっ、いろいろな奴がいて面白い……、それが生きるってことだな」

「年寄みたいなことを言うんじゃない、そんなことを言う奴はすぐに死ぬ」


 彼らはきっと多くの死を見てきたのだろう。それこそ、経験したくないような別れを幾度と経験していたのだろう。


 ……いや、そもそも叢雲を作るときに――。


「まったく、一つの兵器を作るために何人死んだことか」

「希望の明日(みらい)を作るために、それこそ幾千、いや幾万……、もっとか……」

「人柱を作らねばならなかった」


 叢雲に力を託した人たち……か。


「幸せになれるはずだった、あぁあいつらは言っていたっけか」

「適当なところで、スローライフでも送っていければそれで幸せだー」

「それこそ、バカみたいな願いを持つ者もいたが、ただ一人としてその願いを叶えることはなく死んだ」

「……あぁ、初代将軍すらも願いは叶っていなかった」

「俺たちはあいつの、平和な世界って願いが叶ったもんだと思っていた」


 第二次人妖大戦、俺たちの未来に確かに迫っているもの。


 しかしながら、それこそ自然現象でしかない妖の存在を、どうにかできる方法何てあるんだろうか。


「……できるって信じてないと、遣り切れないだろう」


 あぁ、それはそうだ。方法があるかどうかなんてものよりも、あると信じることそのものの方が大事だ。


 たとえどんな願いもかなえられる力があったとして、それで世界平和何て願ったとして……、本当に世界が平和になるとは到底思えない。


 そりゃそうだ、神様みたいな力で世界を平和にしたところで、そこに住んでいる人間の心が変わるわけではない。それは無論妖だって、今おれの目の前にいるムラマサの面々だって変わらない。一人一人が平和を求め、行動をしていかなければならない。


 それに、与えられただけの平和に何て価値はない、初代将軍もそのことを理解していたはずだ。




「さてと、修理はあと数日で完了する」


 さて、修理が始まって、それこそすでに数日は経過していた。言葉にすると長く感じるが、モノを直すにはそれ相応の時間がかかる、ということを考えればむしろ短いとすらいえるだろう。


 なにせ、全長30mの巨体が、人間と同じように動くのだ。基礎技術に関しては明確に、前世の日本に劣っている世界で、前世の日本にすらありはしなかった代物を作り出す。と、考えれば叢雲が当時どれだけの時間をかけて作られたのか、想像するのもバカバカしくなってきた。

 そんな代物の整備と考えれば、これまた長い時間がかかるだろう。さすがに一から作るよりかはマシだろうが、1日で終わる仕事でないのはよく分かっていた。


「……が、叢雲はともかく鉄龍牙……、お前は万全ではない」


 ムラマサの一人が語る言葉は、確かに俺を納得させた。そうだろう。


 パイロットとして、叢雲の力を全て引き出せているとは到底思えない。なにせ――。


「初代将軍は妖の軍団を相手に、切った張ったの大立ち回り。上級相手にもまるで怯むことなく無双の世界だった」


 初代の活躍を記した書物の一つに描かれていた、脚色されているであろうそれを口にした。できることならば、それこそ盛りすぎだと現実を知る彼らに告げてもらいたくて語った言葉は――。


「初代の過小評価のし過ぎだ」


 意図も容易く崩れ去った。俺が100だとするのならば、1万……、いやもっと差があるのだろう。それこそ俺なんかよりも、初代様の時代の物語の方が、多くの人が求めるのではないだろうか。そう思わせるほどだ。


「だが、だからこそお前も強くなれる」


 だからこそ、俺は彼らの言葉に救われた。




「そう言うわけでお前、鉄龍牙にはある仕事を任せたい」

「ある仕事?」


 何がそう言うわけで仕事を任されるのか、俺にはさっぱり分からないが。きっとムラマサにとっては繋がっているのだろう。そう考え――。


「このイーズモのある場所に、ちょっとした宝がある。そう言われていてな、そいつを探し出してほしい」


 まるで宝探しの冒険だ、聞いた話から考えつつも、なぜ俺が強くなることにつながるのか、これが分からないでいた。


「実のところ俺たちはもちろん、初代たちの時代でも捜索活動が行われ、見つからないまま終わったんだ」

「探し物を探す、と言えば簡単に聞こえるが……イーズモ全域が捜索範囲、大蛇に見つかればひとたまりもない……、つまり――」

「非常に高度な鍛錬になると」


 なんとも恐ろしい話だ。一歩間違えば死ねと言っている。というか、一歩間違わなくても死ぬ。


「だからやるんだろ」

「あぁ、この程度できないならば死んだ方がいい」

「お前は初代を越えなければならない」


 初代将軍ですら、2度目の妖の異常発生という事態を阻止する術はなかった。ならばそれを乗り越えた偉大なる英雄となる必要があり、初代以上の偉業を為す必要がある。


 ならばその探し物は実に都合がいい、初代将軍が為せなかった偉業に挑戦するのだから。


「へへっ、そっちもしっかりと仕事を頼むぜ」



 *




「行ったか」


 ムラマサたちに、私の助力もダメだと告げられた以上、私はムラマサの工房で待つことになる。下級妖相手でも、まだまだ生身では勝てるかどうかわからないというのに。


「心配するのは分かるがな、男の子ってのはそう言うもんなんだよ」

「死ぬほどの馬鹿をやって、それで成長していくのさ」


 彼らの言葉はまるで実際に経験したかの様で、容姿ではなく実態を見ねばならないと首を振る。子供に見えるが私よりも遥に年上の先人だ。

 ならば、きっと何人も何人も見てきたのだろう。


 その余裕を感じ取り、自分がまだまだ未熟だということを理解すれば、今自分にできることを増やさねばならないと、即座に考える。


 そこで私は、少し試してみることにした


「……ふむ、しかし本当は何日も変わらないのだろう?」

「まぁ、壊れた部品を交換するだけだからな、俺たちならば数時間で終わる」


 やはり、実際の所そうなのだろうとは思っていた。


 いつ終わるかもわからない鍛錬である、だがもし万が一だ、一瞬で終わってしまった場合、叢雲の整備は終わってませんでしたぁ、なんてなってしまうと、それこそ台無しではないか。


 だから、いつ鍛錬という名の、探し物が見つかっても問題ないようにしてあるのだろう。


「……依頼をしてもいいか?」

「あー、人柱は用意できないぞ?」


 彼らも察したのだろう、叢雲の根幹となるものは用意できていないのだと告げる。


 つまるところ、私が求めたのは――。


「新たなる絡繰武勝は無理か」

「……中級ならともかく、あいつが見据える先の先まで考えると、俺たちの発想じゃ作るだけ無駄なのさ」


 難儀なものだ、もっと優れた発想がなければ……、私には何もできない。

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[一言] ムラマサたちは妖精さん的なあれか…… 絡繰武勝2号機は何がきっかけになって生まれますかねぇー
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